My Sweet Teddy bear

琉斗六

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 そんな俺とハルカの関係が、ここまで親密になったのも、やっぱりハルカが俺に拘ったからだ。
 他人から見れば俺は『色情狂』みたいに、やたらと人をベッドに誘う。
 何度もいうが、俺は他人の温もりがないと寝付けないだけで、別にセックスが好きなワケじゃない。
 でも誰かと共に朝まで過ごそうとすると、それは必然のオマケとしてついてきてしまう。
 お陰で俺は、女のコに対して『異様に手の早い男』という、なんだか全然ありがたくないウワサを立てられていた。
 そしてそれはもちろん男の場合も同じ事だから、『誘えばいくらでもやらせてくれる尻軽』という、訳の解らないレッテルまで貼られていたのだ。
 俺をまったく理解していない輩の中傷なんて、痛くもなかったから、そんな事どうでも良かったけど。
 ついでに言わせてもらえば、俺は『現在が楽しければ後の事はあまり深く考えない』快楽主義の人間でもあった。
 もっともそう考えでもしなかったら、夜毎テディベアを調達する度に、罪の意識とやらに囚われなきゃならなくなってしまうから、自己防衛本能ってヤツなのかもしれないけど。

 ハルカと付き合い始めたある時、ハルカのバイトの時間が数日続けて夜勤になった。
 今でこそ音楽で飯が食えるようになった俺達だが、当時はバンドを維持する為に働かなければならなかったから、同じバンド仲間といえど、同じ生活のリズムは望めなかった。
 もちろんバンドが最優先だから、まともな職に就く訳にもいかず、みんなフリーターで。
 当然勤め先は、コンビニとかガソリンスタンドと言った類だったから、夜勤を回されるのはありがちだった。
 俺は俺の都合で頻繁にハルカを呼び出したりアパートに行ったりしていたから、他人から見れば、かなり傍若無人に振る舞っているように見えただろう。
 でも俺には俺の範疇での遠慮というか、気遣いがあったから。
 そうして帰宅の遅くなる夜は、逢うのを控えていた。
 俺は確かに甘えた人間だし、同性とベッドを共にするようなモラルに欠けた人間ではあるが、別に常識がない訳じゃない。
 だから夜勤をして疲れて帰ってきた人間にまで、ベッタリと甘えるような事はマズイって事くらいは察しがついた。
 でも、だからといって、自分の安眠を犠牲に出来る程の可愛い性格もしていなかったから、街に出て女のコをナンパしたり、男を引っかけたりしてた。
 本音を言えば、新しい誰かと夜を過ごすのはあまり好きじゃない。
 相手が女のコなら、こっちがしてやんなくちゃならないし、男だったら、何をされるか判らないってリスクがあるし。
 他人がどう思っているか知らないけど、俺は別に性豪でもなければ底なし体力の持ち主でもない。
 夜毎相手を取り替え続けるって事は、既に『快楽』じゃなくて『苦行』なんだ。
 でも、コトをライトに済ませて眠る事が出来るなら、その方が俺にはマシだったから。
 俺はハルカを呼び出せない夜を、街で知り合った誰かと朝まで過ごす事にしていた。
 ちなみにコレは余談だが、そう言った誰かを誘うのに、俺は苦労をした事が無い。
 それは、俺の顔が一般的に言うところの『美形』ってヤツだからだ。
 ひとつ言っておくが、俺は別にナルシストではない。
 ただ、俺は俺が他人に好意を持たれやすい器量をしているってコトを、ちゃんと自覚してるってだけの話。
 だから、ハルカに逢えない夜が続いた時、俺はいつも通りに街でひっかけた誰かを自分のアパートに誘った。
 もう、誰一人顔も覚えていない。
 たぶん、名前も訊かずにコトだけ済ませてたんだろう。
 翌日、バンドの事務連絡の為に、朝からハルカが俺のアパートを訪ねてきた。
 平日の朝だったから、相手の男は俺のアパートから出勤していった。
 きっとハルカは、部屋の外でそいつとすれ違ったんだろう。
 俺のアパートは通りに面した安普請だったから、そいつが俺の部屋から出てくる所が全部見えていたらしい。
 オマケに応対に出た俺は、昨夜の痕跡を片付ける事も隠す事も一切しなかったから、ハルカが昨晩何があったかを伺い知るのは至極容易だったと思う。
 寝起きの布団から抜け出た姿そのままに、トランクス一丁で朝飯を食っていた俺に対し、ハルカはおもむろに向かい側に座り、俺の顔を見つめてきた。

「どうして?」

 開口一番、ハルカはそう訊ねてきた。

「なにが?」
「どうして、そんなコトするの?」
「そんなコト?」

 ハルカはクルリと室内を見回してから、再び俺の顔をジッと見つめてくる。

「シノさんは、俺と付き合っているんでしょう? ならなんで、俺の知らない人がシノさんの部屋から出てくるの?」
「俺は別に、ハルカの所有物じゃないだろ」
「それはそうだけど、でもシノさんは…」
「うるせェなっ、いーじゃんか、別に。それがイヤなら、俺とは付き合えねェんだよっ!」

