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第22話
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多聞が調整室からスタジオの中に戻ると、柊一は松原となにやら熱心に語り合っている。
自分が側に歩み寄っても気づかない二人に、少しムッとして、椅子を掴むと乱暴な仕草で二人の側に置いた。
「何だ、納得いく音になったの?」
ようやくこちらを向いた松原が、多聞に訊ねた。
「まぁ、あの曲は一応、あんなモンでイイよ。後で全部通しで聞いて、少し調整するかもしれないけどな。それよか、二人でなに話してたの?」
不機嫌な顔を隠しもせずに詰め寄ってくる多聞に、松原は、柊一が多聞の連れてきた『お気に入り』だった事を思い出す。
「大したコト話してねェよ。どんなミュージシャンが好きかとか、どの曲が好きかとか…そんなコトだよな」
そう言った柊一が、松原に相づちを求める隙も与えずに、多聞は柊一に詰め寄った。
「だから、具体的にどんな話だよ。教えてくれたって、いーだろ」
そんな多聞の態度にはありありと、柊一にも今まで連れ歩いていた女性達と同じように自分と接するように、要求している事が伺えた。
しかし当の本人である柊一は、普通の友人同士の会話そのままに、その場にいる松原にも話しかけてくるのだ。
ある意味それはひどく迷惑な状況だったが、でも松原はあえてその場を離れようとはしなかった。
自分の言葉では、多聞は動かない。
しかし、気を引きたくて仕方ない相手になら、どんなに横暴な人間だって折れざる得なくなるはずだ。
柊一の存在が、多聞にとって良い薬になると松原は考えたのだ。
やっきになって柊一を独占しようと試みては、空振りに終わる多聞の様子をしばらく眺め、頃合を見計らって松原は言った。
「おいレン、いつまで油売ってるつもりだよ。次、どうするか決めなきゃ、みんな動けねェで待ってるぞ」
待機しているメンバー達は、少し前から多聞からの次の指示を待って、こちらにチラチラと視線を寄越して来ている。
多聞はますます機嫌を損ねたような表情になって、少しの間身動きもせずにタバコを吹かし続けていたが、不意に何かを思いついたように、ニィッと笑ってフィルターを灰皿に押し付けた。
「オマエらはさ、今まで息抜きしていたかもしれないけど、俺はずっと、仕事してたんだぜ」
「何が言いたいんだよ?」
「少し、気分転換する」
黙って成り行きを見ていた柊一を促し、多聞は立ち上がった。
怪訝な顔の周囲を無視して、多聞は柊一をヴォーカルマイクの前に立たせた。
「ちょっと歌ってみろよ」
突然そんな事を言われ、柊一は驚いて多聞を振り返った。
「おい、冗談だろう…?」
「いーから、いーから。オマエが素人だってこたぁ、ちゃんと判ってるから。カラオケでもするつもりで、軽く歌って見ろよ、な」
気の進まない顔の柊一を、無理にそこに立たせたまま、多聞は立てかけてあった自分のギターを手に取った。
「ほら、ショーゴも準備して。そんで柊一、曲は何がいい?」
問いかけに、柊一はしばらく天井を見つめて考えていたが、やがて目線を多聞に戻すとぶっきらぼうに言った。
「アンタが先刻からずっと演奏してた、あの曲で良い」
「えっ?」
返された答えに、松原も驚いて思わず柊一を見る。
「ずっと演奏してたって…、今レコーディングしてるコレか?」
楽譜を指す多聞に、柊一は大きく頷いて見せた。
「そう。それ」
視線を逸らしもせずに不遜に答える態度を見ていて、松原はふと、柊一はとんでもない負けず嫌いなのではないかと思った。
自分が側に歩み寄っても気づかない二人に、少しムッとして、椅子を掴むと乱暴な仕草で二人の側に置いた。
「何だ、納得いく音になったの?」
ようやくこちらを向いた松原が、多聞に訊ねた。
「まぁ、あの曲は一応、あんなモンでイイよ。後で全部通しで聞いて、少し調整するかもしれないけどな。それよか、二人でなに話してたの?」
不機嫌な顔を隠しもせずに詰め寄ってくる多聞に、松原は、柊一が多聞の連れてきた『お気に入り』だった事を思い出す。
「大したコト話してねェよ。どんなミュージシャンが好きかとか、どの曲が好きかとか…そんなコトだよな」
そう言った柊一が、松原に相づちを求める隙も与えずに、多聞は柊一に詰め寄った。
「だから、具体的にどんな話だよ。教えてくれたって、いーだろ」
そんな多聞の態度にはありありと、柊一にも今まで連れ歩いていた女性達と同じように自分と接するように、要求している事が伺えた。
しかし当の本人である柊一は、普通の友人同士の会話そのままに、その場にいる松原にも話しかけてくるのだ。
ある意味それはひどく迷惑な状況だったが、でも松原はあえてその場を離れようとはしなかった。
自分の言葉では、多聞は動かない。
しかし、気を引きたくて仕方ない相手になら、どんなに横暴な人間だって折れざる得なくなるはずだ。
柊一の存在が、多聞にとって良い薬になると松原は考えたのだ。
やっきになって柊一を独占しようと試みては、空振りに終わる多聞の様子をしばらく眺め、頃合を見計らって松原は言った。
「おいレン、いつまで油売ってるつもりだよ。次、どうするか決めなきゃ、みんな動けねェで待ってるぞ」
待機しているメンバー達は、少し前から多聞からの次の指示を待って、こちらにチラチラと視線を寄越して来ている。
多聞はますます機嫌を損ねたような表情になって、少しの間身動きもせずにタバコを吹かし続けていたが、不意に何かを思いついたように、ニィッと笑ってフィルターを灰皿に押し付けた。
「オマエらはさ、今まで息抜きしていたかもしれないけど、俺はずっと、仕事してたんだぜ」
「何が言いたいんだよ?」
「少し、気分転換する」
黙って成り行きを見ていた柊一を促し、多聞は立ち上がった。
怪訝な顔の周囲を無視して、多聞は柊一をヴォーカルマイクの前に立たせた。
「ちょっと歌ってみろよ」
突然そんな事を言われ、柊一は驚いて多聞を振り返った。
「おい、冗談だろう…?」
「いーから、いーから。オマエが素人だってこたぁ、ちゃんと判ってるから。カラオケでもするつもりで、軽く歌って見ろよ、な」
気の進まない顔の柊一を、無理にそこに立たせたまま、多聞は立てかけてあった自分のギターを手に取った。
「ほら、ショーゴも準備して。そんで柊一、曲は何がいい?」
問いかけに、柊一はしばらく天井を見つめて考えていたが、やがて目線を多聞に戻すとぶっきらぼうに言った。
「アンタが先刻からずっと演奏してた、あの曲で良い」
「えっ?」
返された答えに、松原も驚いて思わず柊一を見る。
「ずっと演奏してたって…、今レコーディングしてるコレか?」
楽譜を指す多聞に、柊一は大きく頷いて見せた。
「そう。それ」
視線を逸らしもせずに不遜に答える態度を見ていて、松原はふと、柊一はとんでもない負けず嫌いなのではないかと思った。
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