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第二章 新生活、はじめるよ!
誤算
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「あぁあ、だからあれほど上手くはいかないって言ったのに」
「黙らっしゃい。ピンチの時に颯爽と現れて助けるからこそ、凄く感謝されるんじゃない。どうでもいい時に現れたって尊敬されないでしょうが」
くっ、こんなはずではなかったのに。
私もあの和の中であの子と……
「しかし、あのシヴァとの勝負は本当に見事だったね。しかも一太刀で早々に勝負を決めるなんて思わなかった」
「はぁああ。あなた目がどんぐりなの。相手と対峙して交差するまでをちゃんと見てなかったの。あの子はね。相手に真っ直ぐ間合いを詰めたようで実は体一つ分にも満たない場所へ飛び込んでみせて相手の振り下ろしを体ごと僅かに流させるよう誘導したのよ。そして槍が振るわれた時に反対側へ一気に飛び込んで斬り払った。
あれじゃ、たとえ誰であっても躱わせないわね」
どんな鍛錬したらあんなに機を見て素早く反対側へ踏み込んで剣を振るえるの。しかもシヴァの胴を真っ二つに斬り払うほどの一撃を。
「み、見てたさ。僕は分かってたよ」
「嘘。あなた顔におもいっきり出てるわよ」
まったく変なところで見栄を張らなくてもいいのに。
あぁああ、あの子にチヤホヤされるはずがこんな事になるなんて……
「痛っ!」
思わず八つ当たりをしてしまった。
彼に特大の肘鉄を。
「夫なんだから妻の鬱憤を受け止める義務があるの。感謝なさい」
「なぁ、それってあまりにも理不尽過ぎやしないかい」
「理不尽。そうね。あなたにとってはそうかもね。けれど、私にとっては正当なことよ」
隣で項垂れているへたれにお酒を注いであげた。だふんこれで気を取り直すはず。
「ありがとう。やっぱりローゼンちゃんは優しいね」
ちょろい。本当にちょろい旦那様だわ。
まぁ、そこがかわいいところなんだけど。
「次こそ慕われる登場をしないとね」
「え、まだ諦めてないのかい」
「諦めるわけないじゃない!」
彼にもう一度、強烈な肘鉄をくらわせた。
◇
散っていった者達に鎮魂歌を捧げ弔う。
多くの犠牲を出してしまったことに胸が締め付けられる。
その中にはシーフレアで親しく話していた神官達もいて、彼女達の笑顔が、その共に過ごした日常が脳裏に浮かぶ。
泣いてはいけない。
まだ終わってはいないのだか。
「レンジ。勝っても、こんなに切ないのは何故なのかな」
早くレンジを助けに行きたい。
けれど。これ以上誰かを失うのも、もう嫌だよ。
「私はどうしたいのかな」
見張りの者以外が寝静まる真夜中に誰にも知られないように天幕から一人出ていく。向かう先はあの冥界へ繋がる門だ。
先の激しい戦闘で大穴と化した洞穴の入口から先を目指す。中には敵の姿はない。
「敵の姿は無しか」
そのまま一人慎重に冥界への門を目指し歩いた。
前回とは違い、空気が冷たい。
それは一人だという心細さからなのか。本当に空気が冷たいのか。どちらなのかが判断できない。
青薔薇の剣を握る左手にじんわりと汗をかく。
「おばけなんか苦手じゃないのに、変に薄気味悪くて嫌になる」
つい、声にでる。
壁や天井が薄暗く灯る様が今は不気味に感じる。
「リィ、ひとりはだめ」
「ひゃっあ!」
背筋が凍ったように伸びて、軽く跳ねあがる。
恐る恐る振り返るとユキナに乗ったクオンがそこにいた。
「驚かさないでよ、もう」
「ひとりでいく、リィがわるい」
「そうですよ。そうやっていつも一人で済ませようとするのは悪い癖だと思います」
二人に責められても反論できなかった。
「それに、まだハデスや悪魔の軍勢が残っています。いくらリィーナ様といえど一人では力尽きてしまいますよ」
ドラゴン姿でそう気品たっぷりに言われても困惑する。せめてそういう事は人の姿で話して。
「ところで、なぜそんなに怯えていたのですか」
「怯えてないから!」
「ふーん。そうですか」
憎らしいほどドラゴン姿でも分かる目の表情だ。
全然私を信じていない。確信を持って疑いの目を向けている。
「そうです! というか、なんで気付いたのよ」
「そりゃあ、リィーナ様のやる事、考える事なんて単純ですから。いつもだいたい同じですし」
なにぃー!
