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S4:冷めた子供とプラチナリング
5.白昼のチュー
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シノさんが「飯田橋に新しく和菓子屋が出来たらしい」と言い出した。
これはつまり "行って様子を見つつ買ってこい" ってことなので、休日の昼下がり、俺はノコノコと買い物に出た。
シノさんは自称 "和菓子ジプシー" である。
行きつけを探す旅人……って聞こえはいいけど、要は『気に入る店が見つからない』ってことだ。
商店街に老舗の和菓子店があるのだが、そこは気に入らないんだか、結界があるんだか知らないが、シノさんの眼中には無いのだ。
店はさほど混んでおらず、買い物はすぐ済んだ。
ついでにカラッポの冷蔵庫にビールでも買い置きしようか……などと考えながら坂を登り、毘沙門天の前を通り過ぎた所で、俺は視界の隅に写ったモノが気になって、立ち止まり、毘沙門の入り口まで戻って中を見た。
そこには、目立ってデッカイ男子の二人連れが居た。
二人は入り口に背中を向けて、毘沙門の敷地の奥に向かって行く途中といった様子だが、その片方のシルエットは、どう見ても敬一クンだ。
連れの男は見た事が無い奴だったが、敬一クンより更にデッカくて、敬一クンと話をしている横顔がチラッと見えたら、ゴリラみたいなゴツイ顔をしている。
たぶん敬一クンの同級生かなんかで、敬一クンは友人と会って話をしているだけ……なのだろうが、なぜか言い知れぬ違和感があり、俺は二人の様子を伺いながら、コソコソとを尾行してしまった。
毘沙門の裏手のひと気のない所まで来ると、二人は適当な場所に腰を降ろしたのだが、そこでゴリラはおもむろに敬一クンの肩を抱くと、いきなり濃厚なチューをかました。
敬一クンも嫌がる様子などなく、二人はそこでたっぷり1分以上もキスしていて、俺は自分が感じた違和感が、男子学生の二人連れなのにカップルみたいな雰囲気だったから……って事に、ようやく気付いた。
§
菓子は、レジのオネエチャンが紙箱に綺麗に並べてくれていた。
此処に至るまでの間、俺は少々気を遣いながらその箱を持って歩いていたのだが、目撃してしまった白昼堂々のチューにビックリしたは、箱の入った手提げ袋をほぼブン回しながら走って赤ビルに帰った。
そしてエレベーターも待たず、五階まで一気に駆け上ると、俺はペントハウスに飛び込んで叫んだ。
「シノさんっ!」
「なんじゃい?」
シノさんはお気に入りのソファでグダグダしながら、DSでゲームをやっていた。
ソファにはシノさんの他に、白砂サンとエビセンとホクトも居て、どうやら4人でオンラインのゲームをしていたようだ。
ビックリのあまり、俺は毘沙門の前からペントハウスまで、ほぼ全速力で走ってきた。
坂を下って上って階段を五階分登って、当然息切れも激しかったが、それでもほとんど息を継がずに訴えた。
「い、いいいいい、今っ、そこの毘沙門で俺が何を見たと思うっ!?」
「多聞君、落ち着きたまえ」
白砂サンがゲーム機から手を離し、俺の手から和菓子屋の袋を取り上げた。
「なんかその袋、クッチャクチャじゃないっすか?」
