僕たちの3年間

禅乃蓮

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08-霞に千鳥と言われようとも

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 インターハイの地区予選を目前に控えた日々。
 初夏に差し当たって練習にも水分補給や休憩の時間が増えてきた。
 熱中症対策とはいえブチブチ集中を切られるせいで油断すれば気が抜けてしまいそうな日々。活を入れるかのように瑠璃は他校との練習試合を準備して週ごとに部員たちの気を引き締めた。相手の学校の態度が少々瑠璃に対してへりくだりすぎていたのは気になったが……まあ、どの練習試合もトヨや松原兄弟にとっていい経験になったと言わざるを得ない結果を残した。

「んで、インハイの地区予選なんだけど」

 この日、練習のために体育館にいた部員を呼び集め瑠璃がやおら話始める。だが部員のほとんどが話に集中できなかった。何故なら、瑠璃の後ろに愛らしい女子生徒が2人控えていたからである。

「ハッキリ言う。県大会までいけりゃ上出来だと思ってる。そのつもりでピークを地区予選決勝に合わせるから気を抜かないように」
「あの」
「ん?」
「インハイはいいんですが……その」
「ああ、この子ら?」

 瑠璃が手招くと2人が瑠璃の横に並んだ。

「今日からバスケ部のマネやってもらう子たちだ。雑務を担当してもらうが飯炊き女じゃない。この子らを通して女の子たちとの適切な距離感ってのを学べ?」
「アイリです」
「くるみです。2人とも1年生です」

 圧をかけてくる瑠璃とは違い、モデルのようなアイリと清楚なお嬢様のようなくるみが歳の近い男子に囲まれて少し気圧されたように恥じらいながら挨拶をしてくれた姿が愛らしくて。本能に忠実な男子高校生たちはすぐに夢中になったのは言うまでもない。
 休憩時間、直次すら浮足立ち多くの部員が2美人を取り囲みに行ったのに、トヨは歯牙にもかけることなく3Pシュートの練習に明け暮れた。
 正直、アイリもくるみも女の子として非常に魅力的だ。だが、その魅力的な女の子を「誰が」連れて来たかを考えれば関わりたいと思える相手ではなかった。トヨの読みの正しさを裏付けるように松原5兄弟も彼女らとは距離を置いている。
 トヨの手からボールが飛んでいく。ボールは綺麗な弧を描いてゴールポストに向かったが。

(短い)

 トヨの目測通り、ゴールポストに弾かれてボールが跳ね返る。ボールを取りに行こうとしたトヨの前に大柄な男が割り込んだ。

(え?)

 一瞬戸惑ったが、男の体の動かし方を見て彼が何をしようとしているのか察した。トヨはすぐ男……蘇芳に駆け寄り、蘇芳と同時に飛ぶ。

(くっそ、高い!!)

 ジャンプも伸ばした手も、トヨよりもはるか高いところまで届いている。何もかも劣っているトヨでは相手からボールを奪い取ることはできなかった。
 蘇芳がボールを確保して着地する。直後、彼はドリブルしながら走り出した。向かう先はトヨがシュート練習に使っていたのとは逆のゴールポスト。トヨは必死に追いかけ、センターラインで何とか追いついた。そこからはディフェンスで張り付き、蘇芳の動きを徹底的に妨害する。トヨのマークに怯んだ蘇芳がドリブルしながら立ち止まる。
 トヨと蘇芳が至近距離で睨みあう。その間にも、トヨは蘇芳の入れるフェイントや走ろうとするコースを全部潰して立ちはだかる。
 ドリブルの音がわずかに小さくなった。蘇芳に迷いが生じたのだろう。その瞬間、トヨは容赦なくスティールを仕掛けた。目論見通り、トヨの指はボールを突き蘇芳の手を離れる。

「?!」
「!」

 2人の男が同時にボールを追いかける。先に追いついたのはトヨだった。
 が。

「げ!」

 追いついたトヨは、拾おうとして伸ばした手より先に出た足でボールを蹴った。さらに加速して離れていくボールに体勢を崩したトヨが追い付くことはできず。再びボールは蘇芳の手に渡った。再びディフェンスに付こうとしたトヨを素早くかわし、蘇芳はそのままゴール付近まで駆け抜けるとレイアップシュートでキメてしまう。

「あー……」

 いいところまで行ったのに、というべきか。
 やはり敵わなかったかというべきか。
 足元でてんてんと跳ねるボールを拾い上げた蘇芳がゆっくりとトヨを振り返る。真っ直ぐな瞳がトヨを刺す。
 蘇芳がトヨの元に歩いてくる。たったそれだけでまるで映画のワンシーンから抜け出してきた俳優のようにサマになるのがトヨにはしゃくだった。
 蘇芳はトヨの前に立ち止まるとボールをずいっと差し出してきた。睨みつけるような強さの視線が痛い。

「ありが、とう?」

 トヨがおずおずとボールを受け取る。その時だった。
 蘇芳の薄い唇が動く。

「なんで諦めたんすか?」
「え?」

 トヨの心臓が跳ねた。
 蘇芳が責めているのはトヨがボールを蹴ってしまった後のことだ。2度目のディフェンスに着いた時、蘇芳に躱された瞬間、トヨは無理だと判断してゴール下までついて行けなかった。

「先輩はマークが強い。その強みを捨てて敵のゴールを見送るなら、先輩のいる意味って何なんですか?」
「え……」
「ドリブルできない、マークも勝手に諦める。そんなやつ、コートにいられても困ります」
「っ!」

 トヨの顔が一気に紅潮する。だが言い返そうにも指摘された事項は全部図星だ。トヨは何も言えず、ただ黙って奥歯を噛みしめるしかできなかった。
 そんなトヨに興味を失ったのか、蘇芳は侮蔑するような目をトヨに向けた後、背を向けて歩き出した。
 一人コートに残されたトヨをみて何かがあったと気づいたのか、コートの端で休憩をとっていた直次と菖蒲が駆け寄ろうとした。2人を止めるように瑠璃が吼える。

「休憩終了! 練習再開するぞ!!」
「あっす!」

 アイリとくるみに癒された男子たちがいいところを見せようと気合十分にコートに入ってくる。
 対極的に、トヨは冷えた心でひたすら蘇芳の背中を見ていた。

(絶対に、アイツより上手くなる)

 そう、心の奥底で蘇芳への対抗心を燃やしながら。
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