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S5:ハトコとゴリラ
13.胯間がキューっと
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朝の清掃が終わって、ペントハウスに戻ろうと俺はエレベーターを待っていた。
いつもならそこにランニングから帰ってきた敬一クンが現れて、朝の挨拶をしながら一緒にエレベーターに乗り込むのだが、今朝は現れない。
別に待つ理由も無いので、俺はなんとなく物足りないような気分になりつつ、エレベーターでペントハウスに上がった。
いつも通りにシノさんを起こすつもりで、玄関を抜けたあとは直接シノさんの寝室に入る扉を開けたのだが……。
「兄さん、起きてください」
「あ~……、ケイちゃん~……、ちぃっと待ってくれェ……俺まだ、ねみくて……」
「兄さん!」
シノさんのキングサイズのベッドの上には、まだ半分寝ているシノさんと、いやに切羽詰まった様子の敬一クンと、敬一クンと一緒になってシノさんを起こそうとしているスバルが居た。
「兄さん、頼むから起きて!」
「あと5分……あとごくんにゃけらぁ~……」
眠気のあまり呂律もおかしいシノさんは、敬一クンに引っ張り上げられて斜めに傾いているが、両腕にしっかと枕を抱いていて、グダグダな様子だ。
そもそも敬一クンがロードワークもせずに、朝はグダグダのシノさんを起こそうとしているってだけでも、トンデモトラブルのニオイがプンプンしている。
嫌な予感を覚えて、俺はそのままそっと扉を閉めると、リビングに入る扉を開けてキッチンに向かった。
キッチンには一階の厨房に直通の電話と言うか、インターフォンのような物があるから、白砂サンを呼ぶために使いたかったからだ。
例えどんなにトンデモトラブルだったとしても、白砂サンなら良くも悪くも決着をつける方法を考案できるだろうが、俺には絶対に無理だ。
だけどそこでリビングに入ると、グリーンのソファになぜかエビセンが寝ていた。
なんでこんな所にエビセンが居るの? と思ったけど、わざわざ起こしたくもなかったので、俺は足音を忍ばせてキッチンに行った。
敬一クンは、平素はおっとりしすぎているぐらい穏やかな天然モードだが、スイッチが入ると、急にキビキビとキレ者の能力を発揮するシビアモードに切り替わる。
だけど最近わかったのだが、敬一クンには天然とシビアの他に『テンパリモード』という第三形態がある。
ある意味、テンパリモードは平素の天然にシビアモードの行動力だけが発動した状態な気がしなくも無いが、テンパリモードの敬一クンは、天然モードの時以上に空気が読めない……というか、周りが全く見えなくなってしまうらしく、子供には聞かせられないようなトンデモ話を所構わず赤裸々に喋り始めるような、軽率なポカをやらかす。
内線電話で白砂サンに上に来て欲しいと言ってから、俺はシノさんの部屋に戻った。
「兄さん! 起きて! 話を聞いて下さい!」
「わがっでぃる……わがっでるがらぁぁぁ~……」
敬一クンはシノさんを起こそうと奮闘しているが、シノさんはまだグダグダだ。
しかし先程見た時から思っているのだが、あんなにぐらんぐらんと頭が取れそうなほど振り回されていたら、眠気が飛んだら吐き気が訪れるんじゃないかと俺は思った。
「どうしたのかね?」
後ろから、白砂サンに声を掛けられて、俺は振り返る。
「あー、なんか事態は全くワカラナイんすけど……」
やってきた白砂サンは寝室の様子をチラッと見ると、踵を返してスタスタとキッチンに向かい、手早く朝食の用意を始めた。
程なくしてシノさんの鼻を刺激する、素晴らしいコーヒーの香りが漂ってくる。
店で出すコーヒーはサーバーに任せているが、白砂サンが自室やペントハウスのキッチンでコーヒーを淹れる時は、手ずからドリッパーを使う。
すると同じ豆を使っているはずのコーヒーが、 "匂い" ではなく "香り" と呼ぶに相応しい物になる。