「うむ。振り回して来たようで、中身も酷い有様だ」
袋から箱を取り出し、蓋を開けて、白砂サンがガッカリした顔をする。
「えっ、そんなに? そんじゃ、味も混ざっちゃってんじゃねェの?」
「いや、商品は個別包装なので、ただ形が崩れているだけだね」
「シノさんっ! それどころじゃないよっ! 敬一クンが表で男とキスしてたんだよっ!」
「なんだってっ!」
「なんだとぅっ!」
俺の訴えなど聞いてなかったみたいなキャンパスコンビが、一転して俺に詰め寄ってくる。
「どこで?!」
「えっと、えとえと……だから、毘沙門で……」
「相手はっ?!」
「ワカンナイよ……、なんか、ゴリラみたいな奴……」
「ゴリラ?!」
エビセンとホクトはちょっと考えるような素振りを見せてから、顔を見合わせて見事なユニゾンで叫んだ。
「伊吹だっ!」
「ケイちゃん、毘沙門でゴリラとアオカンしてたんか?」
「お兄さんそんなまさかっ!」
「そんなコトはしてなかったけど、毘沙門でチューしてから、場所を移して、裏通りのご休憩に入ってった……」
「そんならワイセツブツチンレツザイには問われないから、オッケーだナ」
エビセンはバッと振り返ると、ホクトの襟元を掴んだ。
「テメェの所為だぞ! 安易に手ェ出すなつったのにっ!」
「先に手を出したのはオマエだろっ! その上、俺を挑発してきたじゃないかっ!」
「だからってイキナリ本番ヤっちまう奴があるかっ! 中師は天性の美味いモノ好きで快感に流されやすい、天然ゆるふわ体質だぞっ! しかも常識が無ェから、男とヤるのなんかノーカンだと思ってるっ! キッチリ教育する前に全部教えちまったら、タガが外れるに決まってるだろーがっ!」
エビセンにガンガンと言い立てられて、ホクトは顔面蒼白になっている。
だけどそんな血気盛んなキャンパスコンビに対して、酸いも甘いも噛み分けちゃってるシノさんはもちろん、実父からの虐待サバイバーを経て、更に同性愛への理解の無いコミュニティとの戦いをくぐり抜けてきた猛者の白砂サンは、キッチンから和菓子を食べるための食器を用意してきたり、濃いめの煎茶を煎れる準備をしていた。
「どうやら敬一のお初は、ホクト君が貰ったようだね」
「うーむむむ。俺は理想のスパダリな、エビちゃん推しだったんだがのう~」
「私はホクト君推しだ。子供の頃から現在に至るまで、一途に敬一だけを想っているなんて、実にロマンチックではないか」
「あの~~、そんなトコで、煎茶啜ってる場合なの?」
「そりゃ~、今出来ることはナイからのう」
白砂サンが煎れてくれたお茶を飲み、シノさんは不細工になってしまった練りきりの端っこを、パクリと口に入れた。
「でも、お兄さん!」
「とりあえず、落ち着けちゅーの。それともなにか? ケイちゃんが今スグ、ゴリラと駆け落ちでもするとでもゆーんかい? そんならスクランブルつって、緊急出動もするが、二時間もしたら帰って来るのに騒いでどーすんだつーの」
俺は敬一クンの事を、清く正しい優等生だと思っていた。
だからあんな光景を見て、それこそ驚天動地のぶったまげになったのだ。
でもシノさんは以前、敬一クンの事を「口説きの手順を間違えると大ヤケドをする」とか、言っていた。
つまり敬一クンにかが手を出したら、こうなる事を予知してたってことなのか?
