蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ

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賀久

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 たてつこうとした金髪を、もうひとりの金髪の少年がいさめるように肘で小突く。彼は眉と唇に銀色のピアスをしていた。 ─── 手首を離された結珂、こんな時だというのにそれを見て「うっ痛そう」などと思ってしまう。彼女はピアスを見るのが苦手だった。穴が開いていると思うと、鳥肌が立ってしまうのだ。

「よぉ、久しぶり。あいつまだ学校に残ってる? 早瀬閏。それ聞きたかったんだけど」

 少年は世間話のように軽いノリだ。だが視線は刃物のように鋭い。雰囲気から、三人のうち彼がリーダー格なのは間違いない。

「もう帰ったよ」

 結珂の腕を掴んで自分に引き寄せておき、坂本は答える。え、と結珂は彼を見上げた。
 帰ったところを見たわけではないのに、なぜはっきり返事をするのだろう。こんな時間とはいえ、最近演劇部員たちは帰りが遅い。今日だってこの時間でもまだ校舎に残っているはずだ。閏もまだいるかもしれないのに。

「あいつに何の用? 賀久(かく)。まだこだわってるわけ」
「おれにとってそれだけのことをしたんだよ、あいつは」

 こともなげに言い、賀久と呼ばれたその少年はだるそうに首の後ろを掻く。

「まあいいや。近いうちに挨拶に行くって、伝えといて。志輝(しき)チャン」

 え、と拍子抜けする残りのふたりを促してきびすを返す。やがて彼らが見えなくなると、結珂はほっと肩の力を抜いた。

「誰? ……知り合い?」
「昔の仲間 ─── いや、ただつるんでただけだな。そう、顔見知りだよ」

 ようやくいつもの軽い笑みに戻った坂本、結珂を見下ろす。

「こわかった? ごめんな」
「なんで」

 坂本が謝るの、と言いかけた結珂、ぽんと頭を撫でられて否応無しに唇を閉ざした。

「帰ろうか」

 その瞳はとても優しくて、いつものからかっている時とは違ったものだった。
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