蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ

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ふたりめ

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「ふうん、兄のサリアって結局殺されちゃうのか」

 ひとり見学に来ていた凪生徒会長は、台本を読みながらひとりごちた。だだっ広い体育館のど真ん中に置かれた椅子に腰掛け、「鶴の恩返し」の練習をする演劇部員をだるそうに見ていた隣の演劇部部長に視線を送る。

「蠍(アル)の舌(ギーラ)って『毒を持った舌の呪い』のことなんだな。おれ字そのもののことだと思ってた」
「蠍に舌なんてあるわけないでしょ」

 気乗りしない返事に、凪はパラパラ台本をめくる。

「兄を殺したいと思い続けた弟のアシュラムが伝説の『蠍の舌』を手に入れてしまう。罵った言葉がそのまま毒となって相手を殺してしまう恐ろしい舌……」
「まさに毒舌ってわけっスね。一歩間違えればギャグだよなあ」
「部長」

 苦笑して凪は台本を閉じる。いさめられた演劇部部長は深いため息をついた。

「やっぱ思い切れないですよ、おれも部員もみんなこの劇に入れこんでたんですから。何が悲しくて今更鶴の恩返しなんかやらなきゃいけないんですか。しかも文化祭目前ですよ!」
「達弥がイヤなんだから仕方がない」
「全部見てもいないくせに?」

 恨めしそうに生徒会長を見返す。凪は聞き咎めた。

「弟が兄を殺して終わりなんじゃないのか?」
「違いますよ! この劇は本当は、」

 がたんと立ち上がった演劇部長の言葉は、しかしそこで鋭い悲鳴に遮られてしまった。
 舞台の部員達の動きも止まる。

「なんだ?」
「旧校舎のほうからだぞ」

 凪が厳しい顔で立ち上がる。台本を椅子に置き、真っ先に悲鳴が聞こえたほうへ走っていく。演劇部長や部員もあとに続いた。
 時刻は夕方を過ぎて、もうかなり暗い。旧校舎には電気がついていた。
 昨夜事件があった技術室の真上に、科学実験室がある。その入り口の前に、腰を抜かして震えている女生徒がいた。

「だいじょうぶか? 何があった?」

 助け起こしながら、凪は女生徒が指差したほうを見る。

「!」

 凪と演劇部長、そして部員達は皆息を呑んだ。

 そこに私服の少年がひとり、倒れていたのだ。

 うつぶせに、 ─── 血塗られた床に。
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