鬼精王

希彗まゆ

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勲章

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あれから髪を梳くたび、霞のことが頭に浮かぶ。

今夜も自室のベッドに座って髪をとかしていると、あのときのことを思い出した。

霞の髪……ほんとやわらかかったな……。

コンコン、と扉がノックされる。


「開いてるよ~」


すると、ドアを開けて霞が入ってきた。ちょっと焦ったけど、極力わたしは冷静になろうとする。

霞は笑顔で言った。


「苺ちゃんて無防備。相手が誰でも部屋に入らせんの?」

「部屋に入れるくらいどうってことないでしょ?」

「……そのうち泣くぜ?」

「どうして?」


霞はあきらめたように、髪の毛をまだとかしているわたしの隣に腰かける。


「まあいいや、なあ、俺と遊ばねえ?」

「暇だからいいけど……お医者さんゴッコとか使い古したこと言わないでよ」

「賭け賭け」


霞は手に持っていたコインを見せる。

巧妙な細工が施された、見たこともないコインだった。


「わあ、これあんた達の世界のお金? すごくキレイ」

「裏か表か当てて、負けたほうがふたつ言うことを聞く」

「なんでも言うこと聞くの?」


わたしは、髪の毛をとかす手をとめる。目は輝いていたかもしれない。

だって、いつも意地悪されてる仕返しができるチャンス!

霞はそんなわたしの思惑を見透かしているかのようにクスッと笑った。そんなところは気にくわない。


「じゃあいくぜ」


コインを放り投げ、手の裏で受け止めてすぐにもう片方の手で蓋をする。


「表と裏、どっち?」

「んー……裏!」

「じゃあ俺が表な」


わたしはどきどきしながら霞の手を見つめる。その手が開かれると──コインは、なにかの獣の模様のほうが上になっていた。


「俺の勝ち。さあどうしてやろうかな~?」

「えっ嘘!? インチキしなかったでしょうね!?」

「したらつまんねーじゃん。じゃあ苺ちゃん、一つ目。一枚、服脱いで」

「なっ!?」


いきなり何言い出すの!?


「ブラかタンクトップ、中に着てるんだろ? 裸になるわけじゃないんだから」

「うっ……」


ブラもタンクトップも……着てないよ……。

わたしはブラとかタンクトップは窮屈で嫌いで、外に出るときもめったにしたことがない。


「ああそれから言い忘れてたけど、賭けを無効にするとか言い出したり命令聞かなかったりしたら、俺の愛のお仕置きが待ってるから♪」


この……根性悪っ。


「……分かったわよ、脱げばいいんでしょ一枚!」


わたしは自棄になって着ていたTシャツを脱ぎ捨てる。霞が見る隙を与えないように、素早く胸を両手を交差して隠す。


「そうだよな、苺ちゃんはノーブラだったよな~」


楽しそうに言う霞の言葉に、顔に血が集まった。


「しっ知ってたの!?」

「大抵の男は気付くぜ。苺ちゃん――」


霞の顔が近づき、耳元でささやかれる。


「男を甘く見すぎ」


背筋が、ぞくりとした。

ごまかすために、わたしは抗議する。


「知ってて脱げなんて言ったなんて、ズルい! あんたも脱ぎなさいよ!」

「へえ、いいの? 俺、脱ぐと止まらないぜ?」


なにが止まらないんだろう、そう聞こうとするよりも早く霞は上半身を包んでいた服を脱いだ。逞しい身体が晒される。無駄な筋肉などどこにもない……男の身体。

だけど、わたしが息を呑んだのはそのせいではなかった。


「なに……なに、この、身体中いっぱいの傷跡」


霞は、初めて気付いたように「ああ」と言った。霞の身体いっぱいに、傷跡があった。古いのも新しいのも、ある。


「俺の勲章。あいつら二人、護ってやりてえからな」


にっこりとそんなことを言う。


「これが、今まで護ってきた……証拠?」

「醜いだろ? 見なくていいぜ。約束の二つ目」

「え゛」

「俺が何をしても動かないこと」

「そ、それって……ま、待ってよ!」

「愛のお仕置きとどっちがいい?」


どっちもどっちじゃないかと言い返そうとするわたしを、霞は自分の胸に抱き入れる。

うわ……!

あたたかな体温がわたしを包み込む。


「香水じゃなくて石鹸の香りだ」

「こ、子供だって言いたいの?」


そんなわたしに、霞は笑みを含みながら喉のくぼみに唇を当てる。


「……!」


びくっとしたその隙を逃さず霞の両手が胸を隠していたわたしの手を外す。


「あっ!」

「見た目は一応子供じゃないみたいだけど……」


霞の手が伸びてくる。


「だ、だめ!」


わたしの防御より、霞のほうが早かった。大きな手ですっぽりと片方の乳房を包まれてしまう。


「まだ固いから、男を知らない証拠。子供だな」

「そ、そんなことないっちゃんと知ってる!」

「苺ちゃんが知ってるのは男のうちに入らない。俺が本物の男を教えてやろうか」


きゅ、と軽く霞の手に力が入る。さほど大きくないわたしの乳房に、霞の手がわずかに埋まった。


「やっ……」

「言ったろ? 脱ぐと止まらないって」


悪戯っぽく微笑しながら、霞は意地悪く片手で乳房を揉み始める。


「う、んっ」


勝手に力が抜けていく。霞はわたしの腰に手を回し、少し仰け反らせるようにさせて上半身がすっかり見えるようにする。わたしは霞の顔が見られなくてぎゅっと目を閉じた。


「形も薄桃色の乳首も俺の好み」


囁いてから、霞はそれをちらりと舐めた。


「っ!」

「すげぇ敏感。震えて……もう尖ってるぜ?」


目を開くと、相変わらず悪戯っぽい霞の笑みがある。


「こ、こんな格好させないで……そういうことも言わないで……恥ずかしいよ」


霞はくすくす笑ってわたしの上体を起こし、わたしは大きく熱っぽいため息をついて再び霞の胸の中に戻る。心臓の……音が聞こえる。目の前には、たくさんの傷跡――。

わたしがその傷跡のひとつに口付けたのを見て、霞は驚いたように目を見開いた。


「……醜くなんてないよ」

「苺ちゃん……?」


傷跡のひとつひとつに手を這わせ、癒すように優しく口付けていく。


「そんなことしなくていい……気持ち悪いだろ?」

「大切な人達を護った証が、どうして気持ち悪いの? こんなに傷跡残っちゃって……禾牙魅さんと架鞍くん、幸せ者だね、こんなになってまで護ってもらえるなんて……」


わたしの唇が、鎖骨の辺りまで昇る。ふと顔を上げると、かなり近い距離で霞の真剣な瞳と視線が合った。

ゆっくりと、唇が近づいてくる。わたしは不思議と、避けようと思わなかった。

触れる寸前、霞の唇はふっと笑みを含んで高度を上げ、わたしの唇ではなく前髪をかきあげてから露になった額にキスをした。


いつもの霞とどこか違う。どうしたのだろう。

そんなことを考えていると、ぽんぽんと頭を撫でられた。


「遊び時間、終了。つきあってくれてサンキュ。いい夢見ろよ」


優しい笑顔でそう言ってから、霞は自分の服を肩にかけて部屋を出て行った。
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