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埋められていく隙間
しおりを挟む外に出ることを制限される、ということはけっこうな不便だ。
あれから数日はおとなしくしていたけど、家にばかりいると気分まで滅入ってくる。
「外に出たい」
お昼過ぎ、リビングでそうぼやくと、
「お前ここ数日ずっとそれだな」
と禾牙魅さんに突っ込まれた。
「だってせっかくの夏休みなのに、家の中ばっかりじゃつまんないでしょ? それに、外に出たいって言っても出してくれないし……三人のうち誰かと一緒に行動してればいいんじゃなかったの?」
そう、わたしの行動はかなり制限されていた。
「この前一人で出かけた罰でしょ」
そこらへんの雑誌を読みながら、架鞍くん。
「う、それを言われると……」
二の句もつげなくなる。
霞がいつもの笑顔で、キッチンの掃除をする手を止めて言った。
「そろそろいいんじゃないか? 苺ちゃんも反省したようだしさ。苺ちゃん、誰か選んで一緒に外出してこいよ」
その言葉に、わたしの心が明るくなる。
「本当!? ……でも三人全員と一緒じゃ、いけないの?」
「最低二人は残ってないと、家の中に【鬼精鬼】に結界とか罠でも張られる可能性があるからなあ」
「それだけ【鬼精鬼】の力は強大だということだ」
霞と禾牙魅さんが教えてくれる。
「そうか……それじゃあ……」
誰と一緒に行こう、と考えた瞬間に霞の姿に視線が行く。
この三人の中なら、霞が一番仲がいい……とも言えるかも。
うん、もう今日は前向きでいこう! せっかく外に出られるんだし!
「霞、一緒に行こう!」
霞は笑顔をつくる。
「オッケー、じゃ、折角だからロイヤルスイートでも……」
「だーめ! 今日は私の我儘聞いてもらうんだから! 待ってて、支度してくる!」
◇
【鬼精王Side】
階段を駆け上がっていく苺に、霞は苦笑する。
「……そんな無邪気な笑顔を見せられると毒気が抜かれるぜ……」
「まだまだ甘いね」
架鞍はそっけなく言い、禾牙魅はと見ると彼は否定もせずに黙り込んでいた。
甘い、か……そうかもしれない。苺を見ると、心の中があたたかくなるのを感じるのだ。
◇
苺と街中を連れ歩き、いつしか夕方になっていた。
さんざんウィンドウショッピングを楽しんだ苺は、まだまだはしゃいでいる。
「ねえねえ、次どこ行こう?」
「苺ちゃん元気だね。でもあれだけお店回ってなんで何も買わないのかな?」
「だって、お金あんまりなくて……」
「……苺ちゃんさ、彼氏に貢いでたタイプだろ」
さりげなくカマをかけると、苺はぎくりとする。
「で、エッチも無理に誘われたんだろ。違うか?」
「……いいの。わたしもう誰ともそういうことする気ないし。ウィンドウショッピングだって、すごく楽しいしね?」
霞の顔が、ほころぶ。
「……そういうとこ、苺ちゃんのいいとこだよな。でも誰ともする気ないってのは試してみないと分かんないぜ?」
けれど苺は、ぶんぶんとかぶりを振った。
「絶対、イヤ。……あ! ね、あともう一軒、お店つきあって!」
「いいよ、どこ?」
霞はそれ以上追及せず、歩き出した苺を追いかけた。
苺がやってきたのは、本屋だ。新しく建てられたばかりの店だったが、品ぞろえは確かのようだ。
「苺ちゃんて読書好きなの?」
「うん、たまに読むよ。何か面白そうな新刊出てないかな~……」
苺は平積みにされている本を端から端まで見ていく。
なんとなく別の棚を見ていた霞は、ふと視線を止めた。
「あ」
一冊の分厚い大きな本を取り上げた。ペラペラと中をめくる。
「こういうの架鞍好きそうだな~」
興味を惹かれたように、苺が戻ってくる。
