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第二章 新生活、はじめるよ!

厚き信仰

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 勉強しに神殿に行く子供達を見送った後、俺とリィーナはスクルドの転移魔法でエイルの居る懲罰棟へ向かった。


「ねえ、なんでここは大神殿と離れてるの」
「それは罪を犯した者が結界に阻まれ大神殿に入ることが出来ないからです」
「ほう、さすが女神様のやる事は一々スケールがでかいな」

 しかし懲罰棟で自ら審問官達の世話ねぇ。利用されたのに。お人好しなのか、あいつは。
 そんな事を思いながらスクルドに案内されて厳重に警備された懲罰棟の中に入った。

「なあ、神殿騎士って男もいるんだな」
「はい。神官は女性しかなれませんが神殿騎士は男性でもなれます」
「そっか。でもなんで女性しか神官になれないの」
「やはり女神様のお世話をするには同じ女性でないと色々と不都合がありますから」

 なるほどな。そりゃあ、女神様の着替えやお風呂の世話を男がするわけにはいかないよな。

「ねえ、レンジ。なんで女神様のお世話が着替えやお風呂に限定されるのさ。女神様に対してエッチなこと考えてないよね」
「なんだよ、それ。勝手に限定したとか、エッチなこととか決めつけんな」

 まったくリィーナには困ったもんだ。変に誤解されちまうだろうが。

 そんないつもの馬鹿馬鹿しいやり取りをしながら個室に案内された。

「こ、この度はわざわざ私如きの為に、」
「あ、そんなに畏まらなくていいよ」

 あれ、エイルの魂の色が……

「ずいぶんと綺麗になったね。うん、話を聞くまでもないね」

 そう言ってリィーナはエイルの額に手をかざした。

「勝手に決めつけて叩いたりしてごめんね」
「いえ。何も気付けなかった私が全て悪いのです。それにやり方も間違って、」
「しょうがないよ。僕もスーたん達から話を聞いたけど、しょうがないと思うよ」

 うつむく彼女の言葉を遮り、リィーナが優しく語りかけていた。

「そんな君が二度と誰かの悪意に利用されないように僕が力を分けてあげる」

 エイルの額にかざした手が黄金の輝きを放つ。
俺よりきれいな輝きで少しばかり嫉妬しそうだ。

「使い方は後でスーたんにでも聞けばいいよ。それとこれからは気軽に僕に会いにシーフレアまで遊びにおいで。
 本当に勝手に決めつけて叩いたりしてごめんね」

 エイルを抱きしめながらリィーナは何度も謝っていた。
 そんなリィーナに当てられたのかエイルも大粒の涙を溢しながら声に出して泣いていた。リィーナと同じように何度も何度も謝りながら。

「一件落着だな」

 そう小声でスクルドに言うと彼女は嬉しそうにうなづいた。


 ◇


「うはっ、これはすげえなぁ」

 スクルドとエイルに案内されて大神殿まで来た。
 その大神殿はというと、大きな神殿を囲むように巨大な円形の石柱が何本も並んでいる。
石柱の上にはペガサスに跨がる女性騎士、たぶんワルキューレの彫刻が施されている。それに神殿の上部にも何かあるが此処からは確認出来なかった。

「よし、リィーナ。上から眺めよう!」

 二人で手を繋ぎながら瞬間移動した。

「ねえ、あれって。猫の戦車だよね。ということはあれに乗っているのが!」
「ああ、女神フレイヤ様だな」

 それは今にも動きだしそうなほど躍動感のある細部まで見事に表現した素晴らしい彫刻だった。

「そっか、女神様の行進だ」

 女神様を中心にしてワルキューレ達が女神様を護るように並んでいる。

「すごいなぁ。これが大昔からあるんだろ」
「圧巻だね。スケールが違うよ」

 俺達は上からしばらく無言で眺めた後、下に降りた。
 そして大神殿の中に入ると人々の行列を目にする。

「あれは病気や怪我を治すために並んでいるのです。無料で治療を行いますので皆安心して来られるのですよ」

 無料かあ。すごいな、本当に人々の為に身を粉にして奉仕しているんだな。


「一般公開されていませんがこちらが女神様の寝所です」

 女神様の部屋としては質素であまり広くない所だった。

「お花以外は何も飾り気のない部屋だね」
「はい。そう女神様がお望みになりましたので」
「同じような寝所が第二、第三神殿にもあります」

 案外飾らない方なんだな。
 なんか益々俺の信仰が上がりそうだ。

「きれいにしてるんだね。なんか、いつ女神様が帰ってきてもいいようにさ」
「はい。こうして私達は女神様のお帰りを願うことなく、ただ静かに待っているのです」

 健気だ。なんて献身的なのだろうか。
 その姿に涙が溢れそうだ。

 ん、あれはなんだ。

 女神様のベッド脇の壁に何かが小さく彫られている。
 近づいて確かめるとそれが文字だとわかった。

「あなたを想い、今夜も目を閉じるの。その想いが、きっとあなたと夢の中で」

 書きかけで寝たのかな。
 なんかかわいいな。

「え、レンジ様。それを読めたのですか」
「ああ。まさかスクルド達は読めないのか。リィーナは」
「僕にも読めない、ね」
「これは神語と云われる文字です。この世界で読めたのはレンジ様だけです」
「スクルド様。まさかロータの神語解読が正しかったのでしょうか」
「ええ。少しニュアンスが違いますが概ね合っていますね」

 なんで俺だけが分かるんだ。
 いや、これは俺の厚き信仰の賜物だろう。

「レンジ、ずるいよ。なんで僕を仲間外れにするのさ!」
「いや、仲間外れって。それなんか違くね」
「違くないよ。私も女神様の大聖女なんだよ。贔屓だよ、レンジばっかり贔屓してずるいよ!」

 贔屓って言われてもな。
そんなの女神様に聞いてくれよ。

「たぶん俺とリィーナの信仰の厚さの違いだな。俺の信仰は限界を超えて振り切ってるからな」
「なっ……」

 ほらな、きっとその違いだよ。
 まだまだだな、リィーナもよ。
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