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元カレからの電話
しおりを挟む【鬼精王Side】
昼間、キッチンで霞は「夕飯の仕込でもしとくか」、と冷蔵庫を開けた。
「苺ちゃんの今日の夕食は……冷やし中華でいってみますかね」
キュウリとハム、そして卵を出したときだった。
携帯電話が鳴る音がした。
「ん?」
苺が置き忘れていった携帯だ。霞は、リビングのテーブルの上から取り上げて画面を見る。
男の名前──。
ふうん、と思う。
霞は半眼になって携帯のスイッチを押す。男の声が聞こえてきた。
「苺? 俺。あの時はさあ悪かったよ。だけどお前声も出さなかったからてっきり気持ちいいもんだと思っててよー。入れてからやめてくれとか泣いたって男は止まんねーの、分かる?」
「…………」
「でもさ、俺も謝るから、もう一度やり直そうぜ。俺のこと嫌いじゃないだろ? まだ好きだろ? エッチの時は裸見せて口で処理してくれればそれでいいからさあ」
霞は、そこでニヤッと不敵なコワい笑みを見せる。
「わりぃな、モトカレさん。苺ちゃんはもう俺のものなんだよね~。いくつか言いたいこともあったからちょーどいーわ」
「え!? あ、あんた誰だよ!?」
明らかに、動揺したような男の声。元カレ、というのは間違ってはいないようだ。
「だから、俺のもの、って言ったろ? エッチがヘタな男は察しもわりぃのな。俺と苺ちゃんはもう愛し合っちゃってる仲なの。心も身体も俺のものなわけ」
「苺が……!? ど、どうせお前も無理矢理ヤッて痛がられただけだろ!」
「……教えてやりてえなあ、苺ちゃんがイく時の顔と声。病み付きになるぜ?」
「う、うそつけ……!」
「で、俺の言いたいことだけど」
霞は真顔になり、すうっと息を吸い込む。一息にまくし立てた。
「入れてからでも惚れた女が本気で痛がって泣いてんならデキた男ならやめられるもんだぜ。それでも困るならそこからはトイレか風呂にでも行って自分で処理するんだな。口で処理してくれればそれでいいだとか抜かしやがったよな? 苺ちゃんにそんなこと出来るわけねーだろ? あ~苺ちゃんの初体験の相手がお前みたいなヤツだなんて腹が立つぜ。一度きりとはいえちゃんと避妊はしたんだろうな?」
「当たり前だろ、俺だってまだガキなんか孕まれたら困るから……ちゃんと身体にかけてやった……」
霞の何かがぶちっと切れる。
「へぇ……身体にねぇ。てめーなんかのな……てめーなんかの小汚ねぇ精液あんな穢れも知らねーような綺麗な身体にぶっかけてんじゃねえよこのクズ!」
「な、なんだよフツーのことだろ」
「……もういい。てめーみたいなクソブタと話してるだけで耳からホーケー移りそうだぜ。いいか、よく聞け。二度と苺に関わろうとしたら俺に殺されると思え!」
慌てて向こうが携帯を切る音がする。大きくため息をつき、眉をしかめたまま不機嫌そうに霞も携帯を切る。そこで初めて、苺が立っているのに気付いた。我を忘れかかってまくし立てていたため、気配に気付けなかったのだ。いつからいたのだろう。いつから会話を聞いていたのだろう。
「あ、の……霞? わたし、携帯……置き忘れて」
「ああ……お前のモトカレから。二度とお前にコンタクト取ってくることはないと思うぜ。……いつからそこにいた?」
苺は、霞に携帯を渡される。
「えと……霞の最後の台詞の辺りから……かな。【もういい】って辺り……。霞のそんなとこ見るの初めてだったからビックリして声、かけられなくて」
霞は、ふっと微笑む。
「あ、悪い悪い。コワがらせちゃった? 大丈夫、もういつもの俺に戻ってるから」
「霞……ゴメン! 私がちゃんとアイツを殴るなりなんなりして電話なんてかけてくるようなことがなければ霞に不機嫌な思いさせることもなかった!」
突然謝られて、霞はきょとんとする。
「なんで謝るんだよ。大体苺ちゃんその時、痛みとショックでそんなこと出来る筈なかっただろ?」
「でも」
まだなお言いかける苺を押しとどめ、霞は苺の頭をぽんぽんと撫でて笑った。
「それに俺、同じ男としてあのクソブタに一言言ってやりたかっただけだからさ、個人的に」
一言どころじゃなかった気もするが。
「だから、苺ちゃんが謝る必要はなーんにもないの。分かった?」
「う……うん。霞……ありがとう」
さあ飯の支度、と霞はキッチンへ向かう。
苺は感謝するように、胸の前で携帯をぎゅっと握りしめた。
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