未知なる世界で新たな冒険(スローライフ)を始めませんか?

そらまめ

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第三章 世界は美しいと証明しろ!

シーフレア牛発表会(ニ)

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 ロータの周りには沢山の人だかり。そしてその群衆の熱狂ぶりに唖然とする。

「新作の女神様像ですよ! こちらの五体限定の新作は金貨ニ枚以上賭けた方にプレゼントします!」

 そんなロータの呼び水に地鳴りを伴った住民達の絶叫が響き渡る。

「あいつ、俺の力作を……」

 あの東屋で女神様が美しく儚げに海を眺める姿をジオラマ風に模した秘蔵の力作を……しかも誰にも内緒で隠し持って毎晩密かに祈りを捧げて眺めていた大切なお宝を!

「あれを取りやめさせるのは、もう無理だね」
「だね。あそこまで熱狂してるのに止めたら暴動どころじゃ済まされないよね」
「あれを私にも寄越しなさい。私にあれを捧げれば、今後は多少扱いを優しくしてあげましょう」

 リィーナと師匠はあきれ顔。そしてシル様に限っては真剣な眼差しで俺に詰め寄っておねだりしてくる。そのシル様の迫力に秘蔵中の秘蔵、同じタイプの特別製のプラチナ女神様像をマジック袋から取り出して手渡した。
 その像の発する高貴さと美しさ。そしてその厳かさには、さすがのシル様も目も心も釘づけになっていた。

「これは紛うなき愛し子そのもの。そしてその彼女の魅力の全てを表した唯一無二、天下一品の最高作」

 ふふふ、そうだろう。そうでしょう。あの時に実際に目にした女神様を完璧にトレースし、妄想と理想を象った俺の最高傑作なのだから、その反応も当然。

「レンジ。なんかとても悔しくなるのは気のせいかな。その女神様像を見てると、とても負けた気になるよっ!」

 リィーナがそう言って俺の首に抱きついてジタバタと暴れだした。
 まあ、いつものことなのでほっておく。

「君、何気に多才だよね」
「まあ、趣味の範疇ですけど」
「あなたを見直しました。今後も良くできた作品を私に捧げることを許します。それと甘いチーズも」

 えっ、甘いチーズもですか。
 あれって作るの大変だったんだよなぁ。
 一種類じゃ満足してくれないし、数もたくさん作らないと機嫌悪くなるし。本当に面倒なんだけど。

「いや、待てよ。牧場で甘いチーズを作って大々的に売り出したら大儲け出来るのでは」
「それいいね、レンジ! どうせならそれに合うエールも売っちゃおうよ!」
「いいな、それ! リィーナ、ナイスアイディア!」

 俺とリィーナの目が金貨に変わり、そして自然と卑しい笑みが溢れる。

「よし、明日からそのプロジェクトをスタートさせよう。開発と製造は俺に任せろ。リィーナは販売と広報を頼む。二人で大儲けさせてもらおうぜ、ウッシッシ」
「任せて。一万年に一人のスーパー美少女アイドルの手にかかれば容易いもの。大ヒット間違いなしだよ、シッシッシ」

 悪の越後屋のような笑い声が小さく漏れる。
 そんな欲まみれの二人を師匠夫妻は距離を取ってどん引きしていた。

「あの、そろそろ始めてもらえませんか」

 空気の読めないロータが賭け試合の催促にきた。妙にムカついたのでロータの口の中に試作品のゲーム用激辛カラシチーズをぶち込んで、吐き出さないように手で口を塞いでやった。

「むっ、むっむっ、かはい、かはいれす!」

 ロータは目から大粒の涙を流し、必死に吐き出そうとするが、そんなのは絶対に許さない。

「食べ物を粗末にすることは断じて許さん! 俺の秘蔵のコレクションを勝手に持ち出した罰だ、甘んじて受けろ!」

 必死に抵抗して暴れていたロータは辛さに耐えきれなくなり遂にはピタッと動きを止めて両目から涙を流しながら気絶した。

「君、彼女に対してだけはホント鬼だね」
「まあ、本当に気の合う間柄なのでしょう」

 師匠夫妻の辛辣な言葉に耳を塞ぎながらロータを優しく地面に寝かせて、俺は外套を脱いで彼女に掛けた。

 そして周りを見渡せば、いつの間にか住人達が遠目からぐるりと囲っている。皆、その目と表情には期待感がはっきりと表れていた。
 それを察した俺と師匠は互いに距離を取って試合開始の合図を待つ。

