時の情景

琉斗六

文字の大きさ
8 / 31

4-1:セオドア・アシュワース

しおりを挟む
 テオは、外のロケットストーブで沸かした湯を湯冷ましに注いだ。

「僕は、トキオミさんが "追放" 処分にされた時に、王宮騎士を辞しました」
「うえっ?」

 包丁が滑り、指を切った。

「あいたっ!」
「大丈夫ですか?」

 テオが指先を両手で包む。
 体温よりわずかに高いなにか・・・が滲み、彼が手を離すと傷は消えていた。

「あ……、すまん」
「いいえ。聖騎士として学んだことが、トキオミさんのお役に立って嬉しいです」

 ふっと笑う声まで艶っぽい。

──全く、目のやり場に困る美青年になったもんだ……。

 思わず心のなかで嘆息した。

 セオドア・アシュワース・守護の騎士イージス
 それが、初めて出会った頃の彼の名乗りだった。
 騎士爵は本来一代いちだい限りの恩賞だが、この国では "性別は問わず、家の子が騎士になれば継げる" ってことになっている。
 アシュワースは、代々 "イージス" の騎士爵を守ってきた家だ。

 最初に紹介された時、背丈はともかく、顔があんまり子供みたいだったから年齡としを聞いたら「14だ」と言う。
 黒髪にりんごのような頬、ガラス玉みたいな青い目をしていて、小鳥のような声で喋る。
 14と言ったら、中学三年生。
 如月よりも1つ年上だが、ほぼ同年代。

 日本とこちらで時間の感覚が同じかどうかは分からない。
 なんせ時計は壊れたし、月は3つある。
 惑星の公転スピードの話をしたら、通じるやつは一人もいなかった……どころか、王宮の学者は "天動説" を頑なに信じていた。

 とはいえ、りんごの頬の護衛騎士は、14歳らしい少年の顔をしていたし、佇まいはティーンエイジャー特有の快活さと儚さを併せ持っていた。

 正直、14歳で護衛騎士? とは思ったが。
 あの頃はこちらの常識がどんなもんかワカランかったので、俺はそこには触れなかった。
 今から考えると、あのハラグロすっとこどっこいのレオン王子が、聖女のガードを下げるためにした人選だってのが、透け透けに透けて見えるのだが……。

 もっとも、今の彼にその儚さはない。
 同じ黒髪も、同じ蒼も、熱を帯びて俺を見る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

トリップしてきた元賢者は推し活に忙しい〜魔法提供は我が最推しへの貢物也〜

櫛田こころ
BL
身体が弱い理由で残りの余生を『終活』にしようとしていた、最高位の魔法賢者 ユーディアス=ミンファ。 ある日、魔法召喚で精霊を召喚しようとしたが……出てきたのは扉。どこかの倉庫に通じるそこにはたくさんのぬいぐるみが押し込められていた。 一個一個の手作りに、『魂宿(たまやど)』がきちんと施されているのにも驚いたが……またぬいぐるみを入れてきた男性と遭遇。 ぬいぐるみに精霊との結びつきを繋いだことで、ぬいぐるみたちのいくつかがイケメンや美少女に大変身。実は極度のオタクだった制作者の『江野篤嗣』の長年の夢だった、実写版ジオラマの夢が叶い、衣食住を約束する代わりに……と契約を結んだ。 四十手前のパートナーと言うことで同棲が始まったが、どこまでも互いは『オタク』なんだと認識が多い。 打ち込む姿は眩しいと思っていたが、いつしか推し活以上に気にかける相手となるかどうか。むしろ、推しが人間ではなくとも相応の生命体となってCP率上がってく!? 世界の垣根を越え、いざゆるりと推し活へ!!

取り残された隠者様は近衛騎士とは結婚しない

二ッ木ヨウカ
BL
一途な近衛騎士×異世界取り残され転移者 12年前、バハール王国に召喚された形代柚季は「女王の身代わり要員」として半引きこもり生活をしていたが、ある日婚活を始めることに。 「あなたを守りたい」と名乗りを上げてきたのは近衛騎士のベルカント。 だが、近衛騎士は女王を守るための職。恋愛は許されていないし、辞める際にもペナルティがある。 好きだからこそベルカントを選べず、地位目当てのホテル経営者、ランシェとの結婚を柚季は決める。 しかしランシェの本当の狙いは地位ではなく―― 大事だから傷つけたくない。 けれど、好きだから選べない。 「身代わりとなって、誰かの役に立つことが幸せ」そう自分でも信じていたのに。 「生きる」という、柔らかくて甘い絶望を呑み込んで、 一人の引きこもりが「それでもあなたと添い遂げたい」と言えるようになるまで。

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

処理中です...