蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ

文字の大きさ
8 / 35

お前が好きだ

しおりを挟む
「……双子の姉妹って……彩乃さんも双子? 閏くん達にはお姉さんがふたりいるの?」
「いた」

 過去形を使った。

「彩乃の妹で聖香(せいか)って名前だった。 ─── おれ達が十三の時、事故で死んだ」

 初耳だった。坂本だってそのことを一言も喋ったことがない。
 黙り込んだ結珂の手を、閏はふいに取る。

「幡多」

 真剣な眼差しに、結珂は気圧されそうになる。尋ねられた内容に度肝を抜かれた。

「お前達弥のこと好き?」
「な、なんで、いきなり」
「憧れてくらいは、いる?」

 結珂は迷った。正直言ってあの冷静沈着で何でも出来る達弥をかっこいいとは思う。閏の言うとおり、憧れくらいはあった。でもそれは結珂ばかりでなく学校中、特に二年生の女生徒ならば少なからず思っていることだ。特別なものではない。
 通じるだろうか心配だったが、

「少しはね」

 と短く答えた。それ以上言う勇気はなかった。
 少しだと答えたのに、それでも閏は悔しそうに唇を噛んだ。

「そうか、やっぱりな。 ─── クソ、悔しいな。おれあいつにだけは負けたくなかった。たとえばお前の憧れが坂本に対してだったらおれは許せたのに」
「なっ……! なに言ってるのっ?」

 今度こそ焦って顔を上げる。坂本を好きになるなんて万がひとつにもありえない!
 閏はしかし、そんな結珂の視線を黙って受け止めた。真摯な瞳におされて結珂が口をつぐむと、彼は言った。

「おれ、お前が好きだ」

 結珂は目をまんまるにして閏を見つめた。しばらくの間沈黙が支配し、それを破ったのもまた閏だった。

「お前はさ、普通なんだけどおれにとっては違うんだ。ずば抜けて目立つわけじゃないのにおれには特別なんだ。お前って友達以外にはそうでもないけど、仲良くなるとすごく面倒見がいいだろ。いつかおれが仮病で学校休んだ時も風邪だって本気で信じて見舞いに来てくれた」
「だって……それだけで?」

 それだけのことで、閏は自分を好きになってくれたのだろうか。

「好きになるきっかけなんてちょっとしたことだろ。何かきっかけがあって、それで充分なんだ。あとはおれが勝手にお前を見るようになった。見るようになってお前をもっと知るようになって、だんだん好きになって……だから達弥に憧れてるってことも分かった」
「 ────── 」

 好きでなく、憧れというそんな淡い気持ちにさえ気付くほど。
 閏は笑顔を見せない。ただ真剣に結珂を見つめている。彼女の逃げ場がなくなってしまうほど。

「お前に優しくする。お前が好きになってくれるように頑張る。だから考えてみてくれないか ─── 達弥でなく、少しでもおれを見てくれるように」

 結珂は閏の瞳の底に、苦しげな色があることに気がついた。ただの告白では普通は見られないような、そんな哀しげな色。
 閏はこんな時にまで、達弥を意識している ─── 。

「……分かった」

 かすれたように小さく、結珂は答えた。この双子が、なんだかとても哀れに思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...