鬼精王

希彗まゆ

文字の大きさ
上 下
17 / 59

架鞍の過去と雨の密事4

しおりを挟む


「あんたを抱きたい」

「い……よ……、架鞍くん、無理しないで。動いて、いい、よ……」


自分からこんなことを言うなんて初めてで恥ずかしくて、うつむきながらわたしは言った。


「俺……今すごく興奮してる。だから加減出来ないかもしれない。それでもいいの?」

「いいから……大丈夫だから……いいよ……っ」


架鞍くんはわたしの額に一度キスすると、中に入れたものを箍を外したように動かしてきた。

激しく揺すぶられる身体に合わせて、息が漏れる。それがますます恥ずかしくて、わたしは架鞍くんの胸に顔を埋めた。


「……わいい」


一瞬動きを止めて、熱に浮かされるように架鞍くんが何かをつぶやく。


「……え……?」

「……い、して、る」

「なに……? 架鞍くん……声、小さすぎて聞こえないよ……」

「聞こえなくていいよ」


切なそうに微笑んでわたしを見下ろした架鞍くんは、再び激しく動き出す。わたしはしっかりと、架鞍くんの背中に回したままの手に力を入れた。


雨が降り出した。でも、わたしたちの息遣いは止まらない。


「馬鹿だ、俺」


憑かれたように腰を動かし続けながら、不意に架鞍くんが言った。


「このままじゃ本当にイッちまうよ」

「今更、……どうして、馬鹿、なの……?」


振動で息を乱しながら、たずねる。


「中に出したらまずい。あんた、今ヤバい時期だから」


絶頂の寸前なのか、わたしの中で架鞍くんの昂ぶりが脈打ち始める。


「な、なんでそんなことまで、……分かっちゃうの……?」


わたし自身そういうことにはあまり詳しくなく、分からなかったことなのに。


「ヤバ、っ……そこら辺に出す、」

「いいよ、かけていいから、……」


急いで抜こうとした架鞍くんの腰を自分に押しつける。


「俺にはそんな趣味ないよ」


わたしにだって、そんな趣味はない。けれど、初体験のことを苦く思い出したのだ。


「架鞍くんに抱かれた証、欲しい……それに、初体験の時身体にかけられたの、消したいから……架鞍くんので、消毒、して……?」


架鞍くんが一瞬、動きを止める。ぎり、と怒りを押し込めるように歯を食いしばる。


「身体にかけたの? 初めての相手」

「うん、だから……」

「俺のでもっと穢れちゃうかもしれないよ」

「架鞍くんのは、消毒、だよ……わたしにとって……」


架鞍くんは再び動き出し、抑え込んでいた絶頂をようやく解放した。


引き抜いた瞬間、寸でのところで昂ぶりの先から液が迸り、わたしの身体と浴衣に降りかかる。どくどくと脈打ちながら最後まで出し切ると、架鞍くんははぁっと熱く息をついた。

そして、わたしの顔にまでかかってしまっていることに気づき、急いで「ごめん」と自分の浴衣で拭う。

わたしは不思議と、不快な気分ではなかった。初体験の時のいやだった気持ちが、かえって薄れていく気がする。

わたしの息は相変わらず荒かったけど、くすっと笑った。


「架鞍くんが初めて謝った」


架鞍くんはおもしろくなさそうな顔をする。そんな彼も愛おしく思う。

わたしは雨空を見上げた。


「花火、ダメになっちゃったみたいだね」


雨で、わたしの身体に降りかかった架鞍くんの体液が流れ落ちていく。


「浴衣もね」

「あ……ゴメンね、せっかく架鞍くんがプレゼントしてくれたのに」

「あんたも風邪引いてダメにならないように、くだらないこと気にしないで帰るよ」


わたしは慌てて浴衣を正す。架鞍くんのほうも正し終わり、「走るからね」と、わたしの手を引っ張る。


その時、何かがわたしの耳に聞こえてきた。何か……いや、誰かが、自分を呼ぶような、声。頭と耳に直接響いてくるような……ぼんやりとでは、あったけれど。


「どうかしたの?」


動こうとしないわたしに、架鞍くんは尋ねてくる。架鞍くんには聞こえていないようだ。


「ううん、なんでもない」


とりあえず今は、架鞍くんに抱かれた喜びに浸っていよう。わたしはそう思った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:16,487pt お気に入り:286

異世界に行ったらオカン属性のイケメンしかいなかった

BL / 連載中 24h.ポイント:653pt お気に入り:200

気づいたら転生悪役令嬢だったので、メイドにお仕置きしてもらいます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:752pt お気に入り:6

運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,889pt お気に入り:30

悪魔に愛された、少女。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:14

役目を終えて現代に戻ってきた聖女の同窓会

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,064pt お気に入り:79

処理中です...