この格段の差が一体どこからくるのかは解らないが、寝覚めのシノさんには効果テキメンだった。
「セイちゃぁん、コーヒーちょうだぁい」
欲求のみで動くゾンビみたいに、寝室から出てきてダイニングテーブルにとっついたシノさんの前に、白砂サンがカップを置く。
と、そのあとに続いてのっそりとエビセンも現れた。
「俺にもコーヒー貰えますか?」
「君の分は、こちらのマグで頼む」
エビセンが手渡されたのはステンレス製の蓋付きマグで、渡しながら白砂サンはチラッと目配せをした。
蓋付きマグとアイコンタクトを見たところで、察しの良いエビセンは直ぐに白砂サンの意図を読み取り、マグを受け取るとそこで敬一クンの周りをグルグルしているスバルをヒョイと捕獲した。
「なにすんだよエビ~! 朝ごはん食べるんだから、放せってば!」
「オマエは白砂サンの部屋で、ミナトと一緒に朝メシだ」
「やだよ! 僕、ケイの話、聞かなきゃだもんっ!」
「ウルセェ、じたばたすんなっ。手間掛けさせると、ケツを引っ叩くぞ」
「ケイは僕の猫だぞっ! 放せよ~!」
ワアワア言ってるスバルの声が遠ざかっていく。
白砂サンは、湯気の上がっている朝食のプレートを三人分、サクサクとダイニングテーブルに運んだ。
「多聞君、朝食が冷めてしまうよ」
本当は、朝メシを食べながらトンデモ話を聞かされるのは非常に気が進まなかったが、こうなっては仕方が無く、俺は自分の定席に着いた。
「そんで~? 俺に何の相談よ?」
極上のコーヒーを啜り込み、バターの焼き目もカリカリとしたトーストに、マヌカハニーを塗ってモグモグしたシノさんは、ようやく目が醒めた様子で敬一クンを見る。
「ええと、それが……」
「敬一、食事が冷めてしまう。早く座りたまえ」
「いえ、それが……その」
シノさんを起こそうとしていた時は、切羽詰まって逼迫した様子だったのに、いざ話を聞こうとシノさんが促すと、敬一クンは歯切れの悪い返事をして座ろうともしない。
「んん~? どしたん?」
「それが……、ちょっと事情があって……」
もぞもぞしている敬一クンは、こころなし胯間をカバーするような、不自然な動きをしている。
「ケイちゃん、お尻でも痛いの?」
「いえ、尻は……まぁ、大丈夫です……」
「じゃあ、ドコがモンダイなン?」
「問題は……その……。言葉ではちょっと、説明しづらくて……」
敬一クンの様子に、シノさんと白砂サンは顔を見合わせて、シノさんはおもむろに椅子から立ち上がり、既に立っていた白砂サンはそのまま敬一クンに歩み寄った。
敬一クンに向かってシノさんがクイクイと奇妙なジェスチャーをしてみせたが、敬一クンはエビセンと違いジェスチャーが読み取れなかったらしく、困った顔のままだ。
「敬一。柊一は、下着の中を見せろと言っている」
「え? ああ……はい」
ストレートな白砂サンの補足に、敬一クンはトレパンのウエストを引っ張った。
「う~む」
逞しい体躯のイケメンが、トレパンの腰ゴムをビヨヨ~ンと引っ張っている図もかなりマヌケだが、そこを顔だけはやたらと美形な二人の男が覗き込んでいる構図は、マヌケ感が更に大幅アップされる。
「これは、痛そうだ」
しげしげと、自分も敬一クンのトレパンのゴム(というか、たぶん下着の腰ゴムまで)を引っ張って覗き込んでいる白砂サンは、そのまま敬一クンのパンツの中に手を突っ込みそうな勢いだ。
一方のシノさんは敬一クンにクルッと背中を向け、今にも爆笑しそうな顔をしていたが、ビビリ顔で成り行きを見ている俺と目が合ったところで、顔を整え直した。
「大変なコトになったのう。とりあえず、氷嚢を作って、冷やすかの」
「それは昨日の晩から、海老坂が冷やしてくれてました。でも、まだ、酷く痛い。こんな状態で、どうやって用を足せばいいのか、兄さんに相談したくて起きてもらったんです」
「だが、結論からゆーと、冷やす以外に手段はナイと思うぞよ」
