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02-廃鶏と金の卵
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4月。
新入生の入学やらなんやらかんやらでバタバタするのは教師だ生徒会だだけで、普通の学生にとっては「新しいクラスになったー」くらいの認識の春。
上旬は特に何の騒動もなく。トヨたちバスケ部員も3月の騒動をそろそろ忘れ始めており、今年も去年の繰り返しかぁなんて笑いあいながら部活に勤しんでいた。
だからというか。
中旬、新一年生の部活入部式の日まではバスケ部員は誰も危機感を抱いていなかった。
バスケ部入部のための説明会をやるからバスケ部は全員集合せよとの命令でと集められた教室の中で、トヨたちは息をのむことになる。
「えー……今年からうちのバスケ部に専属のコーチが就くことにな―る」
間延びした古典のお爺ちゃん先生がいうと、教室のドアががらりと開いた。
(……え?)
入ってきたのはあの日、不穏な一言を残して消えた女。続いて入ってきたのは背もバラバラ、顔つきもそれぞれ違う5人だった。彼ら5人は真っ直ぐ窓際までいき、そこで一列に並んで立っている。
特に最も背の高い男は180後半くらい身長があり、身体つきもしっかりしている。よく日に焼けた肌がよく似合う少年だった。
トヨが長身の少年に目を奪われていると長身の少年がトヨの視線に気が付いた。猛獣のような目でギラリとトヨを睨みつける。
彼らを見てやおら浮き立つ部員もいた。だが女の鋭い一瞥に気圧されて部員は即押し黙った。
「自己紹介してくれるかー?」
「こっからはアタシが指揮を執る。センセは授業の準備ドーゾ」
「そかぁ。んじゃ頼んだわー」
艶々の赤い唇でそう言われ、爺ちゃん先生は早々に部屋を退出していった。ポカンとしたのは部員たちで、引き留めることも出来ぬままその背中を見送るしかなかった。
女は愛想よく爺ちゃん先生の背中に手を振っていた。
が、彼が部屋を出てその存在感を教室から消すと、女は教壇に立ち鋭い目で部員を一瞥した。
「アタシ、玉遊び部の子は退部しとけっつったはずなんだけど? ここにいんのはあたしの指導で泣き入れない覚悟決めてるってことでOK?」
しょっぱなにぶち込まれた一言に部員がざわつき始めた。そんな部員を見て、女は見下したように笑う。
「ああ、去年と一緒な感じで行けると思ってたくちかな? それとも言われた意味わかんなかった? じゃあ、改めて言いなおすわね?」
これから自分たちを指導する立場の女の高圧的な態度に部員たちが戸惑う。そんな戸惑いを気に止めることもなく、女は笑いながら言った。
「今日この時を以って、富貴高校玉遊び部は廃止しまーす♪ で、今日から富貴高校バスケ部が新規に創設されまーす。付いてこれる奴だけ教室に残りなさい。中途半端やうちの子たちに負けるような雑魚は要らないわ」
あまりのいわれように部員たちの顔色が変わった。それを見て複雑に思ったのはトヨだ。
(3月時点で言われてたろうに……)
怒り狂い詰め寄っているのは体育館でのんびりスマホをいじくっていた生徒たちだ。彼らは練習もそこそこに遊んでいたイメージが強い。
対して。
トヨが視線を向けたのは冷静なまま席についている長谷川直次や彼の近辺にいる同世代だった。彼らは多少青ざめながらも現状を受け止めるべく黙って侮辱に耐えている。
怒号のような生徒とのやり取りを女は平然と裁いていた。言い方はアレだがやはり年の功というべきか、女はぎゃあぎゃあ騒ぐ学生を手玉に取り、自分の都合のいいように話を進めていく。
ついに、ヒートアップした生徒たちが席を立ち部屋を出ていった。女は見下した目で彼らを見送る。女の手元にはちゃっかり退部届が握られているあたり本当にやり手なのだろうということがトヨには分かった。
結局、教室に残ったのは2・3年生合わせて7名ほどと、新1年生の5人だった。出ていく組みの生徒がバタンと音を立ててドアを閉めたのを、女はせいせいしたという目で見ていた。
女が教室内に目を戻す。先ほどとは違い、どこか面白そうな顔をしていた。
「で? あんたらは残るのね?」
「はい」
真っ先に答えたのは3年生のキャプテン・伊勢崎だった。富貴高校でセンターを務める、新一年生の体格のいい少年と同じくらい背が高く、身体の出来上がった男だ。伊勢崎の返事を聞いて他の5人も同調の意を表す。
一人だけ返事しなかったのに気づいたのだろう。女がトヨの前にやってきた。
「あんたはどうすんの? 返事ないんだけど?」
目の前で問いかけられ、トヨは口ごもった。
「怒んないから思ってること口にしな?」
