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●第十五話
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帰ってきた神也と食卓で顔を合わせた時、和妃はそれを聞き、少しだけ嬉しくなった。
「言っておくけど、本当に形だけだからな。仕方ねえだろ、静がそう認めたんだからさ」
ぶすっとしてカニグラタンを口に運ぶ神也は言ったが、ほのかに睨みつけられて知らんぷりをして食べることに専念する。
「和妃ちゃんのことなんだけど、学校。行っても大丈夫よね」
マカロニサラダをつつきながら、ほのかは章地に尋ねる。
「『朱』も卑怯なやり方はしないだろうし、今のところ和妃ちゃんの能力も知られていないだろうから、案ずることはないだろうとは思うが」
章地は黙々とスープをすする望を意味ありげに見る。
「他の学校に転校させるのも面倒だしな。かえって目立つだろう」
「でもボディーガードは必要でしょ」
「まあ、リアライザーともなればなあ」
「従兄ということにすれば問題ないでしょう」
スープを一時中断し、マカロニサラダのお皿を和妃に取ってやりながら、望。
「心配ですし、ぼくはむしろ彼女のボディーガードを希望します」
望のこういう優しさに慣れていない和妃は、恥ずかしくてうつむいてしまう。
「ヤケドしそう」
わざとらしくスープをすする神也の足を、隣の席にいたほのかが思いっきり踏んづける。
「いてえ!」
「足元には気をつけろよ」
章地はくすくす笑い、望を見た。
「向こうの情報網がどれだけのものか分からないから何とも言えないが、そうだな、どの道リアライザーのことは『朱』には知れるだろう。やってくれるとありがたいな」
「では、手続きをお願いします」
すると章地はほのかにめくばせした。
「はいはい、工作ね。今の時間じゃ明日から通わせるってのは無理かもしれないけど」
ほのかは肩をすくめる。あれから聞いた話だと、ほのかは大変頭がいいそうだ。
現在高校は休学中らしいが、はっきり言って彼女の頭脳では教師のほうがついていけないらしい。
「いや、明日から大丈夫」
そして、章地が何故リーダーをやっているのか、という理由も教えられた。
彼は結界能力のほか、直感力にも優れているらしい。
これは静や和妃と同様にコントロールは不可能らしいが、例えば道がふたつ分かれているとして、それを前にした時どちらを選べば出口に行けるのか分かるのだという。
ただし絶対確実で外れない反面、欠点もある。あくまでも「現時点」での直感しか分からないのだ。
極端なことを言えば、例えば人選などの時「A君がいいかB君がいいか……B君に決定」とした場合、それがどれだけの未来まで有効な「直感」なのか不明だということである。
B君が裏切ることがあっても、そこまでを直感できないこともあるのだ。
また、その逆までも読めることがあって「A君がいい」と直感することもあるのだそうだ。
だから彼が「明日からでも大丈夫」と言えば、かなりの確率で「大丈夫」だと思っていいのだ。
もっとも、これまでに外れたことがないのだから、望と和妃が学校に行く直前までにその直感に変更がなければ、正しいと思って差し支えなかった。
そして翌朝になると、章地の直感は確実だということが証明された。
夜中の間にほのかが自室にこもりっきりで頑張ってくれたため── 彼女の部屋にはパソコンや専用のコンピュータが何台もあり、それを使ってあちこちに連絡を取ったらしい──何のコネを使ったのか、その日から和妃の高校への望の転入が認められたのだった。
「さすがに制服はまだだから、今日のところは今までの高校のものを使ってちょうだい」
ほのかに見送られて、和妃は望と共に白宮家を出た。
一度家に帰らなくてもいいものだろうか、とほのかは章地に尋ねたが、彼女がそう言い出すまで和妃自身、家のことなど忘れてしまっていた。不安もいっぱいあることは確かだったが、こんなに充実していたのも初めてだったのだ。
「和妃ちゃんは家出したことにしてあるからなあ」
章地がそう暴露したときも、それほどショックではなかった。
実際、家出したいと思ったことが何度もあったから、かえってそのままでもいいと和か妃は言った。
聞くと、和妃の両親には一応連絡先として、別回線の電話番号を教えてあるのだという。
それでも一度だって連絡が来ないのだから、家族のほうもそれほど和妃のことを重大視していないのだろう。
携帯電話は、和妃は元々持っていない。
中学の時一度持ったけれど、結局誰とも電話番号やメアドを交換することもなかったし、まれにあったとしても、一度もかかってくることはなかったから、高校入学のときに解約していた。
突然「家出」をした和妃に対しても、連絡先が分かっていても家族はなんにも行動を起こしてこない。でも、それも淋しくはなかった。
