僕たちの3年間

禅乃蓮

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05-烏合の衆が寄った大樹が燃えた

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 瑠璃に選ばれた者、瑠璃についていこうとする者、瑠璃の謀略に気付くかぬ者。バスケ部は今や3つのグループに分けられている。
 謀略に気付かぬ部員たちは6月になってもまだ体育館でのんびり練習に励んでいる。
 対し、瑠璃率いる松原5兄弟と3年、トヨと直次は基礎練を繰り返し着実に体力をつけていた。
 休日の練習も瑠璃組は招かれているが、当然のように体育館組は休日練習があることすら知らされていない。

 トヨはバスケ部が分断されている現状を憂いながらも、「自分たちで知ろうとしないから悪い」と瑠璃に言い含められてしまい体育館組に事実を言えないでいた。自然、直次とは秘密を抱えるもの同士距離が近くなった。
 4時間目。よく解らない数学の授業を受けながらトヨはぼーっと窓の外を眺めていた。運動場では体育の授業が行われている。
 授業終了を告げるチャイムが鳴った。ほとんどの生徒たちが真っ直ぐに校舎に戻っていく中、複数名の生徒がそのままサッカーをして遊び始めた。無邪気に笑いあう彼らの中には体育館組のバスケ部員の姿もあった。
 彼らにどんな顔をして会えばいいのかトヨには解らなかった。

「ちょっとだけ、羨ましいな」
「……直次」
「コーチさえ来なかったら、こんな気持ちにならなかったのになって、思うよ」

 直次はトヨの前の机をくるりと回転させてその席に腰を下ろす。細身な彼だが、広げた弁当の大きさは普通の生徒の2倍ほどあった。
 直次に促されてトヨも弁当を出す。だが、箸の進みは遅い。
 
「いつまでこんなことが続くんだろ?」

 トヨがポツリと呟く。直次は首を振り、溜め息をついた。 

「言えることは一つ」
「言えること?」
「いつかは、必ず来る」
「……」

 トヨの胸に直次の言葉が重くのしかかる。トヨは箸を止め、未だに運動場で遊び続ける同級生たちを見やった。

「いつかなんて、こなければいいのに……」

 切実な願いが風に乗って消えていく。
 皮肉なことに、来ないでほしいと思っていた「いつか」が来たのはその日のうちのことだった。

 +ーー+

 基礎練に出ていた瑠璃組みとトヨと直次が練習を終え、体育館に戻ってきた時だった。
 体育館に入るための入り口を開けたトヨはビクリと身体を揺らした。入り口入ってすぐのところに体育館組が並んでいたのだ。

「……おかえり、トヨ」
「……ただいま」

 彼らの背負う妙な迫力に気圧されてトヨは思わず体育館に入るのに尻込みした。体育館組の一人がわざとらしい笑みを浮かべて歩み寄ってくる。

「どしたんだよ? 早く入って来いよ」
「あ、ああ」

 差し伸べられた手に引かれるまま体育館に入る。そんなタイミングで遅れて帰ってきた瑠璃組みと直次が追い付いてきた。

「おら、入れ―! 練習始めるぞー」

 瑠璃のわざとらしい言葉に瑠璃組みと直次が返事をしつつ入ってくる。彼らは体育館組をまるでいないかのように平然と押しのけて体育館に入っていった。

「アップー! ほら、コートの端いけ!!」
「ちょっと待ってください」

 完全に無視された体育館組が瑠璃の肩を掴んで止めた。

「あ?」

 心底迷惑そうに瑠璃が自分を引き留めた生徒を睨みつける。ヤンキー丸出しのその態度に生徒が一瞬怯んだのを見て、瑠璃は容赦なく肩を掴む腕を振り払った。

「おかしくないですか? 俺たちもバスケ部です。外練があるならなんで声かけてくれないんですか?」
「あれは自主練。来たくなきゃ来なくていい」
「そういうものじゃないですよね? 自主練にコーチが付いて体育館で練習してる俺らに指導ないのはどう考えたっておかしいでしょ?」
「スマホいじってるくせに何言ってんの?」

 瑠璃の言葉に体育館組代表がぐっと詰まる。

「さっさとアップの準備しな」
「ちゃんと聞いてください!!」
「めんどくさいね、聞いたげるからさっさといいな」
「ハッキリ言います! えこひいきやめてください!! バスケ部のコーチなら、バスケ部員全員の練習を公平に見てください!!」

