湖畔の賢者

そらまめ

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五話

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 聖剣エクスカリバーを宝箱から得た後、一体どれくらいのスライムを倒したのだろうか。優に百本を超えるマナポーションは得ていると思う。そのお陰で魔法を使うオークが落とした魔法書もゲットしたので結果オーライだった。

「マッピングも完了したし。そろそろ帰ろう!」
「了解だよっ!」

 アルトリアがそう答えると皆でダンジョンから出て冒険者ギルドに向かった。

「きたよっ!」

 ご機嫌のアルトリアを先頭に冒険者ギルドに入っていくとカルナさんとライムさんがカウンターの中にいた。

「たくさんとったのー」
「マナポーションなのー」

 今となっては恒例のジャンピング抱っこで二人はライムさんに引っ付いた。

「マナポーションですって!」
「ふふふ、私たちは伝説の伝説を現実に変えたんだよ」

 アルトリアは自慢げにマナポーションをカウンターの上に綺麗に並べた。それに倣い、みんなも綺麗に並べて置いていった。その数なんと百五十本!

「いつの間にそんなに集めたんだ。どおりでオークの肉がたっぷりとある訳だ」
「途中で少し使ったから、ほんとはもっとあったんだけどね」

 そこまでして集めたかったのか。集める意味はあったのか。僕には分からなかった。

「私ならほぼ全回復するのですわ」
「私は七割といった感じですね」
「私は三割程度だな」
「私も同じくらいですかねぇ」
「え、私なんて一割くらいしか回復しないのに」

 そりゃあアルトリアは魔人だしマナの保有量は段違いに多いだろうよ。でも人間ならばほぼ全回復に近いのは凄いよな。というか、思っていたよりも回復量が良い。

「これもポーションと同じで預かりで良いんだよね」
「ええ。ギルドで保管しててください」
「まったく盗まれないように大きな金庫でも地下に設置するしかないわね」
「その代金は私たちの預かり分から賄ってください。いいでしょ、透」
「うん、構わないよ」

 僕等の保管庫兼銀行みたいなものだし、お金を出すのは当然のことだよね。

「あ、僕はゴン爺の所に行ってオークの肉を置いてきますね」

 僕はゴン爺のいる解体場に行ってオークの肉をゴン爺の監視のもと冷凍庫の中に次々と入れていった。

「これまた大量だな」
「うちの女性陣が張り切っちゃいまして」
「ああ、ここまで聞こえていたよ。今度はマナポーションか。もう驚きすぎて慣れちまったな」
「ほんとですね」

 そう言って二人で高笑いしていた。すると、ライムさんがトコトコとやってきた。

「トールさん。冒険者って募集してるのでしょうか」
「僕には分からないなぁ。そこら辺のことは村里連絡会に任せているからね」
「この感じなら、いずれ近いうちにエルフィアだけでは供給過多になってしまうと思います。販路を広げた方が良いのではありませんか」
「……それもそうか。なら、商会でも立ち上げようか。商会長はライムさんにお願いするよ。設立の資金は僕が預けているお金から好きなだけ使っていいからね」
「え、私が……ですか?」
「うん。ライムさんなら出来ると思うしね」

 ライムさんはゴン爺の方を見て意見を求めているようだった。

「やってみればいいじゃねぇか。こんなチャンスは二度と来ないかもしれないぞ」
「はい。お爺ちゃん、私がんばってみます。トールさん、よろしくお願いします!」

 僕はこの時、ライムさんがあんなに商才があるとは思ってもいなかった。
 トールライム商会。その名が大陸を席巻するとはこの時一ミリも僕は考えてはいなかったのだった。


 そして家に戻り、久々に一人の時間を部屋で楽しんでいた。一周したら二日空ける。これが僕と彼女たちの約束……

「旦那様、よろしくお願いします」

 毅然と振る舞おうとしているがレティシアの緊張が僕にも伝わってくるくらいに彼女は緊張していた。

 ああ、そうか。昨日のアリアで最後だと思っていたけど。すっかり忘れていた。

「別に無理する必要はないからね。僕はレティシアの気持ちを優先して欲しいと思ってるからさ。それと僕は今、魔法陣の研究をしているから、ゆっくり寛いで待っててもいいし。先に寝てもいいからね」

 僕は今心血注いで開発中のフライモービル。その浮遊魔法陣と風の力を利用した推進魔法陣の開発に勤しんでいた。既にドローン的なものならば実験では成功している。けれど魔石の消費量がハンパないのだ。なので重力系の浮遊魔法陣と風を利用した推進魔法陣。これは既に完成しているのだが浮遊魔法陣で壁にぶち当たっていた。

「旦那様は何を作っているのですか」

 なんかとてもいい匂いがした。

「あ、これだよ。遊び用なんだけどね」

 僕は羊皮紙に描いたイメージ画を見せた。

「これに乗って地面から軽く浮いて走るんだよ」

 どうやらイメージできないみたいだ。だから二人でこっそり家を出た。もちろん、転移魔法で。

「だ、旦那様」
「これで驚いていたら、もっと驚くよ」

 僕は最初に乗っていた車を空間から出した。

「な、これは一体……」
「僕の世界ではこの自動車に乗って移動するんだ。ほら、これはここにタイヤ。丸い車輪がついてるだろ。これがエンジンというもので車輪が回って、馬なしに走ることが出来るんだ」

 僕は助手席のドアを開けてレティシアをシート座らせると僕も反対側に回り込んで運転席に座った。

「じゃあ車を走らせるよ」

 エンジンを始動してアクセルを踏んだ。一応、驚かせ過ぎないようにスピードは控えめで。というより雪が少し積もっているのでスピードが出せないが正解だった。

「は、走ってます旦那様!」
「すごいでしょ。雪が無ければもっとスピードを上げられるんだけどね」
「じゅ、充分速いです!」

 なんかこの感じ新鮮だな。
 こうして僕とレティシアは夜のドライブデートを楽しんだのだった。
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