女の口調は少しきついが、不思議そうにしている表情から本当に尋ねているだけだとトヨは解った。
トヨは思いのままを口にする。
「バスケ、好きです。でも、致命的にボールをうまく扱えなくて。それでバスケ部やめて陸部行けって卒業した先輩たちに言われまくりました。それでもバスケ部にいていいですか?」
トヨが問う。女は一瞬目を丸くしたが。
「それ、決めんのあんただから」
女はニヤリと笑ってトヨの頭をポンポンと叩いた。
「自分の意思を尊重しな」
そう言って女は教壇に戻っていった。今ここで決断を強制するつもりはないらしい。
「とりま、残るの6、保留1で考える。んで、そろそろうちのを紹介しますかね」
女が手招くと、5人の少年たちは2人と3人に分かれて教壇を挟んで一列に並んだ。
「こいつらは右から、センター蘇芳、ポイントガード向日葵、パワーフォワード若竹、同じくフォワード青藍、シューティングガード菖蒲。全員姓は松原。小学校の頃からあたしが育ててるバスケ馬鹿どもだ」
「バカは瑠璃だけだけどな」
「なんか言った?」
「いえなにも」
女の紹介に口を挟んだのは青藍と呼ばれた青年だった。瑠璃と呼ばれた女が睨みつけても素知らぬ顔で顔を背けてやり過ごす。
「んで、あたしはこいつらの保護者兼バスケ部コーチになる松原瑠璃だ。バスケ部でやってくつもりなら、よろしくね?」
あくまで高圧的に瑠璃がいった。そんな瑠璃に反発する心がないわけではないだろが、伊勢崎崎はじめ既存のバスケ部員は全員お願いしますと頭を下げた。
「んじゃあ、練習始めるよ。立ちな!」
(え?)
トヨがギョッとする。
瑠璃は自分の連れて来た5人の自己紹介はした。ただ、残るつもりの部員の名を、誰1人として聞いていない。
トヨの動揺などどこ吹く風、瑠璃は教室から出るようジャスチャーを出す。瑠璃の連れて来た5人は素直に従って教室から出ていった。
トヨが咄嗟にキャプテンの伊勢崎をみると、伊勢崎は困った顔をして溜め息をついただけでを諫めもせず教室を後にした。他の部員たちも動揺しつつ伊勢崎に従う。
一人教室に取り残されたトヨに、瑠璃が目を向ける。
「で? 保留君はどうすんの? 退部?」
「……いえ、部活頑張ります」
「そ? じゃあさっさと行動しな」
「はい」
トヨは瑠璃に一礼して先に出ていった部員たちの背を負った。
練習は顔合わせ重視にしたためかいつもより軽いくらいで終わった。
その日の練習で瑠璃が部員の名を聞くことはついぞなかった。
新入生の入学やらなんやらかんやらでバタバタするのは教師だ生徒会だだけで、普通の学生にとっては「新しいクラスになったー」くらいの認識の春。
上旬は特に何の騒動もなく。トヨたちバスケ部員も3月の騒動をそろそろ忘れ始めており、今年も去年の繰り返しかぁなんて笑いあいながら部活に勤しんでいた。
だからというか。
中旬、新一年生の部活入部式の日まではバスケ部員は誰も危機感を抱いていなかった。
バスケ部入部のための説明会をやるからバスケ部は全員集合せよとの命令でと集められた教室の中で、トヨたちは息をのむことになる。
「えー……今年からうちのバスケ部に専属のコーチが就くことにな―る」
間延びした古典のお爺ちゃん先生がいうと、教室のドアががらりと開いた。
(……え?)
入ってきたのはあの日、不穏な一言を残して消えた女。続いて入ってきたのは背もバラバラ、顔つきもそれぞれ違う5人だった。彼ら5人は真っ直ぐ窓際までいき、そこで一列に並んで立っている。
特に最も背の高い男は180後半くらい身長があり、身体つきもしっかりしている。よく日に焼けた肌がよく似合う少年だった。
トヨが長身の少年に目を奪われていると長身の少年がトヨの視線に気が付いた。猛獣のような目でギラリとトヨを睨みつける。
彼らを見てやおら浮き立つ部員もいた。だが女の鋭い一瞥に気圧されて部員は即押し黙った。
「自己紹介してくれるかー?」
「こっからはアタシが指揮を執る。センセは授業の準備ドーゾ」
「そかぁ。んじゃ頼んだわー」
艶々の赤い唇でそう言われ、爺ちゃん先生は早々に部屋を退出していった。ポカンとしたのは部員たちで、引き留めることも出来ぬままその背中を見送るしかなかった。
女は愛想よく爺ちゃん先生の背中に手を振っていた。
が、彼が部屋を出てその存在感を教室から消すと、女は教壇に立ち鋭い目で部員を一瞥した。
「アタシ、玉遊び部の子は退部しとけっつったはずなんだけど? ここにいんのはあたしの指導で泣き入れない覚悟決めてるってことでOK?」
しょっぱなにぶち込まれた一言に部員がざわつき始めた。そんな部員を見て、女は見下したように笑う。
