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三話
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冬も終わりかけようとしていた頃、兎人たちが拠点にやってきた。
かなり疲労しているようで手厚くもてなした。もっとも食事くらいしか出せないのだけれど。
そして下見をして予定していたルド村と拠点との中間地点に兎人たちを順番に転移魔法陣で移動させた。
「ご覧の通り、神殿の両横に僕たちの拠点に移動する魔法陣とルド村に移動できる魔法陣を設置しておきました。また資材もある程度必要数を予測してあちらに積んであります。この場所で良ければここを里にしてもらいたいと思っています」
「そんな滅相もない。近くに森もあり、水場もあるこんな豊かな土地に感謝はあれど、文句を言うものなど一人もおりません。本当にありがとうございます」
兎人族の里長であるウーニャさんが感謝を述べた。
そのウーニャさんは若く、そしてスレンダーな綺麗な人で、その長くてピンとした耳とお尻についた丸いふさふさの尻尾が他の兎人族の者よりも特別感を醸し出していた。
また、兎人は長い耳と丸い尻尾があるだけで他は人間と変わらない姿だった。
そうこうしている内にルド村の村長とお手伝いの村人たちが来て、兎人たちと挨拶を交わし今後の打ち合わせをしていた。
俺たちはそれを見届けて拠点に戻った。
「いやあ、まんま人と同じなんだな」
「一度会ってるだろうが」
「あの時は彼等がローブを着ていたから気付かなかったんだよね。もしかして他の獣人族もあんな感じなの」
「そうですよぉ。耳と尻尾が違うくらいですねぇ。はい、お茶をどうぞ」
「そうだな。だが、犬人族と狼人族は未だに見分けがつかん」
……確かに見分けづらそうだ。
エルナが淹れてくれたお茶を飲みながら、そんな想像していた。
「ところでさぁ。春になったらルキアに行ってみようと思うんだけど駄目かな」
「駄目ってことはないだろ。トールが行きたければ好きにすればいい。私たちはそれに従うだけだ」
「何をするつもりですかぁ」
みんなにお茶を出した後、ちょこんと席に着いたエルナが訊ねてきた。
「米を手に入れたい。そしてカレーを食べたい」
少し前にこの拠点に立ち寄ったサントゥールで活動している裁定者のエルフが教えてくれたのだ。
「ああ、迷い人が持ち込んだ料理のことか」
「米の苗を手に入れればルド村で栽培してもらいたいし。そうなればお米が食べられる」
「以前話していた、日本人のソウルフードってやつですね」
「ああ、もう一年以上食べてないんだ。魂が米を欲している」
「エルナ、米とやらはそんなに美味いのか」
「私も食べたことがないので知りません」
ライスカレーを想像して思わず涎が垂れそうになる。
「よし、明後日にも旅に出よう!」
「おう!」
「はいっ!」
「たびぃー!」
「しゅっぱつしんこうっ!」
左肩のサクヤに視線を移すと彼女も恥ずかしそうに控え目に片手を上げていた。
「ところでさあ、猿人。猿の獣人はいないの」
エルザとエルナが馬鹿を見るような目をして無言で俺を指差した。
「え、おれ?」
「ああ、魔物ではない猿が脳みそに全振りしたのがノーマルだと伝承にある」
「だから非力なんだと言われてますねぇ」
脳みそに全振りってなんだよ……
「聞かなきゃ良かった」
俺は愕然として項垂れた。
「今夜のご飯当番はエルザな。僕は精神的に無理だ、ごめんよ」
その夜は久々に枕を濡らして眠りについた。
そして出発日当日の朝を迎えた。
前日には兎人族の集落をウーサの里と名付け。旅の準備を完了させた。
そしてハンドルを握るのはじゃんけんで勝ったエルザだ。俺はエルとエマに挟まれるように三人で後部席に座った。
「よし、出発!」
エルザの気合の入った掛け声で車は走り出した。
雪解けの悪路をゆっくりと南へ進むこと半日。行く手を塞ぐように巨大なワイルドボアが現れた。
「あれは覚醒種になる前の個体ですね」
珍しく真面目に話すエルナに少し驚きながら車から降りた。
「ここで倒しておいた方がいいな」
エルザはそう言って大剣を構えた。
「ええ、間違って北に向かう可能性もありますからね」
なんか、えらく真面目だな。そんなに強そうには思えないが。
俺は転移魔法を使ってワイルドボアの首横に転移すると精霊刀でワイルドボアの首を御免と叫んで一刀両断した。
「えっ……」
「あれっ……」
「せんせーかっこいいー!」
「せんせーつよいっ!」
さっと地面に降り立ち、クールに血振りをして刀を鞘に納める。
「他愛ないものよ」
タイミング良く、刀が鞘に納まりパチンと鳴った。
「せんせーかっこいい!」
「こんど真似っこするねー!」
エルとエマが俺の脚に飛びついてきた。その二人の頭を優しく撫でながら囁やいた。
「二人を守れて、本当に良かったよ」
「なあ、エルナ。私たちは何の小芝居を観せられているのだ」
「あれはサムライ、ナメんな。の次に痛いセリフ」
「……他愛ない、なんちゃらのことか」
「ええ。あれは後でトールの胸に突き刺さる言葉となって大流行するわ」
「だろうな。エルとエマがしっかり見たしな」
そんな二人の会話が聞こえてくる。急激に胸が痛くなり、その場で片膝をついて胸を抑えた。
