MAESTRO-K!

琉斗六

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S3:猫と盗聴器

26.オタク部屋の廊下

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「そんで、留守中なんか変わったコトあった?」
「変わったつーか……」

 シノさんの土産話が一段落したところで、俺は白砂サンが猫をミナミに譲渡した話と、猫屋敷に子供が居た話をした。

「うわーなにそれ! アマミーってば、隠し子いたの!」

 子供の話にシノさんは目を輝かせた。

「なんなの、その顔は。言い寄ってきてるオトコに隠し子いたんだよ?」
「だから、そう言ったじゃん」
「嬉しそうだけど?」
「そんなコトねェよ」
「子供を一人にしたまま夜中まで連絡が取れないなんて、南さんも困った人だな」
「んだな、まったく困ったアマミーだ」

 深刻に受け止めている敬一クンに、シノさんは相槌を打っているが、その顔はどう見ても面白がっている。

「そんで? アマミーと連絡付いたん?」
「どうかなあ? 昨日の夜別れて、白砂サンとは今日まだ会ってないから」
「ほんじゃ、俺はその子の顔見に行こーっと」
「は? なんなのそれ?」
「なんなのって、俺は大家じゃもん。店子ンとこでトラブルが発生したら、即参上! がセオリーってモンじゃん!」

 ニシシと笑って、シノさんは部屋を出て行く。
 敬一クンの手前、口に出して「面白いことになった~」とは言わなかったが、態度にはただの野次馬根性なのがアリアリしている。
 俺は心配だったのでシノさんのあとに付いて行き、俺とは違う理由で心配を感じたらしい敬一クンも付いてきた。

 白砂サンの部屋は、ペントハウスからフロアをひとつ降りた4階のA室だ。
 最初に俺がメゾンに入居する時、俺はシノさんのペントハウスからフロアをひとつ降りるだけのほうがラクだろうと思って4階を選び、あんまり考えずに表通りに面しているほうの部屋を選んだらB室だったので、白砂サンの部屋は俺の隣ってことだ。
 シノさんは扉をノックすると、返事を待たずに中へハイった。
 ちなみにこのビルのドアには、ドアチャイムは付いていない。

「も~にん、セイちゃん! お邪魔しちうよ~」

 シノさんが声を掛けると、白砂サンはLDKの扉を開けて出迎えた。

「おはよう、柊一」

 遠慮会釈もなく、ズケズケと上がり込んできたシノさんを、白砂サンは気にするふうでもない。
 4階と3階の居住スペースは、左右対称の同じ造りになっているので、白砂サンの部屋は俺の部屋とは配置が逆になっているけど、要は同じで玄関扉をハイって三和土で靴を脱ぎ、各部屋に繋がる廊下に上がる形になっている。
 だけど白砂サンは、その玄関にある作り付けの下駄箱の一部を改造して、フィギュアというか、彩色された胸像を置いている。

 わざわざ人間と同じ目の高さに顔が来る位置の板を抜いて、アクリルで出来た大きなケースの中に等身大の胸像が置かれているので、チラッと視界にハイった瞬間、そこにヒトが居るように感じてギョッとする。
 しかもそのQ太とかなんとか白砂サンが呼んでいる胸像は、土気色と言うか灰色と言うかとにかくめっちゃ顔色が悪いハゲのおっさんで、しかも顔半分がメカだらけのゾンビみたいで、ものすごくキモい。
 海外ドラマのキャラなので当然元のモデルは西洋人で、目鼻立ちがハッキリしているのだけど、人形だから目が死んでいるというか、どんよりした目つきが余計に薄気味うすきみ悪いし、演出なんだろうけど玄関周りの明かりは、その胸像を上から照らしているライトしかなくて、うすらぼんやりと暗闇に不気味な胸像が浮かび上がっている形になっていて、正直めっちゃコワイ。

 各部屋へ通じる廊下は真っ直ぐだが、窓が無いので明かりをつけなきゃ暗い。
 この廊下を白砂サンは巧みな飾り棚と巧みなワイヤー技術で、なんと言うか観光地にある個人経営の博物館みたいにしてあった。
 普通は賃貸アパートの壁や天井にそんなことしたら大問題なんだけど、白砂サンがこのスペースに自分のコレクションを飾りたいとシノさんに相談したら、むしろコレクションの内容にシノさんのほうがノリノリになった。
 結果、白砂サンの小さな博物館が模様替えされるのを、シノさんは毎回ものすごく楽しみにしている。

 コグマがビビッたエイリアンは、多分実寸大ってシロモノなんだと思うが、廊下の一番奥の薄暗がりの、しかも天井付近に吊るされた格好になっていて、そばに近づいた時にスポットライトが当たる仕組みになっている。
 こんなのに驚くなってほうが無理だ。

 その他にも、金ピカでロボみたいなこれまた実寸大っぽいなんかの頭部は傍に寄ると目が光るし、宇宙船のオモチャとかレトロな感じの宇宙人のフィギュアとか、みんな凝ったギミックが凝らしてあって、だいたいどれも傍に寄ると光ったり音が出たりする。
 俺のような小心者には、完全に恐怖の館そのものって感じだ。
 こんな大所帯で、よくもまぁ「ジジイとのトラブルで再三急遽の引っ越し」が出来たモンだとむしろ感心してしまう。
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