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●第十四話
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「規則に則ったものであれば、どんなやり方でも構わないんですか。……こちらがひとりに対して向こうが複数とか、その逆とか」
「基本的には構わないが」
初めて章地が口を挟んだ。ほのかがわずかに身体を強ばらせたのに気付いたはずだが、見なかったふりを決め込むようだ。
「それは大勢で攻めるほうの実力がないと言っているようなものだから、実行する者はまずいないな。『和』側も『朱』側も自分の能力にプライドを持っている奴が殆どだから。
それと、宣誓の言葉を教えておこう」
「えっ……」
和妃は驚いた。
「教えたら、言ってしまうかもしれないのに……ですか? 言ったら『朱』側のメンバーにされるんでしょう」
「宣誓の言葉は仲間になったら必ず教えておく規則なんだ。言うか否か、結局はそれも本人の自由だからね。本人の意志を曲げてまで無理に『和』側についてもらう必要はないんだから」
宣誓をするチャンスが来たら、それを言うか言わないかは本人に任せるというのだ。
「まあ本当のところ、和妃ちゃんには今のところ言うか否かの権利はないんだけれどね。何しろきみが向こうの手に渡ったら、また同じことを繰り返すかもしれないし、そうでないとしても別の悲劇が待っているに違いないから」
そして章地は、宣誓の言葉を和妃に教えた。
『和を捨て、朱に降る』というのがその全文だった。
「現時点ではおれ達は『朱』からの攻撃を迎え撃つだけで、おれ達が攻撃をしかけてはいけないことになっている。これは静が決めたことなんだ」
「父さんが何を考えているかなんて、娘のあたしですら分かったことがないのよ」
ほのかはクッキーをぱりんと頬張る。眉をしかめた。
「何よこれしょっぱいじゃない!」
「基本的な間違いをしたのでは」
今までクッキーを黙々と頬張るだけだった望がぽつりと言う。
「だって望あんた、ずっと食べて──」
「味はどうでもせっかく作ったんだから、食べないとクッキーが可哀想だと思いまして」
「あんたの考えてることもあたしには分からないわ……」
額を押さえて、ほのか。章地がからかうように笑った。
「ほのかちゃんが一緒に住んでるのは、おれ達の身の回りの世話をしてくれるためなんだよなあ。頼むから変なもの食べさせないでね、おかーさんっ」
「妙な呼び名をつけないでちょうだい」
凄味をきかせた声で、ほのかが睨みつける。
「誤解のないように言っておくけどっ、あたしの役目はそれだけじゃないんですからねっ!? この前作った増幅剤のようにあんた達の助けになるようなものを発明してっ……聞いてるの章地っわざとらしくクッキーなんて食べないでくれるかしらよりによってそんな失敗作をっ」
「いや、これはおれのせいだな」
クッキーを頬張り、コーヒーカップを持って立ち上がる章地。
「昨夜夕食のあとに切らした砂糖の容器、あれに間違えて塩を足してしまったんだ。確認しなかったお前も悪いけど、そういうわけで半分はおれのせいなんだな」
「なんですってえ」
ほのかはガタンと立ち上がり、雷を落とした。
「お風呂と玄関とトイレの掃除っ! 今日中によっ!」
「はいはい」
「はいは一回っ」
「はあーい」
「章地っ!!」
親と子供のようなやり取りをするふたりに、和妃は思わず吹き出した。
章地のおかげというかクッキーのおかげというか、暗い空気がどこかに飛んでいってしまった。
「これから大変な日々が始まるだろうけど」
望が微笑む。
「ぼく達を仲間として、認めてくれるかな」
彼は優しい。本来ならばその台詞は和妃のものなのに、そんなふうに気遣ってくれる。
「よろしく……、お願いします」
この家に来て、初めて和妃は微笑みを返した。
その日の夕方、白宮家に電話があった。
出ようとしたほのかを止め、章地は咳払いをして受話器を取った。
「白宮ですが」
『──章地? ……おれ』
予想に違わぬ人物だったらしい。章地は微笑みを浮かべる。
「神也か。どうした?」
明るいその声に、神也はホッとしたらしい。
『今から帰る。あいつ、どこの部屋になったの』
「望の隣に決定。お前も荷物、運び込んだろ」
『ああ、そっか』
神也は黙りこむ。
いつになく歯切れが悪いこんな時は、落ち込んでいるか自己嫌悪しているかだ。
『章地』
「ん?」
『ごめん』
思い切ったように言った言葉に、章地はふっと優しげな目をますます細くした。
「腹が減ったろ。ほのかが夕飯作って待ってるから、早く帰ってこい」
章地の穏やかな言葉に、神也は元気を取り戻したようだ。
『言われなくても、そうする!』
言葉のあとに、すぐに電話は切れた。
章地の言葉を聞いていたほのかは、ソファから立ち上がってエプロンを着け始める。
「どうやらとりあえずの気持ちの整理をつけてくれたようだな」
受話器を置きながら、章地。
「とりあえずでもいいわ。今夜は神也の好きなもの作らなくちゃ」
「食物で懐柔かい?」
「一番とは言わないけど、神也にはそれが効果的だわ」
