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第24話
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数日後の朝、迎えに来た多聞に連れられて、柊一は再び多聞のマンションを訪れていた。
「この間録ったヤツ、少しいじってみたんだ。聞いてみろよ」
柊一の返事を待たず、多聞はステレオのスイッチを入れる。
スピーカーから自分の声が流れ出てきた途端、柊一は飛びつくようにしてステレオの電源を切った。
「なにすんだよ」
「そりゃあ、コッチの台詞だよっ」
再び電源を入れる事を阻止するように、柊一はステレオの前に立ちはだかっている。
「良い出来になったんだぜ? アレなら、あのままシングルにしてもちっともおかしかねェよ」
「ジョーダンじゃねェや。テメェの声なんて、こっぱずかしくて聞きたかねェよっ」
「そんなモンか? ちぇっ、絶対感激すると思ったんだけどな」
よっぽど残念だったのか、多聞は本当にガッカリしたように俯いて、セットしたMDを取り出した。
「…あそこで歌うのは、面白かったよ。アンタのギターは好きだし、俺が歌うのに合わせて弾いてるって思えば、スッゲェ気持ち良かったけどさ…。でも俺は歌手でもなんでもないし。自分が歌ってんの聴くなんて、気色悪ィよ」
「自分だって思わなきゃ良いんだよ。オマエなら、俺がプロデュースすればあっという間にメジャーの仲間入りが出来るって、保証してやるからさ」
熱心に勧める多聞に対し、柊一はあまり興味のなさそうな顔でソファに腰を下ろす。
「そう言われてもな。それにホント言うと俺、こないだのあの曲、あんまり好きじゃねェから…」
「好きじゃない? なんで?」
多聞の顔を見上げ、柊一は少しの間、口を開かなかった。
「簡単に言えば、趣味じゃない。…っつーか、悪くとるなよ? これは、何となく感じたコトなんだから」
少し困ったような顔をして、柊一は一言前置きをする。
多聞は黙って先を促した。
「あすこで聴かされた曲は、なんかみんなあんまり面白くないって思ったんだ」
「面白くない?」
「うん。前のアルバムの曲に比べると、なんかイマイチかなって」
「そんなこたぁねェよ。あすこに居たバンドの連中は、最高の出来だって言ってくれたぜ?」
多聞の言葉に、柊一は一瞬、何かを言いかけてやめた。
そして、なぜか一度座り直してから、多聞の顔を再び見上げて口を開く。
「…単に、完成したアルバムを聴いたのとは違うから、そう感じただけかもしれないから。あんまり、気にすんなよ」
「まぁ、そういう事もあるかもな。きっと、出来上がったアルバムを聞きゃー、オマエも納得するよ。でもオマエ、ならなんであすこでわざわざあの曲選んだ訳?」
柊一の隣に腰を降ろし、多聞は一番疑問に感じた事を訊ねた。
「そりゃあ、アンタが俺にあーゆーコトしたからだろ。あんな、周りがみんなプロのミュージシャンだって言うのに、引っぱり出されてよぅ。カッコワルイったらありゃしないじゃん。アンタの歌なら、俺にだって何とかなるかなって思ってさ」
「ヒデー、言い様」
ムッとした多聞に、柊一は肩を竦めて見せる。
「アンタが俺にギターを持たせたら、俺はチューリップでも演奏したさ」
「確かに、俺のヴォーカルはヒデェよ。判ってるから、何度も言うな」
無理にそこで話を打ち切るかのように語尾を強める多聞の態度は、まるで駄々っ子のようだった。
そんな多聞に、柊一は困ったような顔をしただけで、あえて何も言わなかった。
「そんなコトより、コッチの方が大事だよ」
手の中のMDにチラッと目線を落とし、多聞はそれを改めて柊一の前に置いた。
「この間録ったヤツ、少しいじってみたんだ。聞いてみろよ」
柊一の返事を待たず、多聞はステレオのスイッチを入れる。
スピーカーから自分の声が流れ出てきた途端、柊一は飛びつくようにしてステレオの電源を切った。
「なにすんだよ」
「そりゃあ、コッチの台詞だよっ」
再び電源を入れる事を阻止するように、柊一はステレオの前に立ちはだかっている。
「良い出来になったんだぜ? アレなら、あのままシングルにしてもちっともおかしかねェよ」
「ジョーダンじゃねェや。テメェの声なんて、こっぱずかしくて聞きたかねェよっ」
「そんなモンか? ちぇっ、絶対感激すると思ったんだけどな」
よっぽど残念だったのか、多聞は本当にガッカリしたように俯いて、セットしたMDを取り出した。
「…あそこで歌うのは、面白かったよ。アンタのギターは好きだし、俺が歌うのに合わせて弾いてるって思えば、スッゲェ気持ち良かったけどさ…。でも俺は歌手でもなんでもないし。自分が歌ってんの聴くなんて、気色悪ィよ」
「自分だって思わなきゃ良いんだよ。オマエなら、俺がプロデュースすればあっという間にメジャーの仲間入りが出来るって、保証してやるからさ」
熱心に勧める多聞に対し、柊一はあまり興味のなさそうな顔でソファに腰を下ろす。
「そう言われてもな。それにホント言うと俺、こないだのあの曲、あんまり好きじゃねェから…」
「好きじゃない? なんで?」
多聞の顔を見上げ、柊一は少しの間、口を開かなかった。
「簡単に言えば、趣味じゃない。…っつーか、悪くとるなよ? これは、何となく感じたコトなんだから」
少し困ったような顔をして、柊一は一言前置きをする。
多聞は黙って先を促した。
「あすこで聴かされた曲は、なんかみんなあんまり面白くないって思ったんだ」
「面白くない?」
「うん。前のアルバムの曲に比べると、なんかイマイチかなって」
「そんなこたぁねェよ。あすこに居たバンドの連中は、最高の出来だって言ってくれたぜ?」
多聞の言葉に、柊一は一瞬、何かを言いかけてやめた。
そして、なぜか一度座り直してから、多聞の顔を再び見上げて口を開く。
「…単に、完成したアルバムを聴いたのとは違うから、そう感じただけかもしれないから。あんまり、気にすんなよ」
「まぁ、そういう事もあるかもな。きっと、出来上がったアルバムを聞きゃー、オマエも納得するよ。でもオマエ、ならなんであすこでわざわざあの曲選んだ訳?」
柊一の隣に腰を降ろし、多聞は一番疑問に感じた事を訊ねた。
「そりゃあ、アンタが俺にあーゆーコトしたからだろ。あんな、周りがみんなプロのミュージシャンだって言うのに、引っぱり出されてよぅ。カッコワルイったらありゃしないじゃん。アンタの歌なら、俺にだって何とかなるかなって思ってさ」
「ヒデー、言い様」
ムッとした多聞に、柊一は肩を竦めて見せる。
「アンタが俺にギターを持たせたら、俺はチューリップでも演奏したさ」
「確かに、俺のヴォーカルはヒデェよ。判ってるから、何度も言うな」
無理にそこで話を打ち切るかのように語尾を強める多聞の態度は、まるで駄々っ子のようだった。
そんな多聞に、柊一は困ったような顔をしただけで、あえて何も言わなかった。
「そんなコトより、コッチの方が大事だよ」
手の中のMDにチラッと目線を落とし、多聞はそれを改めて柊一の前に置いた。
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