シノさんは、うんうんとそれっぽく頷いているが、口の端っこがヒクヒクしてた。
§
シノさんが笑いをこらえているのに対し、白砂サンはいつも通りの鉄面皮で、しかもいきなり怖い発言をする。
「挿入された管は、市販されているポリプロピレン製のストローなどかね?」
最小限の刺激で身なりを整えていた敬一クンは、白砂サンの質問にビックリしたような様子で顔を上げた。
「あの……、そんな管を挿し込まれたと、俺が説明しましたか?」
「していない。だが、ペニスがそのように赤く腫れ上がっている理由は、君に装着されている貞操リングを外さずに射精をさせようとして、管を挿入した以外に考えられないと思うが?」
具体的な白砂サンの説明を聞いただけで、俺は胯間がキューッと痛くなりそうだ。
「ああ、なるほど。……えっと、金属製だったように見えました。ステンレスみたいな……、正確には解りませんが」
「先端部が丸く加工されている物かね?」
「多分、そうだったと思いますが、しっかり見た訳では無いので……」
「それなら、内側に裂傷は無いだろう。痛むだろうが、しばらくすれば腫れは引く」
「しばらく……って、どれぐらいですか?」
「ふむ、そうだな。今は下着が触れただけで痛むだろうが、明日になれば小用を足す時や強い刺激を受けた時に痛む程度になるだろう。まぁ、数日違和感はあると思うが」
「ええっ、明日になってもまだ痛むんですか?」
「腫れが完全に引くまでは、刺激を受ければ痛むに決まっている。そんなことは、ペニスに限ることでもあるまい。だが、手足の捻挫のような内出血があったり、外傷を与えられたのでは無いから、特別な治療をする必要は無いだろう」
「医者に行っても駄目でしょうか?」
「ケイちゃん、医者とゆーのはナ。痛いトコロをいじくり回して痛さを倍増させる輩だゾ。バイキンが入って膿んじゃったーとか、傷から血がバーバー出てるーとか、そーいうコトにならぬウチは医者になんか診せんほーがエエ」
「診せれば、痛み止めを処方してもらえるのでは?」
「食事をしたら、常備している鎮痛剤を飲みたまえ」
「それで痛みが止まりますか」
「いや、気休めになるだけだ」
「えっ、それだけですか?」
「先刻も言ったが、無理を強いられて熱を発しながら腫れている状況は、身体の部位はどこも同じだ。スポーツ系のクラブに所属していたなら、そういった怪我の対処法は学んだのでは?」
「手足の捻挫や脱臼の対処なら、心得ていますが、こんな場所がこんなことになったのは、初めてなので……」
「痛みが酷い時に鎮痛剤を使っても、安静にせずその部位を動かせば、痛みが走る。鎮痛剤は麻酔ではないからな」
「はあ……」
敬一クンは、半ば力尽きるように傍にあった椅子に座り込み、大きなため息を吐く。
「兄さんなら、少しは楽になる方法を知っているかと思ったんだが……」
「ご期待に添えず、申し訳ないのう」
同情的な声を出しているが、シノさんの顔には、敬一クンがそんなトンデモ状態になった顛末を知りたい好奇心がにじみ出ている。
「チビ達を登校させましたよ」
玄関の開閉音がして、ドスドス足音を響かせながらエビセンが戻ってきた。
「ご苦労。用事を押し付けて申し訳なかったな」
「適材適所でしょう。そんで、中師はどうにかなりそうですか?」
「海老坂君が冷やしてくれたと聞いたが、お陰で状況はマシだ」
「これでマシな状態なんですか?!」
白砂サンのコメントに、敬一クンは仰天したように顔を上げた。
「先端の開口部とその周辺が腫れているだけだろう?」
「ですが、まだものすごく痛みがありますがっ?!」
「一晩冷やさずそのままにしていたらペニス全体が腫れ上がって、今朝は下着も身に着けられないほどだったろう。ポリプロピレン製のストローを使われていたら、内壁を傷付けられて、小用を足したら火を点けられたような激痛が走る。衛生を保ちにくい部位だから、傷があったら化膿するだろう。その場合……」
白砂サンは殆ど表情も変えずに声音も淡々としていたが、俺はもう怖気上がって両手で耳を塞ぎたくなった。