「ああ、去年と一緒な感じで行けると思ってたくちかな? それとも言われた意味わかんなかった? じゃあ、改めて言いなおすわね?」
これから自分たちを指導する立場の女の高圧的な態度に部員たちが戸惑う。そんな戸惑いを気に止めることもなく、女は笑いながら言った。
「今日この時を以って、富貴高校玉遊び部は廃止しまーす♪ で、今日から富貴高校バスケ部が新規に創設されまーす。付いてこれる奴だけ教室に残りなさい。中途半端やうちの子たちに負けるような雑魚は要らないわ」
あまりのいわれように部員たちの顔色が変わった。それを見て複雑に思ったのはトヨだ。
(3月時点で言われてたろうに……)
怒り狂い詰め寄っているのは体育館でのんびりスマホをいじくっていた生徒たちだ。彼らは練習もそこそこに遊んでいたイメージが強い。
対して。
トヨが視線を向けたのは冷静なまま席についている長谷川直次や彼の近辺にいる同世代だった。彼らは多少青ざめながらも現状を受け止めるべく黙って侮辱に耐えている。
怒号のような生徒とのやり取りを女は平然と裁いていた。言い方はアレだがやはり年の功というべきか、女はぎゃあぎゃあ騒ぐ学生を手玉に取り、自分の都合のいいように話を進めていく。
ついに、ヒートアップした生徒たちが席を立ち部屋を出ていった。女は見下した目で彼らを見送る。女の手元にはちゃっかり退部届が握られているあたり本当にやり手なのだろうということがトヨには分かった。
結局、教室に残ったのは2・3年生合わせて7名ほどと、新1年生の5人だった。出ていく組みの生徒がバタンと音を立ててドアを閉めたのを、女はせいせいしたという目で見ていた。
女が教室内に目を戻す。先ほどとは違い、どこか面白そうな顔をしていた。
「で? あんたらは残るのね?」
「はい」
真っ先に答えたのは3年生のキャプテン・伊勢崎だった。富貴高校でセンターを務める、新一年生の体格のいい少年と同じくらい背が高く、身体の出来上がった男だ。伊勢崎の返事を聞いて他の5人も同調の意を表す。
一人だけ返事しなかったのに気づいたのだろう。女がトヨの前にやってきた。
「あんたはどうすんの? 返事ないんだけど?」
目の前で問いかけられ、トヨは口ごもった。
「怒んないから思ってること口にしな?」
女の口調は少しきついが、不思議そうにしている表情から本当に尋ねているだけだとトヨは解った。
トヨは思いのままを口にする。
「バスケ、好きです。でも、致命的にボールをうまく扱えなくて。それでバスケ部やめて陸部行けって卒業した先輩たちに言われまくりました。それでもバスケ部にいていいですか?」
トヨが問う。女は一瞬目を丸くしたが。
「それ、決めんのあんただから」
女はニヤリと笑ってトヨの頭をポンポンと叩いた。
「自分の意思を尊重しな」
そう言って女は教壇に戻っていった。今ここで決断を強制するつもりはないらしい。
「とりま、残るの6、保留1で考える。んで、そろそろうちのを紹介しますかね」
女が手招くと、5人の少年たちは2人と3人に分かれて教壇を挟んで一列に並んだ。
「こいつらは右から、センター蘇芳、ポイントガード向日葵、パワーフォワード若竹、同じくフォワード青藍、シューティングガード菖蒲。全員姓は松原。小学校の頃からあたしが育ててるバスケ馬鹿どもだ」
「バカは瑠璃だけだけどな」
「なんか言った?」
「いえなにも」
女の紹介に口を挟んだのは青藍と呼ばれた青年だった。瑠璃と呼ばれた女が睨みつけても素知らぬ顔で顔を背けてやり過ごす。
「んで、あたしはこいつらの保護者兼バスケ部コーチになる松原瑠璃だ。バスケ部でやってくつもりなら、よろしくね?」
あくまで高圧的に瑠璃がいった。そんな瑠璃に反発する心がないわけではないだろが、伊勢崎崎はじめ既存のバスケ部員は全員お願いしますと頭を下げた。
「んじゃあ、練習始めるよ。立ちな!」
(え?)
トヨがギョッとする。
瑠璃は自分の連れて来た5人の自己紹介はした。ただ、残るつもりの部員の名を、誰1人として聞いていない。
トヨの動揺などどこ吹く風、瑠璃は教室から出るようジャスチャーを出す。瑠璃の連れて来た5人は素直に従って教室から出ていった。
トヨが咄嗟にキャプテンの伊勢崎をみると、伊勢崎は困った顔をして溜め息をついただけでを諫めもせず教室を後にした。他の部員たちも動揺しつつ伊勢崎に従う。
一人教室に取り残されたトヨに、瑠璃が目を向ける。
「で? 保留君はどうすんの? 退部?」
「……いえ、部活頑張ります」
「そ? じゃあさっさと行動しな」
「はい」
トヨは瑠璃に一礼して先に出ていった部員たちの背を負った。
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