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架鞍の過去と雨の密事4
しおりを挟む「あんたを抱きたい」
「い……よ……、架鞍くん、無理しないで。動いて、いい、よ……」
自分からこんなことを言うなんて初めてで恥ずかしくて、うつむきながらわたしは言った。
「俺……今すごく興奮してる。だから加減出来ないかもしれない。それでもいいの?」
「いいから……大丈夫だから……いいよ……っ」
架鞍くんはわたしの額に一度キスすると、中に入れたものを箍を外したように動かしてきた。
激しく揺すぶられる身体に合わせて、息が漏れる。それがますます恥ずかしくて、わたしは架鞍くんの胸に顔を埋めた。
「……わいい」
一瞬動きを止めて、熱に浮かされるように架鞍くんが何かをつぶやく。
「……え……?」
「……い、して、る」
「なに……? 架鞍くん……声、小さすぎて聞こえないよ……」
「聞こえなくていいよ」
切なそうに微笑んでわたしを見下ろした架鞍くんは、再び激しく動き出す。わたしはしっかりと、架鞍くんの背中に回したままの手に力を入れた。
雨が降り出した。でも、わたしたちの息遣いは止まらない。
「馬鹿だ、俺」
憑かれたように腰を動かし続けながら、不意に架鞍くんが言った。
「このままじゃ本当にイッちまうよ」
「今更、……どうして、馬鹿、なの……?」
振動で息を乱しながら、たずねる。
「中に出したらまずい。あんた、今ヤバい時期だから」
絶頂の寸前なのか、わたしの中で架鞍くんの昂ぶりが脈打ち始める。
「な、なんでそんなことまで、……分かっちゃうの……?」
わたし自身そういうことにはあまり詳しくなく、分からなかったことなのに。
「ヤバ、っ……そこら辺に出す、」
「いいよ、かけていいから、……」
急いで抜こうとした架鞍くんの腰を自分に押しつける。
「俺にはそんな趣味ないよ」
わたしにだって、そんな趣味はない。けれど、初体験のことを苦く思い出したのだ。
「架鞍くんに抱かれた証、欲しい……それに、初体験の時身体にかけられたの、消したいから……架鞍くんので、消毒、して……?」
架鞍くんが一瞬、動きを止める。ぎり、と怒りを押し込めるように歯を食いしばる。
「身体にかけたの? 初めての相手」
「うん、だから……」
「俺のでもっと穢れちゃうかもしれないよ」
「架鞍くんのは、消毒、だよ……わたしにとって……」
架鞍くんは再び動き出し、抑え込んでいた絶頂をようやく解放した。
引き抜いた瞬間、寸でのところで昂ぶりの先から液が迸り、わたしの身体と浴衣に降りかかる。どくどくと脈打ちながら最後まで出し切ると、架鞍くんははぁっと熱く息をついた。
そして、わたしの顔にまでかかってしまっていることに気づき、急いで「ごめん」と自分の浴衣で拭う。
わたしは不思議と、不快な気分ではなかった。初体験の時のいやだった気持ちが、かえって薄れていく気がする。
わたしの息は相変わらず荒かったけど、くすっと笑った。
「架鞍くんが初めて謝った」
架鞍くんはおもしろくなさそうな顔をする。そんな彼も愛おしく思う。
わたしは雨空を見上げた。
「花火、ダメになっちゃったみたいだね」
雨で、わたしの身体に降りかかった架鞍くんの体液が流れ落ちていく。
「浴衣もね」
「あ……ゴメンね、せっかく架鞍くんがプレゼントしてくれたのに」
「あんたも風邪引いてダメにならないように、くだらないこと気にしないで帰るよ」
わたしは慌てて浴衣を正す。架鞍くんのほうも正し終わり、「走るからね」と、わたしの手を引っ張る。
その時、何かがわたしの耳に聞こえてきた。何か……いや、誰かが、自分を呼ぶような、声。頭と耳に直接響いてくるような……ぼんやりとでは、あったけれど。
「どうかしたの?」
動こうとしないわたしに、架鞍くんは尋ねてくる。架鞍くんには聞こえていないようだ。
「ううん、なんでもない」
とりあえず今は、架鞍くんに抱かれた喜びに浸っていよう。わたしはそう思った。
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