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第21話
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「東雲君だっけ? そりゃいーわ。ちゃんと解ってるんじゃん、アレのこと」
「別に、知りたくもなかったけどね」
「なんだ、ずいぶん突き放した言い方するじゃない」
少しずつ興味をそそられて、側にあった椅子を引き寄せると、松原は柊一の隣に腰を下ろした。
「そう?」
ちょっと首を傾げてから、柊一は松原に向き直る。
「君は、いつもアレが連れてるのとは違うな。もっとも、だからこそ俺もこーやって話する気になったんだけど」
「連れてる?」
松原は頷いて、大きめの溜息をついて見せた。
「ありゃ、一種の病気だよ。その時に一番気に入ってるヤツを、ところ構わず連れ歩くのさ」
「…それって、子供が買ったばかりのオモチャを見せびらかすのに似てないか?」
柊一の鋭いツッコミに、松原は吹き出した。
「まぁ、そうだ」
「そうかぁ。割とガキっぽいトコあるとは思ってたけど、そこまでだったとはな。そーいえば離婚争議中とか言ってたけど、やっぱ奥さん、その所為で?」
「う…ん。まぁ、な。…ホントのところは、夫婦間の問題だし、俺なんかには判らないけどさ。ただ、タクミちゃんとは俺も割と古い付き合いだし。…アイツの方が悪いと、俺は思うよ」
多聞が結婚したのは、まだ松原と一緒に活動をしていた頃だった。
当時、既にロックシンガーとしての人気を確立していた巧実嬢のサポートに入ったのがきっかけで多聞と出会い、多聞の強引な口説きによってゴールインしたのだ。
故に、松原と巧実嬢の付き合いは、多聞と巧実嬢の付き合いと同じ年月になる。
「争議中って、なんかモメてるの? 奥さん、別れたくないとか?」
「なにでモメてんのか、俺は知らないよ。もっとも、俺がタクミちゃんなら『別れたくない』とはカケラも思わないけどな」
「…まだ、あんまりよく知らないけど。…俺も多分そー思うだろうな」
「…なぁ、アイツといて大丈夫かい? あんまり迷惑ばっかりかけるようなら、少し言ってやろうか?」
「う…ん。まぁ、確かに一方的だとは思うけどさ。最初なんか、スゲェ迷惑だって思ったけど…。でも、フツーに話す分には面白いし、それにいい音作るよな、アイツ。ミュージシャンにとって一番大事なのはそこだから」
笑って答えた柊一の様子から、こちらが思うほどの迷惑を感じていないらしい事に気づく。
「レンの事、どう思ってる?」
「どう…って?」
少し思案した後、松原は思い切って言った。
「つまり、アンタはアレのコトを、恋人って思ってるワケ?」
「ああ、それ…ね」
少し困ったみたいに、柊一は目線をそらす。
「正確に言えば思ってないよ。ただ、あっちはさ。ずいぶん執心してるみたいでしょ? 何であんなに、俺に拘ってるのか解ンないけど…でも俺って人間を必要としてくれてるみたいだから。そーゆーのって、なんか、応えてやんなきゃいけないような気になるじゃん」
「それってつまり…しょーがないから構ってやってるって事?」
「まさか、そこまで人間出来てないよ。俺だってそれなりに面白い部分がなくちゃ、やってられないって。確かに、アイツはかなりイカレてると思うよ。でも、あんなふざけたマネされてても、一緒にいてもいいや…って思ってる。…俺自身も、よく解ンないんだけど…」
思いのほか柊一が多聞に好意を持っている事が解って、松原はふうんと頷いた。
「あんまり甘い顔してると、アイツはいくらでも駄々コネまくるからさ、言う時はビシッと言っといた方がいいぜ」
「それは大丈夫。俺も結構、我が強いから」
笑顔を見せた柊一に頷いて、ふと松原は周りの様子に気がついた
多聞が調整室に入ってから、ずいぶん経つ。
待たされているメンバー達は、それぞれ雑談などをしてはいるが、その実みんな、そっとこちらの様子を伺っている。
みんなそれなりに「多聞の連れてきた新しい異邦人」の様子が、気になっているのだ。
「ひとつ忠告して置くけど…」
顔は笑ったままなのに、声音だけを微妙に変えた松原に対し、柊一は怪訝な顔をした。。
「ここにいる連中は、悪い言い方をすればレンのシンパだ。思ったコト、あんまり簡単に口に出すと、よろしくないコトになるかもしれないぜ」
何げない雑談のフリを装って、本当に必要な忠告をしてくれている松原の意図が分かって、柊一はそっとあたりに目線を回した。
「そんなに?」
「まぁ、な。…もっとも、だからって特に何かされる事もないだろうけどさ。少なくとも君は、レンの気に入りだから」
最後の一言で、柊一は表情を不快な物に変える。
そんな様子に、松原はまた笑んでしまった。
「そんな言い方するってコトは、少なくともショーゴさんはみんなとは違うってコトですよね」
「違うつーか…俺はレンの昔の仲間だからな。ずっと対等に物を言い合ってきたのに、今更掌返したみたいに崇め奉ったりするのも変じゃん。だからまぁ、今まで通りにしてるだけさ。アイツの才能には、俺だって敬意を表してるし」
ふうんと頷き、柊一は調整室の多聞を見る。
「そうだね、アイツは確かに良いモノ持ってるし…、悪いヤツじゃないんだけど…」