あたしの何を知ってるっていうのさ!
「リィ、いつもきまってるってアンジュがおしえてくれた」
アンジュかぁ。あのスケベ妖精め、余計なことを!
「あなた様が一人で死地に向かうのは治りようのない悪癖ですからね。本当に勘弁して欲しいですね」
「死地って。まるでレンジを助けるために死にに行くような縁起の悪いことは言わないで」
「実際一人で向かわれていたらその可能性は大ですよ。いくらあなた様でも無限にマナが続くわけではありませんし。しかも冥界という不利な状況ですからね。おそらく死にます」
遠慮もせずに随分とはっきり言うなあ。なんかムカつく。
「私がレンジを残して死ぬわけないじゃん。ばかなの」
「毎回、大好きな方を残して先にいくのにですか。全然説得力ありませんね」
な、なんで毎回なんて言えるのよ。
あなたが私の何を知ってるってゆうのよ!
「シヴァとの戦いで少しは思い出したかと思いましたが、私の気のせいだったようですね」
「あの時は誰かに背を押されているような感じがしたし、所々で覚えていないこともあるし、全然私にもわかんないんだよ!」
まったく勝手に決めつけてさ。
ほんと失礼なドラゴンだよ。レンジにはぶりっ子してるくせに、ふんだ。
性悪ドラゴンに付き合ってたらいつまで経っても辿り着けない。
そう思い、私はまた慎重に歩を進め始めた。
「黙らっしゃい。ピンチの時に颯爽と現れて助けるからこそ、凄く感謝されるんじゃない。どうでもいい時に現れたって尊敬されないでしょうが」
くっ、こんなはずではなかったのに。
私もあの和の中であの子と……
「しかし、あのシヴァとの勝負は本当に見事だったね。しかも一太刀で早々に勝負を決めるなんて思わなかった」
「はぁああ。あなた目がどんぐりなの。相手と対峙して交差するまでをちゃんと見てなかったの。あの子はね。相手に真っ直ぐ間合いを詰めたようで実は体一つ分にも満たない場所へ飛び込んでみせて相手の振り下ろしを体ごと僅かに流させるよう誘導したのよ。そして槍が振るわれた時に反対側へ一気に飛び込んで斬り払った。
あれじゃ、たとえ誰であっても躱わせないわね」
どんな鍛錬したらあんなに機を見て素早く反対側へ踏み込んで剣を振るえるの。しかもシヴァの胴を真っ二つに斬り払うほどの一撃を。
「み、見てたさ。僕は分かってたよ」
「嘘。あなた顔におもいっきり出てるわよ」
まったく変なところで見栄を張らなくてもいいのに。
あぁああ、あの子にチヤホヤされるはずがこんな事になるなんて……
「痛っ!」
思わず八つ当たりをしてしまった。
彼に特大の肘鉄を。
「夫なんだから妻の鬱憤を受け止める義務があるの。感謝なさい」
「なぁ、それってあまりにも理不尽過ぎやしないかい」
「理不尽。そうね。あなたにとってはそうかもね。けれど、私にとっては正当なことよ」
隣で項垂れているへたれにお酒を注いであげた。だふんこれで気を取り直すはず。
「ありがとう。やっぱりローゼンちゃんは優しいね」
ちょろい。本当にちょろい旦那様だわ。
まぁ、そこがかわいいところなんだけど。
「次こそ慕われる登場をしないとね」
「え、まだ諦めてないのかい」
「諦めるわけないじゃない!」
彼にもう一度、強烈な肘鉄をくらわせた。
◇
散っていった者達に鎮魂歌を捧げ弔う。
多くの犠牲を出してしまったことに胸が締め付けられる。
その中にはシーフレアで親しく話していた神官達もいて、彼女達の笑顔が、その共に過ごした日常が脳裏に浮かぶ。
泣いてはいけない。
まだ終わってはいないのだか。
「レンジ。勝っても、こんなに切ないのは何故なのかな」
早くレンジを助けに行きたい。
けれど。これ以上誰かを失うのも、もう嫌だよ。
「私はどうしたいのかな」
見張りの者以外が寝静まる真夜中に誰にも知られないように天幕から一人出ていく。向かう先はあの冥界へ繋がる門だ。