ごもっとも、と彼をよく知る章地は納得した。
とにかくこの日、多少憮然としながらではあったが、神也は和妃を「一応、形だけは」仲間として認めたのだ。
「基本的には構わないが」
初めて章地が口を挟んだ。ほのかがわずかに身体を強ばらせたのに気付いたはずだが、見なかったふりを決め込むようだ。
「それは大勢で攻めるほうの実力がないと言っているようなものだから、実行する者はまずいないな。『和』側も『朱』側も自分の能力にプライドを持っている奴が殆どだから。
それと、宣誓の言葉を教えておこう」
「えっ……」
和妃は驚いた。
「教えたら、言ってしまうかもしれないのに……ですか? 言ったら『朱』側のメンバーにされるんでしょう」
「宣誓の言葉は仲間になったら必ず教えておく規則なんだ。言うか否か、結局はそれも本人の自由だからね。本人の意志を曲げてまで無理に『和』側についてもらう必要はないんだから」
宣誓をするチャンスが来たら、それを言うか言わないかは本人に任せるというのだ。
「まあ本当のところ、和妃ちゃんには今のところ言うか否かの権利はないんだけれどね。何しろきみが向こうの手に渡ったら、また同じことを繰り返すかもしれないし、そうでないとしても別の悲劇が待っているに違いないから」
そして章地は、宣誓の言葉を和妃に教えた。
『和を捨て、朱に降る』というのがその全文だった。
「現時点ではおれ達は『朱』からの攻撃を迎え撃つだけで、おれ達が攻撃をしかけてはいけないことになっている。これは静が決めたことなんだ」
「父さんが何を考えているかなんて、娘のあたしですら分かったことがないのよ」
ほのかはクッキーをぱりんと頬張る。眉をしかめた。
「何よこれしょっぱいじゃない!」
「基本的な間違いをしたのでは」
今までクッキーを黙々と頬張るだけだった望がぽつりと言う。
「だって望あんた、ずっと食べて──」
「味はどうでもせっかく作ったんだから、食べないとクッキーが可哀想だと思いまして」
「あんたの考えてることもあたしには分からないわ……」
額を押さえて、ほのか。章地がからかうように笑った。
「ほのかちゃんが一緒に住んでるのは、おれ達の身の回りの世話をしてくれるためなんだよなあ。頼むから変なもの食べさせないでね、おかーさんっ」
「妙な呼び名をつけないでちょうだい」
凄味をきかせた声で、ほのかが睨みつける。
「誤解のないように言っておくけどっ、あたしの役目はそれだけじゃないんですからねっ!? この前作った増幅剤のようにあんた達の助けになるようなものを発明してっ……聞いてるの章地っわざとらしくクッキーなんて食べないでくれるかしらよりによってそんな失敗作をっ」
「いや、これはおれのせいだな」
クッキーを頬張り、コーヒーカップを持って立ち上がる章地。
「昨夜夕食のあとに切らした砂糖の容器、あれに間違えて塩を足してしまったんだ。確認しなかったお前も悪いけど、そういうわけで半分はおれのせいなんだな」
「なんですってえ」
ほのかはガタンと立ち上がり、雷を落とした。
「お風呂と玄関とトイレの掃除っ! 今日中によっ!」
「はいはい」
「はいは一回っ」
「はあーい」
「章地っ!!」
親と子供のようなやり取りをするふたりに、和妃は思わず吹き出した。
章地のおかげというかクッキーのおかげというか、暗い空気がどこかに飛んでいってしまった。
「これから大変な日々が始まるだろうけど」
望が微笑む。
「ぼく達を仲間として、認めてくれるかな」
彼は優しい。本来ならばその台詞は和妃のものなのに、そんなふうに気遣ってくれる。
「よろしく……、お願いします」
この家に来て、初めて和妃は微笑みを返した。
その日の夕方、白宮家に電話があった。
出ようとしたほのかを止め、章地は咳払いをして受話器を取った。
「白宮ですが」
『──章地? ……おれ』
予想に違わぬ人物だったらしい。章地は微笑みを浮かべる。
「神也か。どうした?」
明るいその声に、神也はホッとしたらしい。
『今から帰る。あいつ、どこの部屋になったの』
「望の隣に決定。お前も荷物、運び込んだろ」
『ああ、そっか』
神也は黙りこむ。
いつになく歯切れが悪いこんな時は、落ち込んでいるか自己嫌悪しているかだ。
『章地』
「ん?」
『ごめん』
思い切ったように言った言葉に、章地はふっと優しげな目をますます細くした。
「腹が減ったろ。ほのかが夕飯作って待ってるから、早く帰ってこい」
章地の穏やかな言葉に、神也は元気を取り戻したようだ。
『言われなくても、そうする!』
言葉のあとに、すぐに電話は切れた。
章地の言葉を聞いていたほのかは、ソファから立ち上がってエプロンを着け始める。
「どうやらとりあえずの気持ちの整理をつけてくれたようだな」
受話器を置きながら、章地。
「とりあえずでもいいわ。今夜は神也の好きなもの作らなくちゃ」
「食物で懐柔かい?」
「一番とは言わないけど、神也にはそれが効果的だわ」
ごもっとも、と彼をよく知る章地は納得した。
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