「見掛けは大層だが、さほどの菓子では無いな。これなら銀のあんのたい焼きの方が、小豆の旨味を引き出している」
「たい焼きじゃ、この値段を出したのが悔しいのう」
「東雲さんっ! ケイがゴリラにナニされてしまってると言うのに、俺は落ち着いて和菓子の話なんかしていられませんっ!」
「じゃー、アマホクには何か策があるんかい? 今からそのご休憩にカチコんで、ゴリラを袋叩きしたら、集団暴行でショーゴに検挙されっちまうぜ」
「でもっ!」
「今すぐ対処が出来ないなら、焦ってジタバタしても仕方なかろ? とりあえず、休戦してエビちゃんと紳士協定結んで、今後の対策を練るとか、そーいうコトを考えるべきなんじゃねェの?」
買ってきた菓子を箸でちょびっとずつほじくり、全部を順繰りに食べながら、シノさんがチラッとキャンパスコンビを見る。
エビセンとホクトは、気の進まない様子で顔を見合わせた。
「俺は天然ゆるふわでエッチなケイちゃん、可愛ゆいと思うけども」
「それは俺だって大いに推奨ですよ! ただし、エッチになるのは俺限定にしてもらわないと!」
「阿呆かオマエは。自分限定でエロエロな中師なんて、だって推奨するに決まってんだろ!」
「敬一の貞操観念が君達が言うように著しく低いのだとしたら、なにか対策を練らねば危険だな」
またもや衝突しそうになるホクトとエビセンを制し、シノさんとは違ってナイフで綺麗にカットしながら、やっぱり全部の菓子をちょびっとずつ食べていた白砂サンが、淡々と言った。
白砂サンの意見に頷きながら、シノさんが腕組みをする。
「そいつぁ最もな話だナ。ケイちゃんモテるけん、それら全部を来るもの拒まずでエッチしてたら、悪いビョーキを貰っちまうかもしれんし」
「だが、本人に危機感が無いとなると、他人が何か言ったところで、どうにもなるまい?」
「言ってダメなら、実力行使するしかナイだろーが。しっかし、中世なら貞操帯でもつけとけば済むが、イマドキは鍵付きの鉄パンツ履かせるワケにいかんだろ?」
「そんな不格好な物は、使わないよ」
悪の帝王みたいな顔で、白砂サンが「ハハハ」と笑った。
「セイちゃん、なんか知ってるん?」
「そういった器具は、どんな時代にも需要があるのだよ。そして、需要がある物は、時間と共に洗練され、機能美と装飾美が高められる」
なんでそんな事を知ってるのかと、訊くのもコワイ白砂サンの発言に、俺は思わず後ろににじり下がったが、キャンパスコンビはむしろ前のめりになった。
「どんな物があるんですか?」
「うむ、一番シンプルなものだと、リング状でペニスの根本に嵌めるタイプだろう。平常時のサイズで装着すると、緩めない限り外す事は出来ない。緩めるためには鍵が必要で、錠前タイプと数字錠タイプがある」
「値段はどれくらいなんですかね?」
「出来合いの安価なものから、オーダー品まで様々だが……。敬一に、金属アレルギーはあるかね?」
白砂サンがチラッとシノさんを見る。
「ナイよ」
「では、素材の制限は無いな。安価な物ならばステンレス、高価な物だと金やプラチナのような、ジュエリー素材を使う。当然、ジュエリー以上の値段がするよ」
「入手方法は?」
「インターネットなど探せば入手出来るだろうが、物が物だけに、怪しげなサイトを利用するとリスクがある。ちょっとしたプレイのための商品などを気安く購入して、常時使用していると壊疽してしまう危険性もある。もし君達が本当に購入する気があるのならば、相応の金額を出してオーダーメイドをする事を勧める。購入するなら、知り合いの職人に話をつけてあげよう」
「わざわざ白砂さんの手を煩わせなくても……」
「いや、あの男は人気なので、初見のの注文は受けない可能性がある。それに少々性格もこすからいので、無理に頼むと暴利な価格を吹っ掛けられる危険もあるからな」
白砂サンはシノさんのタブレットを取り、チャカチャカ操作して画面を差し出した。