「見せ物だからね。瞬殺はしないから安心しなよ」
「手を抜きすぎて油断していると、痛い目を見ますよ」

 互いに片方の口角の端をあげた時、ヘリヤから試合開始を告げる合図が叫ばれた。

 姿勢を低くして素早く走り、師匠の間合いに飛び込む。そして目をくらませるように瞬間転移で師匠の背後にまわり、首筋目掛けて回し蹴りを繰り出す。しかしそれは師匠に読まれていて、逆に屈んで避けられてから師匠は両手を地について逆立ちするように回り、俺の横っ面に蹴りを入れた。
 その蹴りで横に大きく蹴飛ばされて俺は地面を転がり、片膝をついて追撃に備えた。が、師匠は追撃してこなかった。

「くっ、痛え。ほんと、強くて嫌になる」
「上位の者に瞬間転移は悪手だよ。そう教えてたはずだよね」
「ええ、素早く動く方が大事だと」

 口の中が切れて血が口の端から溢れる。それを腕で乱暴に拭いながら、俺は立ち上がった。

「なら、僕を落胆させずに楽しませてよ」

 女神様が二人掛かりでも一撃も当てられなかった相手。しかも時の大神様でさえも。そんな強大な相手を目の前にして心が躍る。届かせたいと胸が熱くなって鼓動が高鳴る。

 先程と同じように姿勢を低くして師匠の間合いに飛び込む。今度は上下左右に素早く動き、拳と蹴りを素早く連続で繰り出す。けれどその攻撃は擦りもしない。悠々と師匠に躱されては、逆に隙をつかれて弄ばれるように軽く頬を叩かれたり、額にデコピンをされた。

「もっとだ、もっと速く!」

 肉体の限界を超えて身体が悲鳴をあげる。それでも必死に攻撃を繰り出す。それでも、師匠には届かない。

「限界の、限界のその先。そこに至らなければ君に勝機は無い」

 俺と師匠の素早い攻防に、周りの住人達はただ静かに見守っていた。

「くっ、まだまだ!」

 気合いを入れて叫び、さらに速度を上げる。
 限界を遥かに超えた動きに自動回復が追いつかない。全身の筋肉が切れて攻撃する度に激しい痛みが全身を襲う。それでも気力だけは折れずに、届かせたいと強く思い願い、必死に拳を、蹴りを繰り出し続けた。

「うん。取り敢えず一段目はクリアかな」

 師匠は喜ぶように笑顔を見せた、その刹那。俺は鳩尾に強烈な拳を突き上げられた。
 その威力の凄まじさに血を口から吹き出す。

「これ以上続けたら、また君は何日か寝込むことになるからね。だから、今回はこれでお終い」

 拳を鳩尾に当てられたまま、くの字に折れた俺の体を師匠は優しく受け止めてくれた。

「勝者、ジル様!」

 ヘリヤのその声に周りにいた住人達から大歓声が湧き起こり、師匠を称賛する声が大きく響き渡った。

 悔しくて、悔しくて、自然と涙が零れ落ちる。

「心は弱くなっても、その負けず嫌いさは失われていなくて安心したよ。君はまだまだ強くなる」

 温かみのある柔らかな笑みを浮かべて師匠は強くなると言ってくれた。
 その言葉に勇気をもらい、また勝手に涙が零れる。

「必ず、強くなって見せます」
「うん、期待しているよ」

 そして住民達の大歓声の中、師匠は俺を地面に寝かせて回復の魔法を施してくれた。
 その暖かな魔法の心地良さに、俺はゆっくりと目蓋を閉じた。
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