いつも姉を囲んでいた家庭。
それを思い出すと、不思議ではない気がした。
「言っておくけど、本当に形だけだからな。仕方ねえだろ、静がそう認めたんだからさ」
ぶすっとしてカニグラタンを口に運ぶ神也は言ったが、ほのかに睨みつけられて知らんぷりをして食べることに専念する。
「和妃ちゃんのことなんだけど、学校。行っても大丈夫よね」
マカロニサラダをつつきながら、ほのかは章地に尋ねる。
「『朱』も卑怯なやり方はしないだろうし、今のところ和妃ちゃんの能力も知られていないだろうから、案ずることはないだろうとは思うが」
章地は黙々とスープをすする望を意味ありげに見る。
「他の学校に転校させるのも面倒だしな。かえって目立つだろう」
「でもボディーガードは必要でしょ」
「まあ、リアライザーともなればなあ」
「従兄ということにすれば問題ないでしょう」
スープを一時中断し、マカロニサラダのお皿を和妃に取ってやりながら、望。
「心配ですし、ぼくはむしろ彼女のボディーガードを希望します」
望のこういう優しさに慣れていない和妃は、恥ずかしくてうつむいてしまう。
「ヤケドしそう」
わざとらしくスープをすする神也の足を、隣の席にいたほのかが思いっきり踏んづける。
「いてえ!」
「足元には気をつけろよ」
章地はくすくす笑い、望を見た。
「向こうの情報網がどれだけのものか分からないから何とも言えないが、そうだな、どの道リアライザーのことは『朱』には知れるだろう。やってくれるとありがたいな」
「では、手続きをお願いします」
すると章地はほのかにめくばせした。
「はいはい、工作ね。今の時間じゃ明日から通わせるってのは無理かもしれないけど」
ほのかは肩をすくめる。あれから聞いた話だと、ほのかは大変頭がいいそうだ。
現在高校は休学中らしいが、はっきり言って彼女の頭脳では教師のほうがついていけないらしい。
「いや、明日から大丈夫」
そして、章地が何故リーダーをやっているのか、という理由も教えられた。
彼は結界能力のほか、直感力にも優れているらしい。
これは静や和妃と同様にコントロールは不可能らしいが、例えば道がふたつ分かれているとして、それを前にした時どちらを選べば出口に行けるのか分かるのだという。
ただし絶対確実で外れない反面、欠点もある。あくまでも「現時点」での直感しか分からないのだ。
極端なことを言えば、例えば人選などの時「A君がいいかB君がいいか……B君に決定」とした場合、それがどれだけの未来まで有効な「直感」なのか不明だということである。
B君が裏切ることがあっても、そこまでを直感できないこともあるのだ。
また、その逆までも読めることがあって「A君がいい」と直感することもあるのだそうだ。
だから彼が「明日からでも大丈夫」と言えば、かなりの確率で「大丈夫」だと思っていいのだ。
もっとも、これまでに外れたことがないのだから、望と和妃が学校に行く直前までにその直感に変更がなければ、正しいと思って差し支えなかった。
そして翌朝になると、章地の直感は確実だということが証明された。
夜中の間にほのかが自室にこもりっきりで頑張ってくれたため── 彼女の部屋にはパソコンや専用のコンピュータが何台もあり、それを使ってあちこちに連絡を取ったらしい──何のコネを使ったのか、その日から和妃の高校への望の転入が認められたのだった。
「さすがに制服はまだだから、今日のところは今までの高校のものを使ってちょうだい」
ほのかに見送られて、和妃は望と共に白宮家を出た。
一度家に帰らなくてもいいものだろうか、とほのかは章地に尋ねたが、彼女がそう言い出すまで和妃自身、家のことなど忘れてしまっていた。不安もいっぱいあることは確かだったが、こんなに充実していたのも初めてだったのだ。
「和妃ちゃんは家出したことにしてあるからなあ」
章地がそう暴露したときも、それほどショックではなかった。
実際、家出したいと思ったことが何度もあったから、かえってそのままでもいいと和か妃は言った。
聞くと、和妃の両親には一応連絡先として、別回線の電話番号を教えてあるのだという。
それでも一度だって連絡が来ないのだから、家族のほうもそれほど和妃のことを重大視していないのだろう。
携帯電話は、和妃は元々持っていない。
中学の時一度持ったけれど、結局誰とも電話番号やメアドを交換することもなかったし、まれにあったとしても、一度もかかってくることはなかったから、高校入学のときに解約していた。
突然「家出」をした和妃に対しても、連絡先が分かっていても家族はなんにも行動を起こしてこない。でも、それも淋しくはなかった。
いつも姉を囲んでいた家庭。
それを思い出すと、不思議ではない気がした。
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