……やっちまった。やはり黒歴史は繰り返されるのか。
あまりの胸の苦しさに、俺は強く胸を抑えていた。
かなり疲労しているようで手厚くもてなした。もっとも食事くらいしか出せないのだけれど。
そして下見をして予定していたルド村と拠点との中間地点に兎人たちを順番に転移魔法陣で移動させた。
「ご覧の通り、神殿の両横に僕たちの拠点に移動する魔法陣とルド村に移動できる魔法陣を設置しておきました。また資材もある程度必要数を予測してあちらに積んであります。この場所で良ければここを里にしてもらいたいと思っています」
「そんな滅相もない。近くに森もあり、水場もあるこんな豊かな土地に感謝はあれど、文句を言うものなど一人もおりません。本当にありがとうございます」
兎人族の里長であるウーニャさんが感謝を述べた。
そのウーニャさんは若く、そしてスレンダーな綺麗な人で、その長くてピンとした耳とお尻についた丸いふさふさの尻尾が他の兎人族の者よりも特別感を醸し出していた。
また、兎人は長い耳と丸い尻尾があるだけで他は人間と変わらない姿だった。
そうこうしている内にルド村の村長とお手伝いの村人たちが来て、兎人たちと挨拶を交わし今後の打ち合わせをしていた。
俺たちはそれを見届けて拠点に戻った。
「いやあ、まんま人と同じなんだな」
「一度会ってるだろうが」
「あの時は彼等がローブを着ていたから気付かなかったんだよね。もしかして他の獣人族もあんな感じなの」
「そうですよぉ。耳と尻尾が違うくらいですねぇ。はい、お茶をどうぞ」
「そうだな。だが、犬人族と狼人族は未だに見分けがつかん」
……確かに見分けづらそうだ。
エルナが淹れてくれたお茶を飲みながら、そんな想像していた。
「ところでさぁ。春になったらルキアに行ってみようと思うんだけど駄目かな」
「駄目ってことはないだろ。トールが行きたければ好きにすればいい。私たちはそれに従うだけだ」
「何をするつもりですかぁ」
みんなにお茶を出した後、ちょこんと席に着いたエルナが訊ねてきた。
「米を手に入れたい。そしてカレーを食べたい」
少し前にこの拠点に立ち寄ったサントゥールで活動している裁定者のエルフが教えてくれたのだ。
「ああ、迷い人が持ち込んだ料理のことか」
「米の苗を手に入れればルド村で栽培してもらいたいし。そうなればお米が食べられる」
「以前話していた、日本人のソウルフードってやつですね」
「ああ、もう一年以上食べてないんだ。魂が米を欲している」
「エルナ、米とやらはそんなに美味いのか」
「私も食べたことがないので知りません」
ライスカレーを想像して思わず涎が垂れそうになる。
「よし、明後日にも旅に出よう!」
「おう!」
「はいっ!」
「たびぃー!」
「しゅっぱつしんこうっ!」
左肩のサクヤに視線を移すと彼女も恥ずかしそうに控え目に片手を上げていた。
「ところでさあ、猿人。猿の獣人はいないの」
エルザとエルナが馬鹿を見るような目をして無言で俺を指差した。
「え、おれ?」
「ああ、魔物ではない猿が脳みそに全振りしたのがノーマルだと伝承にある」
「だから非力なんだと言われてますねぇ」
脳みそに全振りってなんだよ……
「聞かなきゃ良かった」
俺は愕然として項垂れた。
「今夜のご飯当番はエルザな。僕は精神的に無理だ、ごめんよ」
その夜は久々に枕を濡らして眠りについた。
そして出発日当日の朝を迎えた。
前日には兎人族の集落をウーサの里と名付け。旅の準備を完了させた。
そしてハンドルを握るのはじゃんけんで勝ったエルザだ。俺はエルとエマに挟まれるように三人で後部席に座った。
「よし、出発!」
エルザの気合の入った掛け声で車は走り出した。
雪解けの悪路をゆっくりと南へ進むこと半日。行く手を塞ぐように巨大なワイルドボアが現れた。
「あれは覚醒種になる前の個体ですね」
珍しく真面目に話すエルナに少し驚きながら車から降りた。
「ここで倒しておいた方がいいな」
エルザはそう言って大剣を構えた。
「ええ、間違って北に向かう可能性もありますからね」
なんか、えらく真面目だな。そんなに強そうには思えないが。
俺は転移魔法を使ってワイルドボアの首横に転移すると精霊刀でワイルドボアの首を御免と叫んで一刀両断した。
「えっ……」
「あれっ……」
「せんせーかっこいいー!」
「せんせーつよいっ!」
さっと地面に降り立ち、クールに血振りをして刀を鞘に納める。
「他愛ないものよ」
タイミング良く、刀が鞘に納まりパチンと鳴った。
「せんせーかっこいい!」
「こんど真似っこするねー!」
エルとエマが俺の脚に飛びついてきた。その二人の頭を優しく撫でながら囁やいた。
「二人を守れて、本当に良かったよ」
「なあ、エルナ。私たちは何の小芝居を観せられているのだ」
「あれはサムライ、ナメんな。の次に痛いセリフ」
「……他愛ない、なんちゃらのことか」
「ええ。あれは後でトールの胸に突き刺さる言葉となって大流行するわ」
「だろうな。エルとエマがしっかり見たしな」
そんな二人の会話が聞こえてくる。急激に胸が痛くなり、その場で片膝をついて胸を抑えた。
……やっちまった。やはり黒歴史は繰り返されるのか。
あまりの胸の苦しさに、俺は強く胸を抑えていた。
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