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●第十三話
しおりを挟む「社会的に殺すっていうのは、ただ殺すよりも難しいやり方だわ。でもそれは、父さんさえ味方につけば可能なのよ。──味方について、その気にさせさえすればね」
千里眼──未来のことまで見えているのかもしれない、という未知の部分とコントロール不可能という点を除いても、確かにやり方によっては充分に戦力になるだろう。
「そして何よりも、朱峨は父さんを慕っていたの。頭が良くて人より悟っていて、何よりも父さんだけが朱峨のことを分かっていた。だから彼は父さんに執着するの。脱走という形で裏切られているから余計にね」
例えば他に同じ能力を持つ人物が現れても、手に入れようとはしないだろう。その人物は、「白宮静」ではないから──と、ほのかは言う。
「つまりね、子供みたいな奴なのよ。願望を達成するのが目的だけど、自分の親友が一緒じゃなくちゃ駄目、って駄々をこねてるのね。でも駄々をこねている大人ほど厄介なものはないわ。特に彼の場合、下手に味方なんているものだから」
味方。
彼の元に残された、能力者達。
その次の切り出しまでは、しばらくの間があった。
「あたし達、父さんが管轄していた能力者と朱峨が管轄していた能力者とは、学校以外でははっきり分割されていたわ。それにはいろいろ理由があったんだけれど、だからいまだにお互いどんな能力者がいるのかはっきり分かっていない。
──あたし達の仲間に、神山和沙という少年がいた。彼は和妃ちゃん、あなたと同じリアライザーだった」
何かを吹っ切るように話し出したほのかの静粛な眼差しを受けて、和妃は背筋を緊張させた。
きっと、ここからが本題だ。
「朱峨は父さんが管轄していた能力者の全てを把握しているわけではなかったけれど、彼の存在は知っていた。何よりも彼は朱峨の甥だったからなんだけど、自分の血縁の者を信頼する父さんに育てて欲しかったのね。だから自分のほうじゃなくて父さんの管轄にしたんだけど。……もっとも、和沙は有名だったの。リアライズという色んな意味ですごい能力を持つということでも、彼の人柄のことでも。
和沙はとても綺麗な少年だった。あたしが初めて彼を見たとき、きっとこの人は天使が人間に化けているんだって本気で信じ込んだわ。穏やかでいつもあたたかい笑顔を浮かべていて、みんな彼のことが好きだった。誰一人彼を失いたくなかった」
言いながらほのかは、章地の存在を自分の意識から遮断しようとしているようだった。
彼の姿を見ながらでは、とてもこの話は出来ない──そんなオーラが、体全体から出ていた。
章地もまたそれが分かっているように、自分を感じ取らせないよう息すら殺しているようだった。
「朱峨は和沙を狙った。普通の人間ならば、目的はそれだけで終わるわ。復讐したいのならその内容を彼にそう強く願えばいいんだもの。でも朱峨の目的はさっき言ったとおり、父さんと一緒に達成しなくちゃ意味がなかったから、彼はただ人質に取るだけのつもりだったの。父さんを脅すつもりだったのよ、父さんが朱峨の元へ戻らなければ和沙に直接復讐を願うぞ、みたいなことをね。でも、そんなのはあとで分かったことよ。その時には誰もそんなこと知らなかった。和沙が手に入れられたらおしまいだと思ってた」
それは当然のことだろう。朱峨、のような考えのほうが稀なのだと思う。
「和沙はその能力をちゃんとコントロール出来るから拒否も出来るけど、朱峨は血縁の者だから条件次第では願いを聞き入れざるを得ない場合も出て来るかもしれない。そういう意味でも、何があっても和沙を朱峨に渡してはいけなかった。あたし達は全力で和沙を守ろうとしたわ。
──でも、結局和沙は朱峨に捉えられてしまった」
すうっとほのかは息を吸いこむ。彼女にとってこの説明は、とても勇気がいることだった。
「その時に、章地が一緒にいたの。和沙は章地に頼んだの、──自分を殺してくれって。その時は本当に切実な状況だったのよ。彼は父さんが『見ている』と知りながら、願いを和沙にぶつけようとしていたわ。
章地は、……章地はそうするしかなくて」
目尻に溜まる涙を堪えながら、ほのかは圧し殺した声で言った。
「章地は感情をコントロール出来るの、昨日のことでそれは分かってるわよね。その時も章地はコントロールして朱峨より強い何かの感情をぶつけて、願ったの──和沙が、死ぬことを。
……それが、三年前のこと」
ほのかは自分の膝の上で、白くなるほど拳を握りしめた。
それでも気丈に唇を開く。
「その一件は父さんのほうにも朱峨のほうにも大きな傷を残したわ。それで、変な話だけれど規則が出来たの。『互いを殺してはいけない』『致命傷を負わせてはいけない』、そしてそれからあたし達は『和』、朱峨側は『朱』という名称を決めて、前衛からしか攻撃しちゃいけない、ということも規則の中に入ったわ。前衛というのはつまり、盾みたいなものね。『和』側では章地をリーダーとしたあたし達のこと。もっともあたしは能力者じゃないから攻撃されるメンバーとしては除外されてるけれど。
要するに本当に大人の喧嘩よね。『朱』側ではあたし達前衛の誰かに宣誓させればその誰かはその時点で『朱』側のメンバーにされてしまうわけ。──規則について、何か質問があるかしら」
和沙のことについての質問は、とはほのかは言わなかった。彼のことはあまり話したくないのだろう。和妃もそれほど深い疑問があったわけではないので、聞かれたことについての疑問を口にした。
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