イルン幻想譚

琉斗六

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ep.3:迷惑な同行者

7.貪欲、または向上心【1】

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「貴様は魔導士セイドラーに興味は無いのかえ?」

 今晩の宿を取るつもりの町に向かって、街道を歩きながらタクトが言った。

「俺は、剣技を極めることを目的にしている。それにおまえは、持たざる者ノーマルであっても、微量の魔力ガルドルは持っていると言うが、実際に感じたことはない。きっと、俺には使えないんだろう」
「寝ぼけたことを言うでない」
「寝ぼけてなどいない。子供の頃に "素養無し" の判定も受けている。判定は気量計ガルドメーターを使っていたから、不正は出来ないぞ」
特殊技能スキルは、気量計ガルドメーターで判別できぬ。魔力持ちセイズだったとして、いざともなれば改ざんも可能であろう」
「それも院長が手を回したと疑うのか? おまえは一体、俺の後見人をなんだと思ってるんだ?」

 マハトは、既に怒る気にもなれず、呆れた顔でタクトを見た。
 しかし逆に、更に呆れた顔で溜息をかれてしまった。

イルダナハの一族にとって、身分が露見するのは即、死を意味した。貴様のひたいヘンジは、昔はぼやけた痣のようだったと言うではないか。最初の洗礼を受けるまでは、魔力持ちセイズであることを隠す仕事をしていた可能性もあるじゃろう」
「またそんな、こじつけのようなことを…。どっちにしろ、魔力ガルドルを扱うことに興味はないし、どうせ才はない」
「それは絶対に有り得ない話じゃな」
「まだ言い張るのか?」
「では訊くが、最近、町中まちなか獣人族セリアンスロウを良く見かけると思わぬか?」

 問われてマハトは、少し考えた。

「そう言われると、頭の上に動物の耳が付いていたり、尻に尾っぽがあったりするものを見かけるな…」
「思い出せ。ヘタレは獣人族セリアンスロウは、幻像術ブリンディを使って人間リオンの町に紛れ込んでいる…と言っておったろう」
「そういえば、そうだな」
「つまり、禊鎧場ネメトンを巡るうちに魔力ガルドルが高まった貴様は、獣人族セリアンスロウ程度の幻像術ブリンディなら、容易に見破れるようになっておるのよ」
「そうだったのか?!」

 タクトに呆れ果てたような顔をされたのは不愉快だったが、これはさすがに言い返せない。

「まさにサウルスの本領発揮だな…」
「しかし、このひたいの痣が魔力ガルドルを隠すヘンジだと言うなら、俺の後見人が書類を改ざんしたと言うおまえの憶測は、単なる誹謗じゃないか」
「上手く話をすり替えおったな。では、院長が手を回したという部分は、訂正をしようかの。その代わり、そのひたいのそれが、魔力ガルドルを隠すヘンジであり、貴様が魔力持ちセイズだと認めてもらおうか?」
「…判った。それは認めよう」

 マハトの返事がよほど満悦だったのか、タクトは勝ち誇ったような顔をしている。
 この会話は勝負ではなかったはずだが、マハトの胸には妙な敗北感が広がっていた。
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