愛にはぐれた獣は闇夜に溶ける

琉斗六

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第9話

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 柊一を汚してしまった事実に打ちのめされ、広尾はその後、しばらくなにも考えられなかった。
 多聞は、そんな広尾の様子に満足したのか、柊一の身体を広尾から離して床に寝かせ、その後もしばらく楽しんでいた。
 広尾は、己を責めるその間も、柊一の喘ぎを聴かされ続けた。
 そして、当の柊一は。
 同時に前後を責め上げられた快楽と、散々焦らされて解放された刺激を与えられた事で、もう思考など出来る状態になく。
 まるで痴呆の少女の如く、多聞との行為を受け入れていた。
 多聞の腰に足を絡みつかせ、与えられる快感に啼いていた。
 やがてその狂宴を終えた多聞が、着衣を正して立ち上がった。
 行為の最中に抜刀しそのまま放り出してあった大剣を拾うと、広尾の手を戒めている紐を断ち切る。

「その足では、しばらく動くのも難儀するだろうが。よく介抱してやってくれ。俺が、また楽しめるようにな」

 蔑むように笑う多聞に、広尾は思わずその場にあった柊一の剣を取って襲いかかろうとした。
 しかし、剣を鞘に収めた多聞は、そのまま柄の部分で広尾の鳩尾を強かに打った。

「…ぐっ!」

 意識を失わなかったものの、目の前が真っ赤になる。

「俺は約束を守る男なんだ。おかげで命拾いをしたと思え」
「ち…くしょう!」

 今までに感じた事もないような強い憤りを覚えていても、己はあまりにも非力で何一つ太刀打ちする術がない。
 その事実までもが、広尾の怒りに油を注ぐ。

「今日はソイツとの約束もある、その程度ですませておいてやろう。だが、次は手加減などせずに切り捨てるぞ。もっとも、またソイツが代償を払ってくれるなら、俺はそれでも一向に構わないがな」

 カラカラと笑って、多聞は祠から出ていった。
 腹を押さえ、しばし咳き込んでいた広尾は、息が落ち着いてきたところで己の剣を掴む。
 そのまま、多聞の後を追って祠を飛び出そうとした時。

「ふみあき…」

 一糸まとわぬ裸体のままで、床に放り出されるように倒れていた柊一が名を呼んだ。

「柊一さんっ!」

 慌てて引き返し、その身体を抱き上げる。
 柊一は、そんな広尾の手を借りて起きあがった後、引き裂かれた着衣を引き寄せて身体にまとった。

「俺、どこかで水を汲んできますから」
「文明、呆れただろう?」

 ふと顔を上げて、柊一は自嘲気味に笑う。
 その表情が、あまりに痛々しく広尾は胸が痛んだ。

「俺の方こそ、柊一さんの足手まといになってしまって。申し訳ありません、俺は…アナタを…」
「文明の所為じゃない、俺の技量不足だ。…ヤツと向き合うには、まだ俺の力が足りなかった。すまない文明、それが判っていたのに俺はオマエを巻き込んでしまった」
「そんな事を、言わないで下さい。俺がいなければ、柊一さんは実力を出しきって戦えた筈だ。こんな…こんな卑劣な真似をされなかった筈だ…!」

 悔しさで、広尾は思わず泣けてきてしまった。

「文明…」
「柊一さん、一度道場に戻りましょう! 確かに、本懐も遂げずに戻るのには抵抗があるかもしれませんが、ヤツを倒す為にはもっと力を付ける必要があります。中師師範代なら、それを一緒に考えてくれますよ。ね?」
「そんな事、出来る訳がないだろう!」

 柊一の拒絶を予想済みだった広尾は、まっすぐに柊一を見つめたままで首を横に振った。

「いいえ。どうしても、連れ帰ります。…技術的な事を言えば、アナタとヤツは互角かもしれませんが、こんな卑怯な真似をされた後ではアナタの気持ちが動揺しています。中師師範代に全て話して、協力して貰う必要があるんです」
「な…っ!」

 己の最も隠しておきたい事までも全て語れと迫る広尾に、柊一は言葉を失ってしまった。
 顔を真っ赤に染め、怒りに言葉もない柊一の様子を、広尾はジッと見つめている。

「アナタが怒るのは、もっともです。でも俺は、…俺は、アナタを失いたくない」

 広尾は、そのまま柊一の身体を強く抱きしめた。
 そうして、自分を抱いている広尾が微かに震えている事に気付き、柊一はそれを拒絶する事も怒り続ける事も出来なくなってしまった。

「解った、文明。…解ったよ」

 柊一は、呟くように言った。
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