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20、地獄谷宅にて
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具視は携帯を取り出してかばんを龍太郎に預け、ドキドキしながら後部座席に滑り込んだ。借りてきた猫みたいにちょこんと座っていると、2人が前に乗って車が動きだした。
車内は怖ろしいくらいに静かで、密閉性が高いせいか、さっきまで聞こえていた町の雑音は遮断された。座り心地も申し分ない。だけど、新幹線に揺られている時よりもリラックスはできなかった。
ハンドルにかけた龍太郎の手が見えた。ゴツゴツしていて、指には銀色の指輪がいくつもはめられている。
「きょうはお仕事なんですか? スーツ着ていますけど」
「いい質問だ」
信号が赤になって止まると、龍太郎はジャケットの内側を開いて見せた。見たこともない銀色の道具がびっしり詰まっていた。
「武器内蔵型スーツ。払霧師って、日勤と夜勤の交代制なんだ。勤務時間外でも、いつ霧の襲撃があってもいいように簡単な装備は持ち歩いている。まぁ、紫奇霧人はずる賢いからな、人間が一番隙だらけになる夜の時間帯を狙ってくることが多い。払霧師はプライベートでも気を抜いちゃいけない。少ない人数で回しているからな。やつらは、人間に紛れているのさ」
龍太郎はハンドルを左に切りながら言った。
「素人目に見ても判断はつかない。それほどまでに、やつらは人間に近しい姿をしているんだ。言葉も話すし、学習能力も高い。一言で言うなら、人間に憧れた怪物ってとこだな」
「でも……」具視は目を細めた。「目の色が、違います」
「そういやお前、紫奇霧人を1回見たことがあるんだってな。あれは霧を吸って吐いている時にだけなる特異な現象だ。霧がなければ、やつらも俺たちと変わらない目をしている。それじゃなくて、もっと確実に見分ける方法を教えてやろう。体温だ」
「体温?」
「そうだ。人間の平熱は37度程度だけど、紫奇霧人は極端に低い10度台。その中でもと呼ばれる一部分だけが50度台の高温になっている。個体によって核の場所は違う。首だったり、手首だったり、はたまた一部の臓器だったり。その核に大きな損傷を与えられればこっちのもんだ。けどまぁ、最近の紫奇霧人は隠すのがうまくてな。表面上は人間と同じ体温にしていることもある」
「そっ、そんなことができるんですか?」
「お前も払霧師大学に入れば学ぶことだ。ちなみに今のは教本の72ページな。まず、入学して早々紫奇霧人解剖録から入る。覚えることがたくさんあるぞ」
「守護影審査の方が先だ」
也草がボソッと言った。
30分ほどして中野区に入った。道路を真っすぐ進み、渋滞を抜けて閑静な住宅街に出る。細々とした小道を進んで行くと、急に視界が開けて立派な土塀が現れた。昔からこの土地に住んでいる地主の豪邸だろう。
なんて思っていたら、車は門から塀の中に入っていった。中には昔ながらの日本家屋が立っていて、縁側の向かいには広々とした波形の石庭が続いていた。
(え……?)
「着いたぞ。ここがきょうからお前が暮らす場所だ。部屋なら何個も空いているし、好きな所使ってくれて構わない。也草、お前の隣の部屋、あそこいいんじゃないか? 案内してやれ」
驚きで開いた口がふさがらない中、具視はかばんを持たされ、也草にグイグイ引っ張られて屋敷の中に入った。廊下を1匹の三毛猫が鈴を鳴らして通り過ぎていった。
(聞いてないぞ。俺はてっきり、東京四畳半のオンボロアパートを想像して……)
也草についていくと、祖母の家の居間より広い和室に通された。
「荷物なら裏口に届いている。荷台を貸そう」
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「龍太郎さんって、代々続く名家の跡取りとか? すごいお屋敷だなぁって思って。東京でこんな家に住めるのはそんなにいませんよ。一代やそっとじゃ築けないでしょうし」
也草は数秒黙った。
「本人に聞けばいい」
との回答だったので、これ以上深いことを聞くのはよした。さっそく荷物を取りに裏口へ行き、せっせと部屋の中に運び込んでいった。とりあえず送った荷物は置いてみたものの、部屋が広すぎて空白が目立つ。布団を敷いて寝る横に化粧台を置き、その上に家族の写真、聴具の指輪を置いた。
(ひとまずこれで安心だな。引っ越しも無事に終わったし、也草さんたちとも会えた)
具視は携帯で祖母に無事到着したことを連絡した。きょうの朝まで村にいたなんて信じられないくらいの変わりようだった。
