湖畔の賢者

そらまめ

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エルフィア 一話

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 エルフィア建国から三ヶ月が過ぎた。あれから特にトラブルもなく、ルド村のお手伝いをしたり、周辺の調査など自由気ままに過ごしていた。

「寒い。冬ってほんと寒い」
「何当たり前のことを言っている。冬が寒くなくてどうするのだ」

 湖も偶に薄らと凍り、偶に雪も降る。雪が降れば当然のように雪が積もる。そんな状況では車は使えない訳で周辺の調査は徒歩で行うことになる。

「うん。冬は周辺の調査はやめよう。あまり遠出も出来ないし、そうしよう」
「この根性なしめ」
「僕は君たちと違って冬でもそんな薄着でいられるほど頑丈ではないからさ」

 白のチューブトップの上に緑色の丈の短い半袖の上着。そして超短い緑色のスカート。靴は明るめの茶色で革のロングブーツを履いている。そんな薄着な彼女たちは一年中この格好だ。
 ちなみにエルとエマはミニスカートがキュロットスカートとかいうやつになっただけで服装の見た目はエルザたちと殆ど変わらない。

「あれれぇー、トールさんはウォームも使えないんですかぁ」
「……おい、なんだその暖かそうな魔法は」
「身体の周囲を暖めたり、物を温めたりする魔法ですよぉ」
「教わってねぇぞ!」
「聞かれませんでしたしぃ」

 思い返せば去年の冬は館に籠りっぱなしの毎日だった。

「はーい! せんせーに私が教えるよー」
「エマも教えてあげるー」
「こうするんだよっ」

 二人同時に無詠唱で魔法を発動したらしいが、無詠唱ゆえに分からない。
 しかし魔法はイメージ。詠唱なんて必要ない。魔法名だけでも唱えればどうにかなる。

「ウォーム。わわわわわわ、あっつぅ!」

 慌てて魔法を解除して雪の中にダイブした。その姿を見て四人が笑う。

「魔法とは繊細なのだ」
「なんでも全力でぶっ放すトールさんには無理なんでしょうねぇ」

 くそっ、確かに俺はいつでも全力全開をモットーにしてるが。それは攻撃魔法だけだっつうの!

 俺は焼けた身体を冷やした後、何食わぬ顔で立ち上がった。

「よし、帰るぞ」
「ごまかすな」
「あ、せんせーごまかしたぁ!」
「やっちゃったね、せんせー!」

 エルとエマの追撃により、より深く胸に刃が刺さる。胸を抑えて倒れそうになるも必死に耐えた。

「ん、なんだあの雪煙りは」

 西の方角から雪煙りを上げて何かが迫ってくる。

「来るぞ!」

 呑気にその光景を観察している俺に代わり、エルザのその一言で皆が武器を構えた。

「耳が生えた男女が何かに追われてるぞ!」
「誰だって耳は生えてるだろうが!」
「違う。ピョコンとだ」

 俺はそう言って頭に手をのせて耳を模してから、追いかけられている二人を助けるべく走りだした。

「おい、一人で突っ走るな!」

 そんなエルザの声がしたが構わず走る。そしてウサ耳の二人を飛び越えると、迫ってくる魔物を迎え討つ為に足を止めた。

「な、あれはシルバーウルフなのか」

 並のサイズより遥かに大きいシルバーウルフを後方にして、その前を三体の標準サイズのシルバーウルフが楔形に隊列を整えて走ってくる。

「ライトニング・アローレイン!」

俺は右手を振って前に突き出した。
雷撃がシルバーウルフに向けて矢のように無数に降り注ぐも奴等は華麗に避けて迫ってくる。

「それは想定内。グラビディ!」

 広範囲に重力魔法でシルバーウルフを地面に押し留めると、エルザが後方のシルバーウルフ目掛けて一気に接敵し大剣で首を刎ねる。それに続くように左右からエルとエマが中央からエルナと、残り三体の首をそれぞれ刎ねた。

「お見事」
「下手くそめ、初撃で決めろ」
「毛皮を穴だらけにしたくなかったんだよ。それに君たちの見せ場も必要だろ」

「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」

 振り返るとウサ耳の二人が頭を下げていた。

「なぜこんな場所に」

 エルナが久々によそゆきの言葉で話していた。これもきっと、裁定者ひとみしりモードとかいうやつなのだろう。

「私たちは南の森に住む兎人族なのですが覚醒種が現れて森を追われた為に、集落の中でも足の速い私たちがこちらに助けを求めに参りました」
「あなた方、西から来ましたよね」
「はい、雪で方角を誤りまして世界樹の森へ」

 それで森に棲むシルバーウルフに追いかけられたのか。

「なるほど。それで生き残りはあなた方だけですか」
「いえ。百人程が南の森の近くで避難しております」
「そうですか。それで助けて欲しいとは」
「はい。住んでいた森にはもう住むことが出来ません。なのでエルフィアに移住させて頂きたいのです」

 ほんと覚醒種ってやつは傍迷惑だな。

「いいよ。僕たちはここから北に行った湖の畔に住んでいるから、皆を一度連れてくるといい。その時に住む場所を改めて決めよう」
「はい、ありがとうございます!」

 俺は非常用に作っておいた干し肉を渡して兎人の二人と別れた。

「トール、彼奴らの名を聞いてはいないぞ」
「あ、すっかり忘れてたな」
「別にいいんじゃないですかぁ。中々名を覚えられない人もいますしぃ」
「失礼な。似たような名が多くて覚えられないだけだよ」

 俺は話を切り上げてシルバーウルフの死体を回収すると、皆を連れてルド村の冒険者ギルドに転移した。そしてゴン爺にシルバーウルフを渡して拠点に帰った。
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