 体育館組代表が必死に訴えた。聞いた直後、瑠璃は大声で笑った。それこそ体育館中に響き渡るように。思い切り見下した声で。
 突然の瑠璃の奇行をみて、咄嗟にトヨは松原5兄弟を見た。彼らも瑠璃と同じように体育館組を見下しているのではないかと気になったのだ。
 が。
 5兄弟のうち4人は瑠璃にドン引きしていた。この期に及んで青藍だけは我関せずで、バスケットボールを引っ張り出してくると勝手にシュート練習を始めてキャプテン伊勢崎を真っ青にさせている。

「な、何で笑うんですか!!」
「公平? 公平に見てるからこの対応なんだけど?」
「は? どういうことですか!!」
「はいはい、証明したげる」

 瑠璃は面倒くさげに両手を上げてひらひらとふった。

「全員集合! こらセイ、こっちこい」
「?」

 青藍を除いた全員が硬い表情で瑠璃の元に集まる。青藍は何が起こっているのか理解していないのか不思議そうな顔で寄ってくる。

「今日の練習は中止。そのかわり、今から5-On-5形式で練習試合をしまーす」

 突然の方針転換にバスケ部がざわつく。

「メンバーはうちの子5人対お前らの誰かだ。出てきたい奴出てこいよ」
「瑠璃」
「聞かない」

 戸惑った声で蘇芳が瑠璃を呼ぶが、瑠璃は冷たく切り捨てた。さっさとコートに入れとジャスチャーを送る。松原5兄弟は1名除いて戸惑い気味にコートに入った。
 速やかに指示に従った5人に瑠璃は適当にガンバッテーとエールを送っている。気後れしたのはバスケ部員たちだ。お互い顔を見合わせてざわついたまま動けないでいる。
 そんな部員たちを瑠璃は見下した目で一瞥した。

「そっちどーすんの? やんないならとっとと帰れ、練習再開したいしー」
「や、やります! やりますが……」
「メンバー決まんない? じゃあ指定してやるよ。お前と、お前。んでお前、センターはお前で、あとは……」
 
 瑠璃が雑に指さして指定していく。
 瑠璃の即断即決はたしかに適当に選んでいるようにも見えた。が、メンツを見てトヨは肝を冷やす。ガード、フォワード2枚、センター。ちゃんと瑠璃はポジションごとの人選を行っている。

(……え? いつ?)

 瑠璃はずっと瑠璃組みにべったりくっついて練習を見ていたはずだ。体育館組の練習などまともに見ていないはずなのに。
 瑠璃は把握している。誰がどこのポジションを得意とするのか。すらも。

「最後1枚はお前でいいや。あっち入れ、豊橋」
「!」
「瑠璃!!」

 突然名指しされてトヨは目を瞠った。焦った蘇芳が瑠璃を呼びつけて止めようとする。直次もまた真っ青な顔でトヨの顔を見た。
 瑠璃だけは素知らぬ顔で、顎をしゃくってコートを指した。

「さっさと行ってくれる?」
「……はい」

 トヨが足取り重くコートに入る。瑠璃に指名されて先に入っていたメンツは、足取りの重いトヨに眉をしかめた。

「なんだよ、俺らとじゃ不満なのかよ」
「裏切者の分際で?」

 冷たい目でメンバーがトヨを迎え入れる。とはいえ、そんな空気を出したのは一瞬。コートにいた気のいい奴がトヨの首に腕を巻き付けた。

「まあいいさ。思い知らせてやろうぜトヨ! 先輩の威厳って奴をさ」
「……」
「トヨ?」

 トヨは俯いたままよろしくお願いします、とだけ呟いた。他のメンバーは不審な顔をしてよろしくと返した。
 5人がコートの中央線を挟んで向かい合う。

「若竹、菖蒲、向日葵、青藍、蘇芳。手を抜くのは失礼と知れ」
「はい」
「先輩組、負け惜しみはきかん。全力でやれ」
「うす」
「ゲームは5分、ストップなし。審判は3年でやる」

 瑠璃の言葉に双方が頷く。瑠璃はそれを確認してコートから下がった。代わりに出てきたのは伊勢崎だ手に持つボールを掲げて開始が近いことを知らしめる。
 各チーム、始まりのボールに触れる者ジャンパーを残してコートに散った。
 ボールを持つ伊勢崎が腰を落とす。そして

「はじめ!!」

 瑠璃の号令とともに、真っ直ぐにボールを投げ上げた。
 トヨの心に深い傷を残す試合が始まった瞬間だった。
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