「この画像は、商品ではなく、彼の過去作品なのだが。完全オーダーメイドなので、少々遊び心を加えたり、究極にシンプルな造りにしたりと、自由度は高い」
差し出された画面を見て、キャンパスコンビはを寄せ、ヒソヒソと話し合いを始めた。
シノさんの助言を受けて、協定を組み、とりあえず敬一クンに近付く害虫を排除するための同盟を組むことに同意をしたらしい。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「ところでそのゴリラって、どーゆーヤツ? かと同じ高校だったん?」
「いいえ、アイツもクラブ繋がりの知人で、出身校は別です。ただ、今はケイと同じ大学に在籍してるんですよ」
好奇心旺盛なシノさんにホクトが返すと、エビセンが続けて言った。
「中師はゴリラのクソ真面目ヅラに、すっかり騙されてますけど、カタブツどころか飛んだ食わせ物で」
「どゆこと?」
「自分にベタ惚れの安牌なキープがいるんですが、大層な遊び人で美味そうな相手を端からつまみ食いしてる、一部じゃ有名な男です。中師にも、以前からコナ掛けてたんですが……」
「敬一が、コナに気付かずスルーをしていた……と言う事かね?」
「そうです」
「そりゃあ、ふざけきったゴリラじゃな! そんなヤツとケイちゃんがお付き合いするのは、兄さん断固反対じゃ! サクサク追っ払っちゃれ!」
その後もみんなはアレコレと相談し合ってたが、俺はビックリとドン引きで疲れ果ててしまい、内容はろくに聞かなかった。
これはつまり "行って様子を見つつ買ってこい" ってことなので、休日の昼下がり、俺はノコノコと買い物に出た。
シノさんは自称 "和菓子ジプシー" である。
行きつけを探す旅人……って聞こえはいいけど、要は『気に入る店が見つからない』ってことだ。
商店街に老舗の和菓子店があるのだが、そこは気に入らないんだか、結界があるんだか知らないが、シノさんの眼中には無いのだ。
店はさほど混んでおらず、買い物はすぐ済んだ。
ついでにカラッポの冷蔵庫にビールでも買い置きしようか……などと考えながら坂を登り、毘沙門天の前を通り過ぎた所で、俺は視界の隅に写ったモノが気になって、立ち止まり、毘沙門の入り口まで戻って中を見た。
そこには、目立ってデッカイ男子の二人連れが居た。
二人は入り口に背中を向けて、毘沙門の敷地の奥に向かって行く途中といった様子だが、その片方のシルエットは、どう見ても敬一クンだ。
連れの男は見た事が無い奴だったが、敬一クンより更にデッカくて、敬一クンと話をしている横顔がチラッと見えたら、ゴリラみたいなゴツイ顔をしている。
たぶん敬一クンの同級生かなんかで、敬一クンは友人と会って話をしているだけ……なのだろうが、なぜか言い知れぬ違和感があり、俺は二人の様子を伺いながら、コソコソとを尾行してしまった。
毘沙門の裏手のひと気のない所まで来ると、二人は適当な場所に腰を降ろしたのだが、そこでゴリラはおもむろに敬一クンの肩を抱くと、いきなり濃厚なチューをかました。
敬一クンも嫌がる様子などなく、二人はそこでたっぷり1分以上もキスしていて、俺は自分が感じた違和感が、男子学生の二人連れなのにカップルみたいな雰囲気だったから……って事に、ようやく気付いた。
§
菓子は、レジのオネエチャンが紙箱に綺麗に並べてくれていた。
此処に至るまでの間、俺は少々気を遣いながらその箱を持って歩いていたのだが、目撃してしまった白昼堂々のチューにビックリしたは、箱の入った手提げ袋をほぼブン回しながら走って赤ビルに帰った。
そしてエレベーターも待たず、五階まで一気に駆け上ると、俺はペントハウスに飛び込んで叫んだ。
「シノさんっ!」
「なんじゃい?」
シノさんはお気に入りのソファでグダグダしながら、DSでゲームをやっていた。