先の激しい戦闘で大穴と化した洞穴の入口から先を目指す。中には敵の姿はない。
「敵の姿は無しか」
そのまま一人慎重に冥界への門を目指し歩いた。
前回とは違い、空気が冷たい。
それは一人だという心細さからなのか。本当に空気が冷たいのか。どちらなのかが判断できない。
青薔薇の剣を握る左手にじんわりと汗をかく。
「おばけなんか苦手じゃないのに、変に薄気味悪くて嫌になる」
つい、声にでる。
壁や天井が薄暗く灯る様が今は不気味に感じる。
「リィ、ひとりはだめ」
「ひゃっあ!」
背筋が凍ったように伸びて、軽く跳ねあがる。
恐る恐る振り返るとユキナに乗ったクオンがそこにいた。
「驚かさないでよ、もう」
「ひとりでいく、リィがわるい」
「そうですよ。そうやっていつも一人で済ませようとするのは悪い癖だと思います」
二人に責められても反論できなかった。
「それに、まだハデスや悪魔の軍勢が残っています。いくらリィーナ様といえど一人では力尽きてしまいますよ」
ドラゴン姿でそう気品たっぷりに言われても困惑する。せめてそういう事は人の姿で話して。
「ところで、なぜそんなに怯えていたのですか」
「怯えてないから!」
「ふーん。そうですか」
憎らしいほどドラゴン姿でも分かる目の表情だ。
全然私を信じていない。確信を持って疑いの目を向けている。
「そうです! というか、なんで気付いたのよ」
「そりゃあ、リィーナ様のやる事、考える事なんて単純ですから。いつもだいたい同じですし」
なにぃー!
あたしの何を知ってるっていうのさ!
「リィ、いつもきまってるってアンジュがおしえてくれた」
アンジュかぁ。あのスケベ妖精め、余計なことを!
「あなた様が一人で死地に向かうのは治りようのない悪癖ですからね。本当に勘弁して欲しいですね」
「死地って。まるでレンジを助けるために死にに行くような縁起の悪いことは言わないで」
「実際一人で向かわれていたらその可能性は大ですよ。いくらあなた様でも無限にマナが続くわけではありませんし。しかも冥界という不利な状況ですからね。おそらく死にます」
遠慮もせずに随分とはっきり言うなあ。なんかムカつく。
「私がレンジを残して死ぬわけないじゃん。ばかなの」
「毎回、大好きな方を残して先にいくのにですか。全然説得力ありませんね」
な、なんで毎回なんて言えるのよ。
あなたが私の何を知ってるってゆうのよ!
「シヴァとの戦いで少しは思い出したかと思いましたが、私の気のせいだったようですね」
「あの時は誰かに背を押されているような感じがしたし、所々で覚えていないこともあるし、全然私にもわかんないんだよ!」
まったく勝手に決めつけてさ。
ほんと失礼なドラゴンだよ。レンジにはぶりっ子してるくせに、ふんだ。
性悪ドラゴンに付き合ってたらいつまで経っても辿り着けない。
そう思い、私はまた慎重に歩を進め始めた。
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おかえりなさい!(≧▽≦)
のんびりと読ませてもらってごめんなさい。・゚・(ノ∀`)・゚・。
これからも楽しみにお待ちしてます(๑•̀ㅂ•́)و✧
マクスウェルさん、いつも暖かいコメントをありがとうございます。
私生活がなにかと忙しくて書けてませんが期待に応えられるよう頑張ります。
本当にありがとうございます
「チュートリアルなのかな」の前半の伏線と、後半の不穏な空気が今後の展開をワクワクさせますね(≧▽≦)
多忙の為一日一話ずつくらいしかお伺いできませんが、ごめんなさいですm(__)m
応援しています!
マクスウェルの黒仔猫様、コメントと応援ありがとうございます。
私も楽しんでいただけるよう頑張ります!