イルン幻想譚

琉斗六

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ep.3:迷惑な同行者

7.貪欲、または向上心【2】

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「とはいえ、一つだけ儂も感服していることがある」
「なんのことだ?」
「そのひたいの文様だ。とりあえず、他に呼び名が無いのでヘンジと言ったが、貴様のそれは遺跡の石柱に呼応して、その度に形が変わったり、最初の洗水をするまでは単なる痣にしか見えなかったりと、近代の人間リオンが使うヘンジとは、全く別物と言ってもよい。儂が想像していた以上に、デュエナタンの持つじゅつの知識は高等のようだな」
「正直、そのじゅつがどんなに高等だったとしても、今の時代になっても子供に施す必要があるんだろうか? おまえの言う通り、没落したイルダナハに命の危険があったなら、当時は絶対に必要だっただろうとは思うが…」
「ヘタレが言っておっただろう。魔力持ちセイズは今でも、迫害を受けていると。当時よりは命の危険が弱まったとはいえ、全く無くなったとは言い難い。それに貴様も気付いておろうが、デュエナタンの禊鎧場ネメトンは、イルダナハが使わねば機能しない。逆に言えば、貴様を用いれば神癒の奇跡が使えるわけだ。あの泉の "癒やし" は、現代においても珍重される。国家権力などならば、是非とも囲い込みたいと考えるだろうの」
「だとしたら、余計に興味は無い」
「ふん」

 タクトの声は不満そうだった。

「俺が魔導士セイドラーになりたがらないのが、そんなに不満か?」
「貴様が鈍感サウルスで有ることが、不満なのじゃ」
「なぜ話がそうなる?」
「一般的な人間リオンならば、必ず欲しがるものを、貴様はちっとも欲しがらない。いっそ生きる気力が無いものならば理解も出来るが、貴様は人一倍貪欲なのに、その渇望に自分で気付いておらぬ…そこが不満なのじゃ」
「俺はおまえから見ると、そんなに貪欲か?」
「少しでも見る目のあるものならば、そう言うであろうよ」
「そして食い意地サウルスか」
「事実に基づく表現だろう。最も、貴様のような "イイコ" には、貪欲と言う表現は、下品で納得出来かねるのかもしらんがな」
「どういう意味だ?」
「そうだな…」

 タクトはそこで、一度言葉を切った。

「例えば、貪欲を向上心に置き換えたらどうじゃ?」
「確かに、向上心なら人一倍あると、修道院でも言われてきた。だが、食い意地が向上心なのか?」
「向上心というのはな、おのれの内側から湧き上がる、熱烈な欲望のことじゃ。修行の旅をし、自身を鍛えることに情熱を注ぐ…貴様のその生き様こそ、まさに貪欲そのものではないか? しかし貴様は、その内にあふれる渇望に気付かず、人間リオンならば欲しがって当然の欲には、興味が無いという顔をしておる。じゃがそれは、単に貴様が本当に欲しいと思っている、自分の本音に気が付いておらんということだ。それをもってして、儂は貴様を "鈍感サウルス" と呼び、不満に感じておるのだ」

 ごちゃごちゃと御託を並べ立てられたが、結局タクトが何に不満なのかよく解らない。
 ただ、自分が気の回らない性格だという自覚はある。
 肉の味を細かく批評してしまったのも、事実だ。
 となれば、タクトの指摘がまとを射ていると認めざるを得ず、結局マハトはなにも言い返せなかった。
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