 そこでハルカとクサクサするような口論を展開するのが面倒だった俺は、かなり乱暴な口調で吐き捨てるように言った。
 実を言えばそういう事…つまり、『誘った誰か』と『その時つき合っている誰か』が鉢合わせして、モメ事になる…なんて事も、俺にとっては日常の一部だったから。
 俺にしてみれば、『ダメになるなら、さっさと済ませてしまいたい』って気持ちしかなかった。
 本音を言えば、俺だってそんなモメ事は避けたいし、相手に俺を理解してもらいたいと思う気持ちだって持っていたけど。
 でもそれはどうやら無理な注文というものらしく、今まで付き合った女のコは、誰一人として解ってはくれなかった。
 こうした状況になった時、彼女達の関心は『裏切り行為に対する怒り』にのみ集中していて、こっちの話なんて誰も聞いちゃくれない。
 例え話を聞いてくれたとしても、常に一緒にいる事なんて不可能だと言われてしまうのがオチだったから。
 だから俺は、当の昔に『俺を理解してもらう為の努力』なんてしなくなっていて、投げやりにこの場を終わらせてしまうのが常套手段だった。
 ちなみに今までのガールフレンドは、ハルカに言ったのと同じような事を言うと、ひどく傷ついたような顔をするか、泣いて飛び出していくかのどちらかだった。
 だから、ハルカともこれでオシマイだと、俺は思った。
 まぁ、まさか男のハルカが泣きながら部屋を飛び出していくなんて事はしないだろうが、どっちにしたってダメになるのだろうと思っていた。
 ところがハルカは、怒る事も呆れる事もしないで、やっぱりジッと俺の顔を見つめてきた。

「なんで呼んでくれないの?」
「誰を?」

 ハルカは立ち上がると、俺の隣に改めて座り直した。
 そして手を伸ばすと、ふてくされている俺の肩を抱いて囁くようにこう言ったのだ。

「俺、シノさんに呼ばれたら飛んでくるよ? それとも、俺じゃない誰かじゃなきゃダメだったの?」
「別に。…でもハルカはずっと夜勤で、帰りが遅いって言ったじゃんか」
「シノさんが俺を呼んでるなら、仕事なんて放り出して来ちゃうに決まってるじゃない。シノさんが望むなら、一晩中でも抱いてあげる。だから、この次の時はあんな誰かじゃなくて、俺を呼んで」

 俺は、マジマジとハルカの顔を見てしまった。

「それ、本気で言ってるのか?」
「もちろん本気だよ。俺はシノさんにくびったけで、ワガママ言ってもらうのを手ぐすね引いて待ってるんだよ? シノさんは俺の絶対の天使で、シノさんが俺に笑いかけてくれる事だけを望んでいるんだもの、当然じゃない」

 そんな台詞を真顔で言われて、俺はかなり驚いたけど。
 でも、少しだけ期待も持って…。

「じゃあオマエ、俺とアレをしないでただ一緒に寝てくれるか?」

 ずいぶん前に諦めて、訊ねる事をとうに止めてしまった質問を、ハルカに向けてみた。
 試しに何人かのガールフレンドにもしてみたその質問に対し、彼女達は、最初は笑ってとても簡単に承諾してくれるのに、なぜかその時になると怪訝な顔をして、挙げ句に『泣く』か『怒る』かしてしまったのだが…。

「なんだい、それ?」

 ハルカは、まず最初に怪訝な顔をした。

「…なんだって訊かれると困るケド、俺、誰かが一緒にいないと眠れないんだ」
「え…? でも、それじゃあ今までどうしてたの?」
「なんでンなコト訊くんだよぅ、ハルカだって知ってるだろ。声掛けたオンナとその日のうちに寝る『超・手の早い男』とか、グルービーのオンナより簡単に尻を貸す『スーパー尻軽』とか、みんな俺のコト、勝手な名前で呼んでるじゃんか。オマエだって俺と付き合うって言った時、散々みんなにやめろって言われたろ?」
「でも、そんなの関係ないよ。だってみんなはシノさんのコトただの好き者だって言ってたケド、俺にはそんな風に見えなかった。こうやって、シノさんに触れられるようになってからだって、そう思ってたよ。…俺、騙されてるの?」

 ジッと覗き込んでくるハルカから顔を背け、俺は返事をしなかった。
 そういう質問に答えている自分ってのが、ものすごく格好悪いような気がしてイヤだったから。
 でも、そうしたガキ臭い俺の態度に怯まず、ハルカはそっと俺の身体を引き寄せて、優しく抱いてくれた。

「なんとなくだけど、俺はシノさんの事を、みんなが言ってるみたいな理由で誰とでも寝てるんじゃないって、思っていたんだけど。そう思ってる俺が、騙されてるの? 俺が付き合ってた東雲柊一は、猫被りの偽物なの?」

 顎に手を掛けられて、ツイッと顔を引き寄せられる。
 目の前にハルカの、とても優しい表情を浮かべた顔があった。

「…ホントは、セックスするのあんまり好きじゃない…」

 目を伏せて、俺はハルカの顔から目を逸らしてしまう。
 なんか、ハルカの事を真っ直ぐ見る事が、出来なかった…。

「…でも、朝まで一緒にいるには、そうするしかないじゃないか」

 怒ったように言い放った俺の顔を、再び自分の方を見るように上げさせると、ハルカはそっと唇を重ねてきた。

「もう、あんな誰かに声掛けたりしちゃダメだよ? これからは、いつも俺が側に居てあげるから。分かった?」

 ハルカは俺をギュッと抱き締めて、やっぱりとても優しく髪を梳いてくれたり、ソフトなキスをくれたりしてくれた。
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