ソファにはシノさんの他に、白砂サンとエビセンとホクトも居て、どうやら4人でオンラインのゲームをしていたようだ。
ビックリのあまり、俺は毘沙門の前からペントハウスまで、ほぼ全速力で走ってきた。
坂を下って上って階段を五階分登って、当然息切れも激しかったが、それでもほとんど息を継がずに訴えた。
「い、いいいいい、今っ、そこの毘沙門で俺が何を見たと思うっ!?」
「多聞君、落ち着きたまえ」
白砂サンがゲーム機から手を離し、俺の手から和菓子屋の袋を取り上げた。
「なんかその袋、クッチャクチャじゃないっすか?」
「うむ。振り回して来たようで、中身も酷い有様だ」
袋から箱を取り出し、蓋を開けて、白砂サンがガッカリした顔をする。
「えっ、そんなに? そんじゃ、味も混ざっちゃってんじゃねェの?」
「いや、商品は個別包装なので、ただ形が崩れているだけだね」
「シノさんっ! それどころじゃないよっ! 敬一クンが表で男とキスしてたんだよっ!」
「なんだってっ!」
「なんだとぅっ!」
俺の訴えなど聞いてなかったみたいなキャンパスコンビが、一転して俺に詰め寄ってくる。
「どこで?!」
「えっと、えとえと……だから、毘沙門で……」
「相手はっ?!」
「ワカンナイよ……、なんか、ゴリラみたいな奴……」
「ゴリラ?!」
エビセンとホクトはちょっと考えるような素振りを見せてから、顔を見合わせて見事なユニゾンで叫んだ。
「伊吹だっ!」
「ケイちゃん、毘沙門でゴリラとアオカンしてたんか?」
「お兄さんそんなまさかっ!」
「そんなコトはしてなかったけど、毘沙門でチューしてから、場所を移して、裏通りのご休憩に入ってった……」
「そんならワイセツブツチンレツザイには問われないから、オッケーだナ」
エビセンはバッと振り返ると、ホクトの襟元を掴んだ。
「テメェの所為だぞ! 安易に手ェ出すなつったのにっ!」
「先に手を出したのはオマエだろっ! その上、俺を挑発してきたじゃないかっ!」
「だからってイキナリ本番ヤっちまう奴があるかっ! 中師は天性の美味いモノ好きで快感に流されやすい、天然ゆるふわ体質だぞっ! しかも常識が無ェから、男とヤるのなんかノーカンだと思ってるっ! キッチリ教育する前に全部教えちまったら、タガが外れるに決まってるだろーがっ!」
エビセンにガンガンと言い立てられて、ホクトは顔面蒼白になっている。
だけどそんな血気盛んなキャンパスコンビに対して、酸いも甘いも噛み分けちゃってるシノさんはもちろん、実父からの虐待サバイバーを経て、更に同性愛への理解の無いコミュニティとの戦いをくぐり抜けてきた猛者の白砂サンは、キッチンから和菓子を食べるための食器を用意してきたり、濃いめの煎茶を煎れる準備をしていた。
「どうやら敬一のお初は、ホクト君が貰ったようだね」
「うーむむむ。俺は理想のスパダリな、エビちゃん推しだったんだがのう~」
「私はホクト君推しだ。子供の頃から現在に至るまで、一途に敬一だけを想っているなんて、実にロマンチックではないか」
「あの~~、そんなトコで、煎茶啜ってる場合なの?」
「そりゃ~、今出来ることはナイからのう」
白砂サンが煎れてくれたお茶を飲み、シノさんは不細工になってしまった練りきりの端っこを、パクリと口に入れた。
「でも、お兄さん!」
「とりあえず、落ち着けちゅーの。それともなにか? ケイちゃんが今スグ、ゴリラと駆け落ちでもするとでもゆーんかい? そんならスクランブルつって、緊急出動もするが、二時間もしたら帰って来るのに騒いでどーすんだつーの」
俺は敬一クンの事を、清く正しい優等生だと思っていた。
だからあんな光景を見て、それこそ驚天動地のぶったまげになったのだ。
でもシノさんは以前、敬一クンの事を「口説きの手順を間違えると大ヤケドをする」とか、言っていた。
つまり敬一クンにかが手を出したら、こうなる事を予知してたってことなのか?
