湖畔の賢者

そらまめ

文字の大きさ
64 / 101

二話

しおりを挟む
 まずは簡単なリバーシの制作に取り掛かった。本当はボーリングやビリヤードを作りたかったが丸い球を作るのは木製とはいえ、僕では難易度が高すぎる。将棋やチェス、麻雀なども考えてはみたがルールの説明が難しい。何より僕自身がよく分かっていない。そう考えると娯楽を増やすのはかなり大変だと気付かされた。

「ならば劇場か。いやいや、それは無理だろう。まず役者を揃えるのが無理そうだ。みんなそれぞれ仕事があるし、役者や歌手だけで生活出来るわけでもないしな」

 ふと、チンチロを思い浮かべるが、あれは完全なギャンブルだ。村のみんながギャンブル中毒になられても困る。僕の軽はずみな思いつきで風紀を乱す訳にはいかない。

「なかなか難しいなぁ」

 リバーシを作りながら、無意識にため息をついていた。そんな時

「エルー、エマーいるか!」
「はい!」
「いるのー!」

 悠太さんの声が部屋の外。リビングから響き渡ってきた。僕はその声に慌てて部屋を飛び出すのと同時にエルとエマが上から降ってきた。

「今日は君たち二人にとても良いものをプレゼントしよう。ちょっと外までおいで」
「はいなのー!」

 悠太さんと二人の後を僕等もついて家から出ると天馬が三頭。そのうちの二頭にはロータさん、そしてスクルドさんと一緒にクオンちゃんが乗っていた。

「天馬なのー!」

 初めて見る天馬に二人は大はしゃぎしている。そんな二人の手を取り悠太さんは天馬に近づいていく。

「せっかく天馬の仔馬を捕まえたのに。うちのクオンが要らないって言うからさ。君たち二人にプレゼントしようかと思って二頭捕まえてきたぞ。ほら、そこの大人の陰にいるだろう。貰ってもらえるかな」

 美しい二体の白い天馬の仔馬が天馬の陰から姿を現した。

「え、ほんとにもらえるの?」
「ああ、ほんとだよ」
「やったーなのー!」
「もらうのー!」

 悠太さんは喜ぶエルとエマの頭を優しく撫でると二人を天馬の傍まで連れていった。

「二人ともいいかい。仔馬の前に立って、お友達になってください。と話し掛けてごらん。仔馬がそれを受け入れてくれれば君たちの頬を触ってくれるよ」

 二人は無言でうなづくと仔馬の正面に立った。

「天馬さん、お友達になってください」
「天馬さん、お友達になって遊んでください」

 二人は祈るように手を合わせて、静かに語りかけていると、仔馬が鼻で二人の頬を撫で始めた。そんな二人の顔は花が咲いたように笑顔になって悠太さんに何かを確かめるように視線を送った。

「うん。二人とも気に入られたようだね。この仔たちはね。ちゃんと言葉を理解してるからたくさん話し掛けて、絆を深めて大切に育てるんだよ。そうすれば必ずこの仔たちは君たちの気持ちにちゃんと応えてくれるからね」
「はいなのー!」
「大切にお世話するのー!」

 ……え、天馬ってこんなに簡単にテイム出来るの………

「なに驚いてるんだ、透」
「いえ、こんなに簡単なのかと思いまして」
「そう話しただろ。お前の頭はニワトリか」
「ユウタ。あなた天馬に何かしたの」

 世界樹様がいつになく真剣な表情で悠太さんに歩み寄った。

「し、してませんよ、なにも」
「ならなんで、人には懐かない天馬がこうも簡単に懐くの」
「あの、世界樹様。ワルキューレと天馬は切っても切れない縁で固く結ばれています。私たちに契約など不要なのです」
「それはあなた達だけの話でしょう」
「えっとですねぇ。悠太様の権能と神格は覚えておりますか。精霊、神獣、聖獣を統べるもの。というものもありまして。即ち、悠太様がそう定めたのならば、その通りになる訳なのですよ」

 ロータさんの言葉に、あのサクヤまでもが絶句していた。

「まさかそれに私も含まれてはいませんよね」
「そんな訳ないですよ。世界樹様はどこのカテゴリーにも属していない。唯一無二の存在なのですから。というか。敢えて呼ぶとすれば、真なる地母神様ですよね。俺なんか全然足元にも及ばないですから」

 まだ何かを隠しているような感じで、かなり頬を引き攣らせながら悠太さんは答えていた。

「本来ならば神への昇華は僕が決めるんだよ。忘れたのかい」

 悠太さんの陰から真なる創造神様がひょっこり顔を出した。

「まさか私の知らぬ間にそんなことを」
「いやいや、そのトリガーは君自身の気持ちだよ。君が決めて、そう願ったのさ」
「けれど、私はまだ……」
「君はね。多くの人と接しすぎた。そしてその多くの人々から感謝と尊敬の念を強く持たれた。君は既に多くの人々から神として讃え崇められている存在なんだよ」

 その言葉を訊いて、サクヤは天を見上げた。

「そうですか。ならばその願いと想いに、私は真摯に応えなければなりませんね」
「ああ。頼んだよ」

 創造神様は穏やかに微笑みながら背伸びをしてサクヤの肩を優しく叩いた。

「あのそれ言っちゃって良かったんですか。時の御方に怒られませんか」

 その悠太さんの言葉に創造神様は一度肩を震わせた。そして、ゆっくりと悠太さんに振り向く。

「……だいじょうぶ、たぶん。バレなければもんだいない」
「まあ、世界樹様に自分自身で気付いたと口裏をあわせてもらえればいけるかと」
「だそうだ。僕のために、そうしてくれ」
「……はぁ、今回だけですよ。エルとエマに天馬を贈ってくれたことで聞かなかったことにします」

 創造神様は安心したように深く息を吐いて胸を撫で下ろしていた。
 神様の世界でも女性の方が強いのは僕等の世界と変わらないらしい。

「ところで悠太さん。誰でも天馬との絆を得られるのですか」
「んな訳あるか。俺が認めた、無垢で善良な人だけだよ」
「君が認めた、の間違いだろ」
「いいえ。それでは万が一俺が悪党に憧れて認めてしまい。そいつが天馬を好きにしたら大変じゃないですか。断じて違います。無垢で善良な人だけです。ついでに言わせてもらえれば魂が穢れていない者です」
「あなた。案外しっかり考えているのですね。意外でしたよ。ただのお人好しの戦鬪狂ではなくて安心しました」

 そんな辛辣なサクヤの言葉に悠太さんは項垂れて肩を落としていた。

「そりゃあそうだよ。なんて言ったって、ユウタくんは僕の愛し子だからね」

 創造神様はそう言いながら悠太さんの背を慰めるように軽く叩いている。その表情はとても誇らしげだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

処理中です...