車内は怖ろしいくらいに静かで、密閉性が高いせいか、さっきまで聞こえていた町の雑音は遮断された。座り心地も申し分ない。だけど、新幹線に揺られている時よりもリラックスはできなかった。
ハンドルにかけた龍太郎の手が見えた。ゴツゴツしていて、指には銀色の指輪がいくつもはめられている。
「きょうはお仕事なんですか? スーツ着ていますけど」
「いい質問だ」
信号が赤になって止まると、龍太郎はジャケットの内側を開いて見せた。見たこともない銀色の道具がびっしり詰まっていた。
「武器内蔵型スーツ。払霧師って、日勤と夜勤の交代制なんだ。勤務時間外でも、いつ霧の襲撃があってもいいように簡単な装備は持ち歩いている。まぁ、紫奇霧人はずる賢いからな、人間が一番隙だらけになる夜の時間帯を狙ってくることが多い。払霧師はプライベートでも気を抜いちゃいけない。少ない人数で回しているからな。やつらは、人間に紛れているのさ」
龍太郎はハンドルを左に切りながら言った。
「素人目に見ても判断はつかない。それほどまでに、やつらは人間に近しい姿をしているんだ。言葉も話すし、学習能力も高い。一言で言うなら、人間に憧れた怪物ってとこだな」
「でも……」具視は目を細めた。「目の色が、違います」
「そういやお前、紫奇霧人を1回見たことがあるんだってな。あれは霧を吸って吐いている時にだけなる特異な現象だ。霧がなければ、やつらも俺たちと変わらない目をしている。それじゃなくて、もっと確実に見分ける方法を教えてやろう。体温だ」
「体温?」
「そうだ。人間の平熱は37度程度だけど、紫奇霧人は極端に低い10度台。その中でもと呼ばれる一部分だけが50度台の高温になっている。個体によって核の場所は違う。首だったり、手首だったり、はたまた一部の臓器だったり。その核に大きな損傷を与えられればこっちのもんだ。けどまぁ、最近の紫奇霧人は隠すのがうまくてな。表面上は人間と同じ体温にしていることもある」
「そっ、そんなことができるんですか?」
「お前も払霧師大学に入れば学ぶことだ。ちなみに今のは教本の72ページな。まず、入学して早々紫奇霧人解剖録から入る。覚えることがたくさんあるぞ」
「守護影審査の方が先だ」
也草がボソッと言った。
30分ほどして中野区に入った。道路を真っすぐ進み、渋滞を抜けて閑静な住宅街に出る。細々とした小道を進んで行くと、急に視界が開けて立派な土塀が現れた。昔からこの土地に住んでいる地主の豪邸だろう。
なんて思っていたら、車は門から塀の中に入っていった。中には昔ながらの日本家屋が立っていて、縁側の向かいには広々とした波形の石庭が続いていた。
(え……?)
「着いたぞ。ここがきょうからお前が暮らす場所だ。部屋なら何個も空いているし、好きな所使ってくれて構わない。也草、お前の隣の部屋、あそこいいんじゃないか? 案内してやれ」
驚きで開いた口がふさがらない中、具視はかばんを持たされ、也草にグイグイ引っ張られて屋敷の中に入った。廊下を1匹の三毛猫が鈴を鳴らして通り過ぎていった。
(聞いてないぞ。俺はてっきり、東京四畳半のオンボロアパートを想像して……)
也草についていくと、祖母の家の居間より広い和室に通された。
「荷物なら裏口に届いている。荷台を貸そう」
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「龍太郎さんって、代々続く名家の跡取りとか? すごいお屋敷だなぁって思って。東京でこんな家に住めるのはそんなにいませんよ。一代やそっとじゃ築けないでしょうし」
也草は数秒黙った。
「本人に聞けばいい」
との回答だったので、これ以上深いことを聞くのはよした。さっそく荷物を取りに裏口へ行き、せっせと部屋の中に運び込んでいった。とりあえず送った荷物は置いてみたものの、部屋が広すぎて空白が目立つ。布団を敷いて寝る横に化粧台を置き、その上に家族の写真、聴具の指輪を置いた。
(ひとまずこれで安心だな。引っ越しも無事に終わったし、也草さんたちとも会えた)
具視は携帯で祖母に無事到着したことを連絡した。きょうの朝まで村にいたなんて信じられないくらいの変わりようだった。
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注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
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