鬼精王

希彗まゆ

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風邪と鬼精鬼

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その夜、架鞍くんにしこたま怒られた。さんざん説教をされた。

けれど、どこでなにをしていたかについて、わたしはほんとうのことを言わなかった。これ以上みんなに心配をかけてはいけないと思ったし、なんとなく、鬼精鬼とのことは秘密にしておきたかった。──こんなことを考えるのは、ばかげたことだとわかってはいるのだけれど。


みんなはそれぞれわたしに気遣ってくれたらしく(それか、架鞍くんがなにか話したのかもしれない)、その夜は庭で花火をやった。

霞がスイカを切ってくれて、禾牙魅さんと一緒に線香花火をして。架鞍くんは、大きな打ち上げ花火を夜空に打ち上げてくれた。


このまま架鞍くんと一緒になれたら幸せなんだろう、と思う。そうしたら鬼精鬼にこれ以上振り回されることもない、と。けれどそう思うと心のどこかが、きゅんと切なく疼くのだった。





翌朝起きた時から、身体がだるかった。気のせいか、意識も朦朧としている。

なんだろう、やっぱり風邪でも引いたのかな。


それでも朝食をとろうとリビングへ行ったとたん、ぐらりと視界が傾いて──キッチンにいた霞が何か叫んだけれど、わたしの意識は闇の中に沈んでいった。





わたしはそのあと、どうやら自分の部屋に連れてきてもらったらしくて。

気がつくと、ベッドの上で荒く息を吐いていた。

ちょっと苦しい……いつもの風邪よりも、ひどいみたい。

いい香りが漂ってきてゆっくり目を開けると、お盆を持った架鞍くんがいた。


「夏風邪は馬鹿が引くってホントだよね」


抗議したいのに、息苦しくてうまく声が出ない。


「……いつもの反論が返ってこないとけっこうつまらないな。力使えば一発で治るけど、人間界に来ると力の使用にも制限つけられてそれ破るとまずいからできないし」


架鞍くんはベッドの脇に座り、持ってきたお粥と何か薄いピンク色の飲み物をベッドの脇の台に置く。


「おかゆ……架鞍くん、作ってくれたの……?」


どうにか声を出すと、架鞍くんはちょっと視線をさまよわせた。


「あんたが風邪引いたのって一昨日のアレのせいだろ。霞に勘付かれてお前が看病しろって禾牙魅にも言われたから」


言われて、わたしも思い出す。雨の中での、あの密事──とたんに、恥ずかしくなる。


「ありがと……、でもわたし、今なにも食べたく……、」

「だと思ったからもうひとつ作ってきた。食欲が出る薬の入ったカクテル」

「カクテル……? 食欲……?」

「鬼精界での調合法を取り入れてるから、カクテルみたいなもんだけどってこと。あんた身体起こせないでしょ?」


架鞍くんはそう言って、薄いピンク色の飲み物を口に含み、わたしの頭を片手で少し起こして口移しでその液体をわたしの喉に流し込んだ。


「んっ……けほっ」


驚いたのと急に流れ込んできたのとで飲み下しきれず、わたしの口から顎、首へとカクテルが滴り落ちる。


「味はどう?」

「おいし……いよ」


架鞍くんは微笑んだ。昨日から、架鞍くんの笑顔をよく見る気がする。


「飲むのヘタだね」


そして、わたしの顎や首にこぼれたカクテルを舐め取ると、改めてタオルで拭い、


「お粥は冷めないようにしておくから。ああそれと、なんか霞がプール券買ってくるとか言ってたよ。あんたが元気になったら行けるようにって」

「うん……早く元気になるように頑張る……」

「そうしなよ。とりあえず、今は寝るんだね」


そう架鞍くんに額に手を当てられた瞬間、魔法にかけられたようにわたしは眠りに落ちていった。


【鬼精王Side】


真夜中にリビングで、三人は集まっていた。禾牙魅が、慎重に口を開く。


「苺の中の【鬼精虫】が急激に成長している」

「【鬼精鬼】に会えば会うほど【鬼精虫】は成長するからな」


霞も気づいていたらしく、驚くこともない。架鞍は、鼻の上にしわを寄せた。


「で、なんで本人は【鬼精鬼】に会ってないなんてしらばっくれてるの?」


苺はあの晩、帰ってきても何も言わなかった。ちょっと散歩したくなって、と見え透いた嘘をつき、風呂にも入らずそのまま自室に行ってしまった。花火のときは素直に出てきたし、さっきだって架鞍の前ではふつうだった。けれど、どこか様子がおかしい。


「そんなことより気になるのは」


禾牙魅が霞と架鞍を順番に見る。


「【鬼精鬼】が力をつけている、ということだ」


霞が一瞬、息を呑んだ。


「はあっ!? どういうことだよそれ!?」


架鞍が、ふと思いついたように打診する。


「もしかして―――【鬼精鬼】が他の処女達を餌食にして精力を吸い取り始めてるってこと?」

「恐らく」

「それが本当なら、そのうちまた苺ちゃん狙われかねねーぞ……」


事態は刻一刻と、三人が決して望んでいない方向へと進んでいるようだった。





【苺Side】


(……苺)

(………苺………)


ん……また……。

おもだるい眠りの中、誰かがわたしの名前を呼んでいる。これは……この声は……。

また、だ。

また、【鬼精鬼】の声が聞こえる。

夢の中にすら、入ってくる。

わたしが目を開けると、そこは闇の空間だった。少し距離が開いたところで、男が椅子に座り、裸体の、まだ高校生ほどの少女がその男の下半身に顔を埋めていた。


「!」


目を逸らして逃げようとするが、足が動かない。目も逸らせられない。

男──【鬼精鬼】が言った。また、意地悪い笑みを浮かべ、手を差し伸べて。


「苺……お前も来い」


わたしはふるふるとかぶりを振るが、身体が勝手に吸い寄せられていく。


「どう、して」


行きたくないのに。


「お前の中に【鬼精虫】がいるからさ。だから俺と会っている間、お前は俺に逆らえない。処女ではないからか、処女に仕込んだ時のようにはいかないようだがな」


わたしの戸惑いを見透かしたように、鬼精鬼は近くに来たわたしの手を取る。


「キスをしろ」

「……! だ、誰があんたなんかに、」


わたしは言ったが、身体が勝手に動く。鬼精鬼の半裸の身体に手を置いてしまう。

わたしは震える唇で鬼精鬼の唇に一瞬だけ触れた。離れようとしたところへ、後頭部を捕まえられる。至近距離に、野性的な美しい、男の顔。


「足りないな。本当のキスとはこういうものだ」

「、んっ……!」


更に後頭部を抑え込まれ、無理矢理鬼精鬼の唇に再び唇が重ねられる。冷たい唇が、わたしの唇と舌を吸ってくる。

どくん、と何かが頭をよぎる。

なに……?

嫌な感じではない。何か――何かを思い出しそうな、そんな感覚。

だがそれは、冷たい手の感触で遮られた。パジャマの隙間から鬼精鬼が、わたしの胸を弄っている。形を確かめるように揉みしだき、頂きを指と指のあいだできゅっとつまむ。


「やっ……!」


微かに気持ち良さを感じてしまったわたしは、それをも振り切るように鬼精鬼の手を振り解く。


「中原苺。お前は……いずれ、俺の手に落ちる」


ぼんやりと、わたしの意識がまた「本当の夢」の中に入っていく――。
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