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お前が好きだ
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「……双子の姉妹って……彩乃さんも双子? 閏くん達にはお姉さんがふたりいるの?」
「いた」
過去形を使った。
「彩乃の妹で聖香(せいか)って名前だった。 ─── おれ達が十三の時、事故で死んだ」
初耳だった。坂本だってそのことを一言も喋ったことがない。
黙り込んだ結珂の手を、閏はふいに取る。
「幡多」
真剣な眼差しに、結珂は気圧されそうになる。尋ねられた内容に度肝を抜かれた。
「お前達弥のこと好き?」
「な、なんで、いきなり」
「憧れてくらいは、いる?」
結珂は迷った。正直言ってあの冷静沈着で何でも出来る達弥をかっこいいとは思う。閏の言うとおり、憧れくらいはあった。でもそれは結珂ばかりでなく学校中、特に二年生の女生徒ならば少なからず思っていることだ。特別なものではない。
通じるだろうか心配だったが、
「少しはね」
と短く答えた。それ以上言う勇気はなかった。
少しだと答えたのに、それでも閏は悔しそうに唇を噛んだ。
「そうか、やっぱりな。 ─── クソ、悔しいな。おれあいつにだけは負けたくなかった。たとえばお前の憧れが坂本に対してだったらおれは許せたのに」
「なっ……! なに言ってるのっ?」
今度こそ焦って顔を上げる。坂本を好きになるなんて万がひとつにもありえない!
閏はしかし、そんな結珂の視線を黙って受け止めた。真摯な瞳におされて結珂が口をつぐむと、彼は言った。
「おれ、お前が好きだ」
結珂は目をまんまるにして閏を見つめた。しばらくの間沈黙が支配し、それを破ったのもまた閏だった。
「お前はさ、普通なんだけどおれにとっては違うんだ。ずば抜けて目立つわけじゃないのにおれには特別なんだ。お前って友達以外にはそうでもないけど、仲良くなるとすごく面倒見がいいだろ。いつかおれが仮病で学校休んだ時も風邪だって本気で信じて見舞いに来てくれた」
「だって……それだけで?」
それだけのことで、閏は自分を好きになってくれたのだろうか。
「好きになるきっかけなんてちょっとしたことだろ。何かきっかけがあって、それで充分なんだ。あとはおれが勝手にお前を見るようになった。見るようになってお前をもっと知るようになって、だんだん好きになって……だから達弥に憧れてるってことも分かった」
「 ────── 」
好きでなく、憧れというそんな淡い気持ちにさえ気付くほど。
閏は笑顔を見せない。ただ真剣に結珂を見つめている。彼女の逃げ場がなくなってしまうほど。
「お前に優しくする。お前が好きになってくれるように頑張る。だから考えてみてくれないか ─── 達弥でなく、少しでもおれを見てくれるように」
結珂は閏の瞳の底に、苦しげな色があることに気がついた。ただの告白では普通は見られないような、そんな哀しげな色。
閏はこんな時にまで、達弥を意識している ─── 。
「……分かった」
かすれたように小さく、結珂は答えた。この双子が、なんだかとても哀れに思えた。
「いた」
過去形を使った。
「彩乃の妹で聖香(せいか)って名前だった。 ─── おれ達が十三の時、事故で死んだ」
初耳だった。坂本だってそのことを一言も喋ったことがない。
黙り込んだ結珂の手を、閏はふいに取る。
「幡多」
真剣な眼差しに、結珂は気圧されそうになる。尋ねられた内容に度肝を抜かれた。
「お前達弥のこと好き?」
「な、なんで、いきなり」
「憧れてくらいは、いる?」
結珂は迷った。正直言ってあの冷静沈着で何でも出来る達弥をかっこいいとは思う。閏の言うとおり、憧れくらいはあった。でもそれは結珂ばかりでなく学校中、特に二年生の女生徒ならば少なからず思っていることだ。特別なものではない。
通じるだろうか心配だったが、
「少しはね」
と短く答えた。それ以上言う勇気はなかった。
少しだと答えたのに、それでも閏は悔しそうに唇を噛んだ。
「そうか、やっぱりな。 ─── クソ、悔しいな。おれあいつにだけは負けたくなかった。たとえばお前の憧れが坂本に対してだったらおれは許せたのに」
「なっ……! なに言ってるのっ?」
今度こそ焦って顔を上げる。坂本を好きになるなんて万がひとつにもありえない!
閏はしかし、そんな結珂の視線を黙って受け止めた。真摯な瞳におされて結珂が口をつぐむと、彼は言った。
「おれ、お前が好きだ」
結珂は目をまんまるにして閏を見つめた。しばらくの間沈黙が支配し、それを破ったのもまた閏だった。
「お前はさ、普通なんだけどおれにとっては違うんだ。ずば抜けて目立つわけじゃないのにおれには特別なんだ。お前って友達以外にはそうでもないけど、仲良くなるとすごく面倒見がいいだろ。いつかおれが仮病で学校休んだ時も風邪だって本気で信じて見舞いに来てくれた」
「だって……それだけで?」
それだけのことで、閏は自分を好きになってくれたのだろうか。
「好きになるきっかけなんてちょっとしたことだろ。何かきっかけがあって、それで充分なんだ。あとはおれが勝手にお前を見るようになった。見るようになってお前をもっと知るようになって、だんだん好きになって……だから達弥に憧れてるってことも分かった」
「 ────── 」
好きでなく、憧れというそんな淡い気持ちにさえ気付くほど。
閏は笑顔を見せない。ただ真剣に結珂を見つめている。彼女の逃げ場がなくなってしまうほど。
「お前に優しくする。お前が好きになってくれるように頑張る。だから考えてみてくれないか ─── 達弥でなく、少しでもおれを見てくれるように」
結珂は閏の瞳の底に、苦しげな色があることに気がついた。ただの告白では普通は見られないような、そんな哀しげな色。
閏はこんな時にまで、達弥を意識している ─── 。
「……分かった」
かすれたように小さく、結珂は答えた。この双子が、なんだかとても哀れに思えた。
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