「もう、いいです……」
げんなりした様子で、敬一クンが白砂サンのコメントを止めた。
いつもならそこにランニングから帰ってきた敬一クンが現れて、朝の挨拶をしながら一緒にエレベーターに乗り込むのだが、今朝は現れない。
別に待つ理由も無いので、俺はなんとなく物足りないような気分になりつつ、エレベーターでペントハウスに上がった。
いつも通りにシノさんを起こすつもりで、玄関を抜けたあとは直接シノさんの寝室に入る扉を開けたのだが……。
「兄さん、起きてください」
「あ~……、ケイちゃん~……、ちぃっと待ってくれェ……俺まだ、ねみくて……」
「兄さん!」
シノさんのキングサイズのベッドの上には、まだ半分寝ているシノさんと、いやに切羽詰まった様子の敬一クンと、敬一クンと一緒になってシノさんを起こそうとしているスバルが居た。
「兄さん、頼むから起きて!」
「あと5分……あとごくんにゃけらぁ~……」
眠気のあまり呂律もおかしいシノさんは、敬一クンに引っ張り上げられて斜めに傾いているが、両腕にしっかと枕を抱いていて、グダグダな様子だ。
そもそも敬一クンがロードワークもせずに、朝はグダグダのシノさんを起こそうとしているってだけでも、トンデモトラブルのニオイがプンプンしている。
嫌な予感を覚えて、俺はそのままそっと扉を閉めると、リビングに入る扉を開けてキッチンに向かった。
キッチンには一階の厨房に直通の電話と言うか、インターフォンのような物があるから、白砂サンを呼ぶために使いたかったからだ。
例えどんなにトンデモトラブルだったとしても、白砂サンなら良くも悪くも決着をつける方法を考案できるだろうが、俺には絶対に無理だ。
だけどそこでリビングに入ると、グリーンのソファになぜかエビセンが寝ていた。
なんでこんな所にエビセンが居るの? と思ったけど、わざわざ起こしたくもなかったので、俺は足音を忍ばせてキッチンに行った。
敬一クンは、平素はおっとりしすぎているぐらい穏やかな天然モードだが、スイッチが入ると、急にキビキビとキレ者の能力を発揮するシビアモードに切り替わる。
だけど最近わかったのだが、敬一クンには天然とシビアの他に『テンパリモード』という第三形態がある。
ある意味、テンパリモードは平素の天然にシビアモードの行動力だけが発動した状態な気がしなくも無いが、テンパリモードの敬一クンは、天然モードの時以上に空気が読めない……というか、周りが全く見えなくなってしまうらしく、子供には聞かせられないようなトンデモ話を所構わず赤裸々に喋り始めるような、軽率なポカをやらかす。
内線電話で白砂サンに上に来て欲しいと言ってから、俺はシノさんの部屋に戻った。
「兄さん! 起きて! 話を聞いて下さい!」
「わがっでぃる……わがっでるがらぁぁぁ~……」
敬一クンはシノさんを起こそうと奮闘しているが、シノさんはまだグダグダだ。
しかし先程見た時から思っているのだが、あんなにぐらんぐらんと頭が取れそうなほど振り回されていたら、眠気が飛んだら吐き気が訪れるんじゃないかと俺は思った。
「どうしたのかね?」
後ろから、白砂サンに声を掛けられて、俺は振り返る。
「あー、なんか事態は全くワカラナイんすけど……」
やってきた白砂サンは寝室の様子をチラッと見ると、踵を返してスタスタとキッチンに向かい、手早く朝食の用意を始めた。
程なくしてシノさんの鼻を刺激する、素晴らしいコーヒーの香りが漂ってくる。
店で出すコーヒーはサーバーに任せているが、白砂サンが自室やペントハウスのキッチンでコーヒーを淹れる時は、手ずからドリッパーを使う。
すると同じ豆を使っているはずのコーヒーが、 "匂い" ではなく "香り" と呼ぶに相応しい物になる。
この格段の差が一体どこからくるのかは解らないが、寝覚めのシノさんには効果テキメンだった。
「セイちゃぁん、コーヒーちょうだぁい」
