僕たちの3年間

禅乃蓮

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0-始まりは牝鶏の一声にて

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 3年生が旅立った。
 良き友であり可愛がってくれた先輩たちの前途を祝して部活から送り出したのは7月末。
 そう考えるともう半年以上彼らは部にいなかったわけだが、卒業と共に本当に学校からいなくなってしまった2月末日以降は特にがらんとした校舎が在校生の寂寥感を煽った。
 それでも何かが決定的に変わるわけではなく、だらだらと流されるまま日々は過ぎていく。

 富貴高校バスケットボール部も他の部活同様、のんびりとした空気の中で部活動に勤しんでいた。本気で強くなりたいのはごく一部、それ以外の部員は何をやるにも適当でダレた空気がそこはかとなく漂っている。
 そんな部員たちの中ではある意味、1年生の豊橋カタナは異質な存在だった。真面目にシュート練習をこなしたり走り込みで数字を上げたりするわりに、じゃあ本気で強くなりたい側なのかと思いきやドリブルすれば【ドリブルを止めて再度ドリブルし始めるルール違反ダブルドリブル】をとられパスをキャッチすれば【ボール持って3歩以上歩くルール違反トラベリング】と、ボールと同行する能力が致命的で1年かけても改善不可。お前もう陸部行けよと言われるような立ち位置の男だった。
 小学校で背が伸びた分、高校ではそこまで伸びず173cmどまり。ポジションも、もともとはセンターだったが、高校バスケのセンターとしては足りない身長とひょろひょろの体躯ゆえに今はセンターを外されている。
 そんな状況をもろともせず、今日も今日とてまだ吐く息の白い3月のバスケットコートで豊橋カタナー愛称トヨは3ポイントシュートの練習に勤しんでいた。頑張り続けるトヨを、各自に課されたノルマをこなしながら部員たちはほっこりした目で見守っている。

 この日もそんなだらけた練習で終わるはずだった。 
 だが、そんな平穏な昼下がりが突然の闖入者によって切り裂かれた。

 体育館の重たいドアが力任せに開かれる。ドン、と、ストッパーにぶつかる音を聞いて男バスだけでなく別コートで練習していた女子バレー部も驚いてドアに注目した。
 ドアを開けたのは細身な女だった。
 パッと見の印象はキャバ嬢。髪を金色に染め派手目に整え化粧もバチバチ、毛皮のコートを着ている割に、その下に着ているのは胸元が大きく抉れていた。足元も生足かストッキングか解らないが、なにせ短いスカートからムートンのハーフブーツまでの間の部分は素肌に見える色をしていた。

 女はジロジロと体育館の中を見回し、見下すように鼻で笑った。

「ねえ」

 棘のある鋭い声。反応したのは1年生の長谷川直次だった。直次は練習を止め、不審な女に駆け寄っていく。

「あ、の、どちら様でしょう? ここは関係者以外立ち入り禁止なのですが……」

 困惑気味に直次が声をかける。そんな彼をじろじろと睨め回し、女はニヤリと笑った。

「あんたは合格」
「……へ?」
「ちょっと退きなさい」

 女は直次をやんわりとわきに追いやると、再び体育館の中に目をやった。さすがの無礼さに男バス部員が眉を顰める。

「来年からあたし、ここのバスケ部のコーチになんの。てことで、玉遊び部の皆さんは退部しといてくんない?」
「は?」
「伝えたからね」

 女は一方的に告げると踵を返して歩き出した。ちょっ、ちょっと!! そんな情けない声をだして直次が女を追いかけようとするが、直後に「バッシュで降りてこない!」と厳しい叱責を受けて動きを止めている。結局は体育館にいた学生たち全員で不審な女を見送るしかできなかった。
 ざわつく体育館の中、部員たちが集まっていく。

「な、なんだったんだあれ……」
「わかんねぇ。とりま美人だった」
「いや今そこどうでもいいだろ」

 訳の分からない事象に興奮する部員たち。そんな中でもトヨは輪によって行かず、ひたすら3ポイントシュートの練習に明け暮れた。

(さっきの人、長谷川に合格って言った)

 ジャンプして、最高到達点でボールを放つ。綺麗な放物線を描きボールはゴールに向かって行く。
 だが。
 先ほどまで4連続で入っていたのに、今はなったシュートは僅かに軌道ががそれたのか、ゴールポストに阻まれバウンドして落ちていった。
 外れたシュートが自分の未来を示唆しているような気がして、トヨは苦虫をかみつぶしたような顔をしてボールを拾いに行った。

 僕たちの3年間はこうして幕を開けた。
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