邪神様に恋をして

そらまめ

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邂逅

邪神様、この出逢いに感謝します

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「悠太、もう少しこの近辺を調べてから帰ろうと思います」

 軽めの朝食を取った後、ヒルデからそう言われた。

「なにか気になる事でもあるの。まあ別にいいけどさ」

 おそらくヒルデは何かを隠している。根拠のない、ただの勘だが。

「あの森を抜けた所に村があります。そこが無事か確認したいのです」
「そっか。でも風の公国の村なのに、なんでそこまでするのって聞くのは野暮だよな。俺はヒルデに任せるよ」

 彼女はその答えに満足気に微笑み頷いた。

「なに朝から見つめ合って良い感じを醸し出してるんですか。私も混ぜて下さいよ、私も!」

 エイルの横槍が入った。最近特にしつこい。よっぽど仲間外れが嫌らしい。してる覚えは全くないので被害妄想に囚われているのだろう。エイルの第一印象からは最近かなり離れ掛けていて、ただのお笑いキャラと化している。

「エイル。あんた、ユータに振られたのにしつこいのよ。さっさと諦めなさいよね」
「はあぁ、いつ誰が振られたというのですか! 知ってますよ、私。クロノアが小さいままでいる理由を。それをバラされたら悠太さんにどう思われますかね、クロノア」

 クロノアをバカにしたように笑って煽った。とたんにクロノアの顔が赤くなる。

「あんた、私にケンカ売ってるの! それ以上口を開いたら、本気で魂ごと滅しますよ」

 肩を震わせ俯いたまま、振り上げた右手にあの灰色に輝く球体が浮び上がった。

「はん、そんな本調子でもないものが、私に通用すると思ってるんですか。脅しにもなりませんよ、そんな児戯!」

 クロノアが右手を振り下ろそうとした瞬間、ヒルデが二人の頭を叩いて止めた。

「戯れ合うのもいい加減にしなさい。ほら、さっさと片付けて移動しますよ」

 ワルキューレ第一席は伊達ではない。威圧感がハンパじゃなかった。
 そして威圧された二人は大人しくそれに従った。



 しばらく森の中を歩いていると突然なにかを察知した。いわゆるビビビってやつだ。
 三人から離れ勘を頼りにその場所へ向かった。

 向かった木の根元に小さいものが丸まっている。先っぽだけが銀色のもふもふしたものが、何かを隠すように小さく丸まっていた。

 俺はしゃがんで、その丸まっているものを覗き込むと、掠れる声でシクシクと泣いて小さく震えていた。

「もう大丈夫、安心して」

 俺は優しく声を掛けた。
 小さく丸まっているものは、恐るおそる顔を上げると怯えるように俺を見た。
 その面差しは幼くも高貴さを感じるが、美しいというよりはかわいいという方が合っている。また、紅色の瞳、白に限りなく近い銀の髪から耳、狐の耳がひょっこりと出ていた。

 きたぁー! 
 狐耳の絶世の幼女っ!
 俺は胸の高鳴りを抑え、優しく、もう一度声を掛けた。

「もう大丈夫だよ。迷子にでもなったのなら、俺が送っていくから安心して。もう大丈夫だから」

 狐耳の幼女に手を差し伸べた。
 幼女は震える手を伸ばしかけては一度引いて俯き、意を決したように顔を上げると、また震える手をゆっくり伸ばして俺の手を取った。

「もう安心して大丈夫。迷子になったのかい、おうちまで送るよ」

 そう言って、優しく左腕に乗せて抱き上げると、幼女は俺の首に両腕を回し抱きついた。

「俺は悠太、君の名前も教えて」

 空いている右手できれいな布を取り出して、そっと優しく涙を拭いてあげた。

「な、なまえ、……名はないです」

 幼女はシュンとして答えてから俯いた。

「お母さんの名前とか、おうちのある村とかの名前は分かるかな」

 「お、お母さんはいません。山、なすのというところです」

 ん、なすの、山? この世界にしては変わった名だな。

「ナスノって聞いたことがありませんね」
「山の近くにあるんだよね。さっぱりだよ」
「でもこの辺りの山なんですよね、きっと」

 突然の背後からの声に驚き振り向いた。
 すっかり三人のこと忘れてました、ごめんなさい。

「みんなも知らないのか。とりあえず分かるまで、お兄ちゃんと一緒にいようか。ちゃんと探して送っていくから安心して、な」

 狐耳の幼女の頭を撫でてあげる。もちろん優しくね。

「で、でも……」
「遠慮しなくていいよ。大丈夫、お兄ちゃんに任せといて」

 狐耳の幼女はコクンと頷いた。
 幼女趣味のない俺でも、その仕草があまりにもかわいすぎて胸がキュンとする。

「とりあえず場所を探して休憩しましょう」
「そ、そうだな。彼女もお腹が空いてるかもしれないしな」

 危ない、あまりの破壊力にフリーズしてしまった。
 なんか三人には白い目で見られているような気がするが、これはきっと気のせいだろう。
 俺はその視線から逃れるように休憩場所を探しに歩き出した。

「悠太、どこへ行くのです。反対です、戻ってきてください」

 どうやら方向を間違えたらしい。
 決して動揺したせいではない。
 俺は気を取り直して、また歩きだした。
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