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第一章 未知なる世界でスローライフを!

秘されし地下迷宮

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「うわあっ!」
「エルルーン様、これでは、あっ!」

 モンスターの大群に私達は飲み込まれる様に押し潰される。
 既に公国の騎士達の半数が出会い頭の戦闘で呆気なく倒れ、私達神殿勢も奇跡的に死者を出してはいないが満身創痍といった状況だった。

「エルルーンが行こうなんて言うから!」
「言ったのはあなたではありませんか、カーラ。私のせいにしないでください!」
「と、とにかく撤退を急がないと」

 戦いながら言い争う私とカーラをミストが嗜める。

 ダンジョンの守護者とも呼ばれるミノタウロスの大群から戦えなくなった仲間達を必死に逃すが徐々にそれも難しくなってきた。

「だいたいなんでこんなに群れてるのよ。色々とおかし過ぎでしょ!」
「決まってるでしょう。あの後ろの悪魔のせいでしょうが!」

 ミストの文句にカーラがつっこんでいるし、まだこの二人には余裕がありそう。

「まだ動ける者は私達とここで。それ以外の者は全速力で離脱なさい!」
「じゃあ、私は離脱するから」

 逃げようとするカーラの後ろ襟を掴んで引き留めた。

「あなたはここで私と戦うのよ、カーラ」
「は、はい! であります!」
「半時時間が稼げればいいの。撤退はそれからよ」

 私は右手に持つ槍を両手で持ち変え槍を何度か大きく振るって構え直した。

「いくわよ! フレイヤ神殿神官の意地を見せるわよ!」

 マナを纏わせた槍でミノタウロスを横薙にし間近にいたミノタウロスを一掃する。
そこに空いた空間にカーラとミストが飛び込み、私と同じようにミノタウロスを吹き飛ばしていく。その後に続くように他の神官達も次々とミノタウロスを倒していった。

「前方からまた来ます!」

 もう近くには公国騎士は居ない。ならば。

「上位魔法の使用を許可します。なんとしてでも味方が撤退する時を稼いで!」

 槍を持って近接戦闘していた神官達は三人一組に横に並ぶと縦に列をつくる。
 そして両手を前に突き出し、自分達の最大の攻撃魔法をミノタウロスに向けて放つと後方へ下がり攻撃手を替わっていく。

「そのまま奴等を近づけずに少しづつ撤退します!」

 私達から繰り出される波状攻撃によってミノタウロス達の勢いが目に見えて弱まっていく。
 このまま時間を稼ぎ、逃げ切る。
そう私は強く決意し心を奮い立たせた。


 その後なんとかマクミリア城の地下迷宮入り口まで逃げ切った。

「ここまでは追っては来ないようですね。けれど念の為に入り口を閉じて警戒しましょう」

 援軍に駆けつけたアルヴィトが私達を手当てしながらそう指示をした。

「アルヴィト、遅過ぎですよ」
「申し訳ありません。これでも急いだのですよ」

 先に離脱した負傷者の手当てもあったのでしょうから仕方がありませんか。
 私とカーラとミストは肩を並べ三人でもたれ掛かるように座って目を閉じた。

「だめ。もう限界。ねる」
「だね、カーラ。私も無理」
「二人ともおつかれさん」

 私達はそのまま深い眠りについた。


 ◇


 私がオースティン殿に会いに元聖教国の城に行くと何やら城内が騒々しい。
近くに居た神官を捕まえて話を聴くことにした。

 マクミリアの城に地下迷宮。
それに探索に出た者達が悪魔と遭遇。
悪魔が操るミノタウロスの群れと戦闘となり多くの犠牲者と負傷者をだし撤退ですか。


「エルルーンが指揮を執っていてこの結果。誰が執っても結果は変わらなかったでしょうね」

 向かいの席に座るオースティン殿に私はそう見解を述べた。

「はい、私もそう思います」
「それで援軍には誰が」
「あの誠に言いにくいのですが。その、公王が自ら援軍に」

 まああの戦鬪狂ならそうするでしょうね。あれはガリアの者達並みの戦闘馬鹿ですから。
 まあそのせいで十年前の内乱が公国まで飛び火したのですけど。
 しかしここまで考えなしの阿呆だと、いっそのこと王子に国を乗っ取らせた方がいいかもしれませんね。

「オースティン殿には同情致します。政務を放り出して己の欲求を満たす愚か者を担がないといけない、あなた様に」
「もう諦めております。が、なにもガリアが使者を送りつけてこちらに抗議している最中に行かなくても。とは思います」
「ガリアが抗議、ですか」
「はい。聖教国丸々を私達が手に入れるのは面白くないようです。領土を割譲しろと言ってきております。その事に関しては神殿が認めるならばなんら問題はありません。本音を言えば神殿が認めなくても割譲したいのが山々です」

 確かに今の公国に新たな広大な領土を治める余裕なんてありませんからね。
 最近炙り出された公国中央の文官達や貴族連中の腐敗は酷いものでしたし、それを放置していた公王にも呆れましたが。
 最早、公王に国を統べること自体が出来ないと見るべきなのでしょうね。

「私達は国の政には関与しませんし、興味もありません。どこの国と国が争おうと同じこと。割譲の件は好きに判断なされればいい。
 けれど、最早あの公王には国を統べる資格がない。とだけ一言申しておきましょう」
「ですが……」

 あの内乱に出しゃ張る為に幼馴染でもあるオースティン殿を伯爵位にまで下げ、イーストゲートへ追いやった愚か者を未だ彼が支えていることが理解できない。

「また民が苦しむことのないよう選択すべきです。私からはそれだけです。
 話は変わりますが。私は近いうちに大神官の任を辞し、シーフレアで隠居します」

「え、えええ!」

 私の話を聞いて彼は最悪だ、最悪だと何度も呟きながら項垂れていた。

「私も隠居したくなってきました」
「そうですか。ならば次世代へ引き継げば良いのではありませんか。あなたと公王共に」

 そう告げて私はシーフレアに戻った。
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