蠍の舌─アル・ギーラ─

希彗まゆ

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 ◆


 結珂達が下に降りて覗きこむと、ウルウは仰向けに倒れたまま何度もまたたきをしていた。ゆっくりと確かめるように。

「しっかりして ─── 今、救急車呼んだからね。だいじょうぶだからね」

 その声にふとウルウは少し微笑んだようだった。

「 ────── 」

 唇が「ごめんな」と言ったようだった。あいにくと、声には紡がれなかったけれど。
 その拍子に咳き込んだウルウを、結珂が抱きしめる。反対がわに黙って自分を見下ろしていた坂本に気付き、ウルウは震えながら手をのばした。
 ためらった坂本に、「頼む」とかすれ声。
 坂本はウルウを少しだけ抱き起こしてやった。体を離した結珂は、涙が止まらない。
 少し離れたところ、救急車を呼んで戻ってきた彩乃がどうしてか近寄りもせず、庭石のひとつに座っている。積もった雪に濡れるのもおかまいなしに、そしてウルウでなく彼と同じように天を見上げて。
 何かにじっと耐えるように。

「ああ…… ─── 」

 さっきよりも楽になったように、ウルウはため息をついた。
 そしてまた、天から落ちてくる雪を見つめる。夢のようだ。

「志輝、前に……みんなで森の地図を作っただろ?」
「 ─── ああ」
「ラベンダーの小さな花畑、どこにあったか……覚えてるか」

 坂本は一瞬何かをこらえ、絞り出すように答えた。

「中心から北へ茂みを三つ、兎の穴を四つ」
「 ─── そうか。そうだった。……ずっと思い出せなかったんだ」

 小さく頷いて、ウルウは目を閉じる。

「どうしてだろうな、……いいことしか浮かんでこないんだ。夏にはここは花でいっぱいになったよな。彩乃と聖香がはしゃいで駆け回って、……花の匂いがあおられて、まるで妖精みたいで」

 鮮明にまぶたに浮かぶ。何年も経って、ウルウはようやく懐かしい思い出に戻ることができた。

「冬はみんなでかくれんぼをしたよな。この家の中で、タツミは隠れるのが上手で」

 いっぱいの花の甘い匂い。冬の暖炉の音。透き通るような森の風。
 いっせいによみがえる。
 よみがえってウルウを包み込む。

「 ─── なつかしいな………」

 うっとりと息を吸いこんだ、それが最期だった。
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