欲求のみで動くゾンビみたいに、寝室から出てきてダイニングテーブルにとっついたシノさんの前に、白砂サンがカップを置く。
と、そのあとに続いてのっそりとエビセンも現れた。
「俺にもコーヒー貰えますか?」
「君の分は、こちらのマグで頼む」
エビセンが手渡されたのはステンレス製の蓋付きマグで、渡しながら白砂サンはチラッと目配せをした。
蓋付きマグとアイコンタクトを見たところで、察しの良いエビセンは直ぐに白砂サンの意図を読み取り、マグを受け取るとそこで敬一クンの周りをグルグルしているスバルをヒョイと捕獲した。
「なにすんだよエビ~! 朝ごはん食べるんだから、放せってば!」
「オマエは白砂サンの部屋で、ミナトと一緒に朝メシだ」
「やだよ! 僕、ケイの話、聞かなきゃだもんっ!」
「ウルセェ、じたばたすんなっ。手間掛けさせると、ケツを引っ叩くぞ」
「ケイは僕の猫だぞっ! 放せよ~!」
ワアワア言ってるスバルの声が遠ざかっていく。
白砂サンは、湯気の上がっている朝食のプレートを三人分、サクサクとダイニングテーブルに運んだ。
「多聞君、朝食が冷めてしまうよ」
本当は、朝メシを食べながらトンデモ話を聞かされるのは非常に気が進まなかったが、こうなっては仕方が無く、俺は自分の定席に着いた。
「そんで~? 俺に何の相談よ?」
極上のコーヒーを啜り込み、バターの焼き目もカリカリとしたトーストに、マヌカハニーを塗ってモグモグしたシノさんは、ようやく目が醒めた様子で敬一クンを見る。
「ええと、それが……」
「敬一、食事が冷めてしまう。早く座りたまえ」
「いえ、それが……その」
シノさんを起こそうとしていた時は、切羽詰まって逼迫した様子だったのに、いざ話を聞こうとシノさんが促すと、敬一クンは歯切れの悪い返事をして座ろうともしない。
「んん~? どしたん?」
「それが……、ちょっと事情があって……」
もぞもぞしている敬一クンは、こころなし胯間をカバーするような、不自然な動きをしている。
「ケイちゃん、お尻でも痛いの?」
「いえ、尻は……まぁ、大丈夫です……」
「じゃあ、ドコがモンダイなン?」
「問題は……その……。言葉ではちょっと、説明しづらくて……」
敬一クンの様子に、シノさんと白砂サンは顔を見合わせて、シノさんはおもむろに椅子から立ち上がり、既に立っていた白砂サンはそのまま敬一クンに歩み寄った。
敬一クンに向かってシノさんがクイクイと奇妙なジェスチャーをしてみせたが、敬一クンはエビセンと違いジェスチャーが読み取れなかったらしく、困った顔のままだ。
「敬一。柊一は、下着の中を見せろと言っている」
「え? ああ……はい」
ストレートな白砂サンの補足に、敬一クンはトレパンのウエストを引っ張った。
「う~む」
逞しい体躯のイケメンが、トレパンの腰ゴムをビヨヨ~ンと引っ張っている図もかなりマヌケだが、そこを顔だけはやたらと美形な二人の男が覗き込んでいる構図は、マヌケ感が更に大幅アップされる。
「これは、痛そうだ」
しげしげと、自分も敬一クンのトレパンのゴム(というか、たぶん下着の腰ゴムまで)を引っ張って覗き込んでいる白砂サンは、そのまま敬一クンのパンツの中に手を突っ込みそうな勢いだ。
一方のシノさんは敬一クンにクルッと背中を向け、今にも爆笑しそうな顔をしていたが、ビビリ顔で成り行きを見ている俺と目が合ったところで、顔を整え直した。
「大変なコトになったのう。とりあえず、氷嚢を作って、冷やすかの」
「それは昨日の晩から、海老坂が冷やしてくれてました。でも、まだ、酷く痛い。こんな状態で、どうやって用を足せばいいのか、兄さんに相談したくて起きてもらったんです」
「だが、結論からゆーと、冷やす以外に手段はナイと思うぞよ」
シノさんは、うんうんとそれっぽく頷いているが、口の端っこがヒクヒクしてた。
§
シノさんが笑いをこらえているのに対し、白砂サンはいつも通りの鉄面皮で、しかもいきなり怖い発言をする。
「挿入された管は、市販されているポリプロピレン製のストローなどかね?」
