My Sweet Teddy bear

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 その日は、昼からスタジオに入った。
 昨日に比べればだいぶ調子のノッた俺は、どうにかマシに歌う事が出来て、とりあえずいくつかのテイクを録る事が出来た。
 そうして一息入れた3時頃、再び俺の携帯が鳴った。

「シノさん、どうした。浮かない顔して」

 スタジオに戻ってきた俺を見て、新田サンが訊ねた。

「別に」

 答えて、俺は乱暴な仕種で椅子に腰を降ろす。

「電話、何処からだったんだ?」
「関係ねェだろ」
「放っとけよ。どうせ、ハルカからなんだろ。今夜も帰れ無いって程度の理由に決まってんだ。そいつのゴキゲンが悪いのは」

 図星を指され、俺は思わずショーゴを睨み付けてしまう。

「ほらみろ。レンも新田サンも、相手にすんなよ。そんな甘ったれに付き合ってたら、身が持たねェぜ」

 ショーゴは立てかけてあった自分のベースに手を伸ばすと、弦を軽く弾いてみせる。
 人当たりがよく温厚な人物としてそれなりの人望のあるショーゴだが、俺にだけはとても厳しい。
 でもそれは、幼なじみであるショーゴは良くも悪くも俺の事を知っていて、そして解っているからなのだが。
 幸か不幸か、ショーゴに男と遊ぶ性癖は無い。
 それはつまり、解ってくれても俺を慰めてなんかくれないって事なのだ。
 俺は甘ったれだし不精者だから、何かトラブルが発生しても滅多に自分で解決した事は無い。
 まだ子供の頃は、苦情は真っ直ぐ親の元にねじ込まれたが、ある程度の年齢を重ねてくると、それは何故か『友人だから』という理由でショーゴの所へねじ込まれるようになった。
 そうなってくると、ショーゴの都合も俺の都合も関係ない。
 否が応にもショーゴは、俺のトラブルに巻き込まれる事になる。
 人が好く、実直で、オマケに常識まで備え持っているショーゴは、幼なじみの俺を簡単に見捨てる事も出来ず、結果20年以上に渡って割を食わされ続けてきたのだ。
 しかも、トラブルの原因が俺の甘ったれた性格の所為だって事は、もう弁解の余地無く明らかなのに、ちっともそれを改善しようとしない俺に、ショーゴが腹を立てるのは至極当然の成りゆきで。
 だからショーゴの態度をなにも知らない他人は冷たいと言うけれど、そんな事は全くないと俺は思う。
 ただ、それをいくら俺が解ったからって、ショーゴはちっとも嬉しくなんかないだろうけど。

「始めようぜ。休憩は、終わりだ」

 弦の微調整を済ませたショーゴが、ふてくされている俺を無視するように言った。
 俺にしてみれば、ショーゴがそうした態度をとる理由は解っているけれど、だからといってへそを曲げずにいる事は出来ない。
 それを受け入れられるくらいなら、今頃こんな事にはなってないだろう。
 だからそんなショーゴが気に入らなくて、余計にやる気を無くしている俺の肩に、レンがポンッと手を掛けてきた。

「ハルカが帰ってくる前に、片付けちまおうぜ。アイツが帰ってきたら、一人でスタジオこもらせて、俺達は休暇でもとろうよ。な?」

 宥められて、俺はようやく腰を上げた。
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