「でも変態だ、ってか?」
「まぁ、そう」
一拍おいて、二人は声を上げて笑った。
「別に、知りたくもなかったけどね」
「なんだ、ずいぶん突き放した言い方するじゃない」
少しずつ興味をそそられて、側にあった椅子を引き寄せると、松原は柊一の隣に腰を下ろした。
「そう?」
ちょっと首を傾げてから、柊一は松原に向き直る。
「君は、いつもアレが連れてるのとは違うな。もっとも、だからこそ俺もこーやって話する気になったんだけど」
「連れてる?」
松原は頷いて、大きめの溜息をついて見せた。
「ありゃ、一種の病気だよ。その時に一番気に入ってるヤツを、ところ構わず連れ歩くのさ」
「…それって、子供が買ったばかりのオモチャを見せびらかすのに似てないか?」
柊一の鋭いツッコミに、松原は吹き出した。
「まぁ、そうだ」
「そうかぁ。割とガキっぽいトコあるとは思ってたけど、そこまでだったとはな。そーいえば離婚争議中とか言ってたけど、やっぱ奥さん、その所為で?」
「う…ん。まぁ、な。…ホントのところは、夫婦間の問題だし、俺なんかには判らないけどさ。ただ、タクミちゃんとは俺も割と古い付き合いだし。…アイツの方が悪いと、俺は思うよ」
多聞が結婚したのは、まだ松原と一緒に活動をしていた頃だった。
当時、既にロックシンガーとしての人気を確立していた巧実嬢のサポートに入ったのがきっかけで多聞と出会い、多聞の強引な口説きによってゴールインしたのだ。
故に、松原と巧実嬢の付き合いは、多聞と巧実嬢の付き合いと同じ年月になる。
「争議中って、なんかモメてるの? 奥さん、別れたくないとか?」
「なにでモメてんのか、俺は知らないよ。もっとも、俺がタクミちゃんなら『別れたくない』とはカケラも思わないけどな」
「…まだ、あんまりよく知らないけど。…俺も多分そー思うだろうな」
「…なぁ、アイツといて大丈夫かい? あんまり迷惑ばっかりかけるようなら、少し言ってやろうか?」
「う…ん。まぁ、確かに一方的だとは思うけどさ。最初なんか、スゲェ迷惑だって思ったけど…。でも、フツーに話す分には面白いし、それにいい音作るよな、アイツ。ミュージシャンにとって一番大事なのはそこだから」
笑って答えた柊一の様子から、こちらが思うほどの迷惑を感じていないらしい事に気づく。
「レンの事、どう思ってる?」
「どう…って?」
少し思案した後、松原は思い切って言った。
「つまり、アンタはアレのコトを、恋人って思ってるワケ?」
「ああ、それ…ね」
少し困ったみたいに、柊一は目線をそらす。
「正確に言えば思ってないよ。ただ、あっちはさ。ずいぶん執心してるみたいでしょ? 何であんなに、俺に拘ってるのか解ンないけど…でも俺って人間を必要としてくれてるみたいだから。そーゆーのって、なんか、応えてやんなきゃいけないような気になるじゃん」
「それってつまり…しょーがないから構ってやってるって事?」
「まさか、そこまで人間出来てないよ。俺だってそれなりに面白い部分がなくちゃ、やってられないって。確かに、アイツはかなりイカレてると思うよ。でも、あんなふざけたマネされてても、一緒にいてもいいや…って思ってる。…俺自身も、よく解ンないんだけど…」
思いのほか柊一が多聞に好意を持っている事が解って、松原はふうんと頷いた。
「あんまり甘い顔してると、アイツはいくらでも駄々コネまくるからさ、言う時はビシッと言っといた方がいいぜ」
「それは大丈夫。俺も結構、我が強いから」
笑顔を見せた柊一に頷いて、ふと松原は周りの様子に気がついた
多聞が調整室に入ってから、ずいぶん経つ。
待たされているメンバー達は、それぞれ雑談などをしてはいるが、その実みんな、そっとこちらの様子を伺っている。
みんなそれなりに「多聞の連れてきた新しい異邦人」の様子が、気になっているのだ。
「ひとつ忠告して置くけど…」
顔は笑ったままなのに、声音だけを微妙に変えた松原に対し、柊一は怪訝な顔をした。。
「ここにいる連中は、悪い言い方をすればレンのシンパだ。思ったコト、あんまり簡単に口に出すと、よろしくないコトになるかもしれないぜ」
何げない雑談のフリを装って、本当に必要な忠告をしてくれている松原の意図が分かって、柊一はそっとあたりに目線を回した。
「そんなに?」
「まぁ、な。…もっとも、だからって特に何かされる事もないだろうけどさ。少なくとも君は、レンの気に入りだから」
最後の一言で、柊一は表情を不快な物に変える。
そんな様子に、松原はまた笑んでしまった。
「そんな言い方するってコトは、少なくともショーゴさんはみんなとは違うってコトですよね」
「違うつーか…俺はレンの昔の仲間だからな。ずっと対等に物を言い合ってきたのに、今更掌返したみたいに崇め奉ったりするのも変じゃん。だからまぁ、今まで通りにしてるだけさ。アイツの才能には、俺だって敬意を表してるし」
ふうんと頷き、柊一は調整室の多聞を見る。
「そうだね、アイツは確かに良いモノ持ってるし…、悪いヤツじゃないんだけど…」
「でも変態だ、ってか?」
「まぁ、そう」
一拍おいて、二人は声を上げて笑った。
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