最小限の刺激で身なりを整えていた敬一クンは、白砂サンの質問にビックリしたような様子で顔を上げた。
「あの……、そんな管を挿し込まれたと、俺が説明しましたか?」
「していない。だが、ペニスがそのように赤く腫れ上がっている理由は、君に装着されている貞操リングを外さずに射精をさせようとして、管を挿入した以外に考えられないと思うが?」
具体的な白砂サンの説明を聞いただけで、俺は胯間がキューッと痛くなりそうだ。
「ああ、なるほど。……えっと、金属製だったように見えました。ステンレスみたいな……、正確には解りませんが」
「先端部が丸く加工されている物かね?」
「多分、そうだったと思いますが、しっかり見た訳では無いので……」
「それなら、内側に裂傷は無いだろう。痛むだろうが、しばらくすれば腫れは引く」
「しばらく……って、どれぐらいですか?」
「ふむ、そうだな。今は下着が触れただけで痛むだろうが、明日になれば小用を足す時や強い刺激を受けた時に痛む程度になるだろう。まぁ、数日違和感はあると思うが」
「ええっ、明日になってもまだ痛むんですか?」
「腫れが完全に引くまでは、刺激を受ければ痛むに決まっている。そんなことは、ペニスに限ることでもあるまい。だが、手足の捻挫のような内出血があったり、外傷を与えられたのでは無いから、特別な治療をする必要は無いだろう」
「医者に行っても駄目でしょうか?」
「ケイちゃん、医者とゆーのはナ。痛いトコロをいじくり回して痛さを倍増させる輩だゾ。バイキンが入って膿んじゃったーとか、傷から血がバーバー出てるーとか、そーいうコトにならぬウチは医者になんか診せんほーがエエ」
「診せれば、痛み止めを処方してもらえるのでは?」
「食事をしたら、常備している鎮痛剤を飲みたまえ」
「それで痛みが止まりますか」
「いや、気休めになるだけだ」
「えっ、それだけですか?」
「先刻も言ったが、無理を強いられて熱を発しながら腫れている状況は、身体の部位はどこも同じだ。スポーツ系のクラブに所属していたなら、そういった怪我の対処法は学んだのでは?」
「手足の捻挫や脱臼の対処なら、心得ていますが、こんな場所がこんなことになったのは、初めてなので……」
「痛みが酷い時に鎮痛剤を使っても、安静にせずその部位を動かせば、痛みが走る。鎮痛剤は麻酔ではないからな」
「はあ……」
敬一クンは、半ば力尽きるように傍にあった椅子に座り込み、大きなため息を吐く。
「兄さんなら、少しは楽になる方法を知っているかと思ったんだが……」
「ご期待に添えず、申し訳ないのう」
同情的な声を出しているが、シノさんの顔には、敬一クンがそんなトンデモ状態になった顛末を知りたい好奇心がにじみ出ている。
「チビ達を登校させましたよ」
玄関の開閉音がして、ドスドス足音を響かせながらエビセンが戻ってきた。
「ご苦労。用事を押し付けて申し訳なかったな」
「適材適所でしょう。そんで、中師はどうにかなりそうですか?」
「海老坂君が冷やしてくれたと聞いたが、お陰で状況はマシだ」
「これでマシな状態なんですか?!」
白砂サンのコメントに、敬一クンは仰天したように顔を上げた。
「先端の開口部とその周辺が腫れているだけだろう?」
「ですが、まだものすごく痛みがありますがっ?!」
「一晩冷やさずそのままにしていたらペニス全体が腫れ上がって、今朝は下着も身に着けられないほどだったろう。ポリプロピレン製のストローを使われていたら、内壁を傷付けられて、小用を足したら火を点けられたような激痛が走る。衛生を保ちにくい部位だから、傷があったら化膿するだろう。その場合……」
白砂サンは殆ど表情も変えずに声音も淡々としていたが、俺はもう怖気上がって両手で耳を塞ぎたくなった。
「もう、いいです……」
げんなりした様子で、敬一クンが白砂サンのコメントを止めた。
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