「画集? わあ、キレイな絵……」
そういえば、と苺は思い出す。架鞍はさっきも雑誌を読んでいた気がする。彼も本が好きなのだろうか。
「ん~……」
ちょっと悩んだ苺は、決めた。
「架鞍くんに買ってってあげよう」
霞は、驚く。
「え? でもお金あんまりないって言ってなかった? それかなり値段高いぜ?」
「うん、でも今日は機嫌がいいからいいの」
貸して、と霞の手から画集をとると、苺はレジへと向かった。
その背中を見つめる霞は、また胸があたたかくなるのを感じる。確実に、惹かれている──。
「いい子だよな……」
ぽつり、つぶやいた。
◇
結局苺と霞が帰ってきたのは、夜になってからだった。本屋で、けっこう盛り上がってしまったのだ。
「ただいま~!」
「ただいま。風呂沸いてる?」
苺と霞がリビングに入ると、架鞍が雑誌から顔を上げる。
「お帰り」
禾牙魅が、洗面所から出てきた。
「遅かったな。ああ、風呂は沸かしておいた」
禾牙魅に「ありがとう」と言うと、苺は架鞍に歩み寄る。
「架鞍くん架鞍くん」
振り向いた架鞍に、ラッピングされた大きな包みを差し出す苺。架鞍は、面食らったようだった。
「なに?」
「お前に礼が言えるとは思ってねえからせめて受け取ってやれよ? 苺ちゃん、お金ないのにお前のためにって……」
「わー霞ストップストップ!」
慌てる苺から包みを受け取り、ラッピングを丁寧にはがして魅入る架鞍。苺は照れくさくて、早口に言った。
「キレイな絵でしょ? 霞から、こういうの架鞍くんが好きだって聞いて……。えっと……気が向いたら暇つぶしにしてね」
そして苺は、階段を駆け上がっていく。
相変わらず架鞍は無表情のままだったけれど。
ぺら、とそっと画集をめくった彼を見て、霞は嬉しかった。架鞍は完全に興味がないものには、徹底的にシカトをする。画集はそこそこに、架鞍の気を引いたようだった。
◇
【苺Side】
翌日、わたしは上機嫌だった。
今日はなんだか、架鞍くんの雰囲気が優しい気がしたのだ。特別声はかけられなかったけれど、わたしを見る視線がいつもよりも和やかだ。
これも、霞のおかげかな……。
なんて思いながらお風呂上がり、髪をとかしていたら櫛がひっかかった。
「あいたたたっ、なんで毎日梳かしてるのに、こう巣食うかなあ」
「苺ちゃんのお風呂上りの石鹸の香りってさいっこ~」
突然の声に、わたしはぎょっとする。いつのまにか霞が、脱衣所に立っていた。
気配がないのか、この男は!
「さいて~……何しにきたの?」
「何って……風呂入りに」
「じゃあもうちょっと待って、髪に巣食っちゃって……いたたっ」
「それはね~梳かし方がまずいんだよ、貸してみな?」
「霞、出来るの?」
いいから、と霞は歩み寄ってくる。
「櫛、貸してみ? 苺ちゃんの髪の毛長いし、最初はこうして下のほうから梳かしてくんだよ。それで……」
そう言ってわたしから受け取った櫛で、わたしの髪の毛を丁寧に梳かしていく霞。
なんだか無性に恥ずかしくなって来た。
「かっ霞の髪の毛も梳かしてあげるっ!」
「へっ?」
櫛を奪い取り、霞の髪を縛っていた紐を取って梳かし始める。
うわ、霞の髪の毛ってさらさらしてて気持ちいい……。
霞がふと、くすくす笑う。
「苺ちゃんの手の感触、気持ちいいな~」
「! バカっ!」
顔が、熱くなる。きっと真っ赤になっている。
でも、……こうしていると、元カレとの傷も癒されていく気がする。
霞といると……なんだか、幸せな気分になれる……。
イジワルだけれど。エッチだけれど。
でも──。
とくん、と心臓が音を立てるのがわかった。
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