「見掛けは大層だが、さほどの菓子では無いな。これなら銀のあんのたい焼きの方が、小豆の旨味を引き出している」
「たい焼きじゃ、この値段を出したのが悔しいのう」
「東雲さんっ! ケイがゴリラにナニされてしまってると言うのに、俺は落ち着いて和菓子の話なんかしていられませんっ!」
「じゃー、アマホクには何か策があるんかい? 今からそのご休憩にカチコんで、ゴリラを袋叩きしたら、集団暴行でショーゴに検挙されっちまうぜ」
「でもっ!」
「今すぐ対処が出来ないなら、焦ってジタバタしても仕方なかろ? とりあえず、休戦してエビちゃんと紳士協定結んで、今後の対策を練るとか、そーいうコトを考えるべきなんじゃねェの?」
買ってきた菓子を箸でちょびっとずつほじくり、全部を順繰りに食べながら、シノさんがチラッとキャンパスコンビを見る。
エビセンとホクトは、気の進まない様子で顔を見合わせた。
「俺は天然ゆるふわでエッチなケイちゃん、可愛ゆいと思うけども」
「それは俺だって大いに推奨ですよ! ただし、エッチになるのは俺限定にしてもらわないと!」
「阿呆かオマエは。自分限定でエロエロな中師なんて、だって推奨するに決まってんだろ!」
「敬一の貞操観念が君達が言うように著しく低いのだとしたら、なにか対策を練らねば危険だな」
またもや衝突しそうになるホクトとエビセンを制し、シノさんとは違ってナイフで綺麗にカットしながら、やっぱり全部の菓子をちょびっとずつ食べていた白砂サンが、淡々と言った。
白砂サンの意見に頷きながら、シノさんが腕組みをする。
「そいつぁ最もな話だナ。ケイちゃんモテるけん、それら全部を来るもの拒まずでエッチしてたら、悪いビョーキを貰っちまうかもしれんし」
「だが、本人に危機感が無いとなると、他人が何か言ったところで、どうにもなるまい?」
「言ってダメなら、実力行使するしかナイだろーが。しっかし、中世なら貞操帯でもつけとけば済むが、イマドキは鍵付きの鉄パンツ履かせるワケにいかんだろ?」
「そんな不格好な物は、使わないよ」
悪の帝王みたいな顔で、白砂サンが「ハハハ」と笑った。
「セイちゃん、なんか知ってるん?」
「そういった器具は、どんな時代にも需要があるのだよ。そして、需要がある物は、時間と共に洗練され、機能美と装飾美が高められる」
なんでそんな事を知ってるのかと、訊くのもコワイ白砂サンの発言に、俺は思わず後ろににじり下がったが、キャンパスコンビはむしろ前のめりになった。
「どんな物があるんですか?」
「うむ、一番シンプルなものだと、リング状でペニスの根本に嵌めるタイプだろう。平常時のサイズで装着すると、緩めない限り外す事は出来ない。緩めるためには鍵が必要で、錠前タイプと数字錠タイプがある」
「値段はどれくらいなんですかね?」
「出来合いの安価なものから、オーダー品まで様々だが……。敬一に、金属アレルギーはあるかね?」
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「ナイよ」
「では、素材の制限は無いな。安価な物ならばステンレス、高価な物だと金やプラチナのような、ジュエリー素材を使う。当然、ジュエリー以上の値段がするよ」
「入手方法は?」
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「わざわざ白砂さんの手を煩わせなくても……」
「いや、あの男は人気なので、初見のの注文は受けない可能性がある。それに少々性格もこすからいので、無理に頼むと暴利な価格を吹っ掛けられる危険もあるからな」
白砂サンはシノさんのタブレットを取り、チャカチャカ操作して画面を差し出した。
「この画像は、商品ではなく、彼の過去作品なのだが。完全オーダーメイドなので、少々遊び心を加えたり、究極にシンプルな造りにしたりと、自由度は高い」
差し出された画面を見て、キャンパスコンビはを寄せ、ヒソヒソと話し合いを始めた。
シノさんの助言を受けて、協定を組み、とりあえず敬一クンに近付く害虫を排除するための同盟を組むことに同意をしたらしい。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「ところでそのゴリラって、どーゆーヤツ? かと同じ高校だったん?」
「いいえ、アイツもクラブ繋がりの知人で、出身校は別です。ただ、今はケイと同じ大学に在籍してるんですよ」
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「中師はゴリラのクソ真面目ヅラに、すっかり騙されてますけど、カタブツどころか飛んだ食わせ物で」
「どゆこと?」
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「敬一が、コナに気付かずスルーをしていた……と言う事かね?」
「そうです」
「そりゃあ、ふざけきったゴリラじゃな! そんなヤツとケイちゃんがお付き合いするのは、兄さん断固反対じゃ! サクサク追っ払っちゃれ!」
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