ギョーザとビールとロックンロール

琉斗六

文字の大きさ
21 / 30

第21話

しおりを挟む
「東雲君だっけ? そりゃいーわ。ちゃんと解ってるんじゃん、アレのこと」
「別に、知りたくもなかったけどね」
「なんだ、ずいぶん突き放した言い方するじゃない」

 少しずつ興味をそそられて、側にあった椅子を引き寄せると、松原は柊一の隣に腰を下ろした。

「そう?」

 ちょっと首を傾げてから、柊一は松原に向き直る。

「君は、いつもアレが連れてるのとは違うな。もっとも、だからこそ俺もこーやって話する気になったんだけど」
「連れてる?」

 松原は頷いて、大きめの溜息をついて見せた。

「ありゃ、一種の病気だよ。その時に一番気に入ってるヤツを、ところ構わず連れ歩くのさ」
「…それって、子供が買ったばかりのオモチャを見せびらかすのに似てないか?」

 柊一の鋭いツッコミに、松原は吹き出した。

「まぁ、そうだ」
「そうかぁ。割とガキっぽいトコあるとは思ってたけど、そこまでだったとはな。そーいえば離婚争議中とか言ってたけど、やっぱ奥さん、その所為で?」
「う…ん。まぁ、な。…ホントのところは、夫婦間の問題だし、俺なんかには判らないけどさ。ただ、タクミちゃんとは俺も割と古い付き合いだし。…アイツの方が悪いと、俺は思うよ」

 多聞が結婚したのは、まだ松原と一緒に活動をしていた頃だった。
 当時、既にロックシンガーとしての人気を確立していた巧実嬢のサポートに入ったのがきっかけで多聞と出会い、多聞の強引な口説きによってゴールインしたのだ。
 故に、松原と巧実嬢の付き合いは、多聞と巧実嬢の付き合いと同じ年月になる。

「争議中って、なんかモメてるの? 奥さん、別れたくないとか?」
「なにでモメてんのか、俺は知らないよ。もっとも、俺がタクミちゃんなら『別れたくない』とはカケラも思わないけどな」
「…まだ、あんまりよく知らないけど。…俺も多分そー思うだろうな」
「…なぁ、アイツといて大丈夫かい? あんまり迷惑ばっかりかけるようなら、少し言ってやろうか?」
「う…ん。まぁ、確かに一方的だとは思うけどさ。最初なんか、スゲェ迷惑だって思ったけど…。でも、フツーに話す分には面白いし、それにいい音作るよな、アイツ。ミュージシャンにとって一番大事なのはそこだから」

 笑って答えた柊一の様子から、こちらが思うほどの迷惑を感じていないらしい事に気づく。

「レンの事、どう思ってる?」
「どう…って?」

 少し思案した後、松原は思い切って言った。

「つまり、アンタはアレのコトを、恋人って思ってるワケ?」
「ああ、それ…ね」

 少し困ったみたいに、柊一は目線をそらす。

「正確に言えば思ってないよ。ただ、あっちはさ。ずいぶん執心してるみたいでしょ? 何であんなに、俺に拘ってるのか解ンないけど…でも俺って人間を必要としてくれてるみたいだから。そーゆーのって、なんか、応えてやんなきゃいけないような気になるじゃん」
「それってつまり…しょーがないから構ってやってるって事?」
「まさか、そこまで人間出来てないよ。俺だってそれなりに面白い部分がなくちゃ、やってられないって。確かに、アイツはかなりイカレてると思うよ。でも、あんなふざけたマネされてても、一緒にいてもいいや…って思ってる。…俺自身も、よく解ンないんだけど…」

 思いのほか柊一が多聞に好意を持っている事が解って、松原はふうんと頷いた。

「あんまり甘い顔してると、アイツはいくらでも駄々コネまくるからさ、言う時はビシッと言っといた方がいいぜ」
「それは大丈夫。俺も結構、我が強いから」

 笑顔を見せた柊一に頷いて、ふと松原は周りの様子に気がついた
 多聞が調整室に入ってから、ずいぶん経つ。
 待たされているメンバー達は、それぞれ雑談などをしてはいるが、その実みんな、そっとこちらの様子を伺っている。
 みんなそれなりに「多聞の連れてきた新しい異邦人」の様子が、気になっているのだ。

「ひとつ忠告して置くけど…」

 顔は笑ったままなのに、声音だけを微妙に変えた松原に対し、柊一は怪訝な顔をした。。

「ここにいる連中は、悪い言い方をすればレンのシンパだ。思ったコト、あんまり簡単に口に出すと、よろしくないコトになるかもしれないぜ」

 何げない雑談のフリを装って、本当に必要な忠告をしてくれている松原の意図が分かって、柊一はそっとあたりに目線を回した。

「そんなに?」
「まぁ、な。…もっとも、だからって特に何かされる事もないだろうけどさ。少なくとも君は、レンの気に入りだから」

 最後の一言で、柊一は表情を不快な物に変える。
 そんな様子に、松原はまた笑んでしまった。

「そんな言い方するってコトは、少なくともショーゴさんはみんなとは違うってコトですよね」
「違うつーか…俺はレンの昔の仲間だからな。ずっと対等に物を言い合ってきたのに、今更掌返したみたいに崇め奉ったりするのも変じゃん。だからまぁ、今まで通りにしてるだけさ。アイツの才能には、俺だって敬意を表してるし」

 ふうんと頷き、柊一は調整室の多聞を見る。

「そうだね、アイツは確かに良いモノ持ってるし…、悪いヤツじゃないんだけど…」
「でも変態だ、ってか?」
「まぁ、そう」

 一拍おいて、二人は声を上げて笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...