18 / 230
邂逅
邪神様、この出逢いに感謝します
しおりを挟む
「悠太、もう少しこの近辺を調べてから帰ろうと思います」
軽めの朝食を取った後、ヒルデからそう言われた。
「なにか気になる事でもあるの。まあ別にいいけどさ」
おそらくヒルデは何かを隠している。根拠のない、ただの勘だが。
「あの森を抜けた所に村があります。そこが無事か確認したいのです」
「そっか。でも風の公国の村なのに、なんでそこまでするのって聞くのは野暮だよな。俺はヒルデに任せるよ」
彼女はその答えに満足気に微笑み頷いた。
「なに朝から見つめ合って良い感じを醸し出してるんですか。私も混ぜて下さいよ、私も!」
エイルの横槍が入った。最近特にしつこい。よっぽど仲間外れが嫌らしい。してる覚えは全くないので被害妄想に囚われているのだろう。エイルの第一印象からは最近かなり離れ掛けていて、ただのお笑いキャラと化している。
「エイル。あんた、ユータに振られたのにしつこいのよ。さっさと諦めなさいよね」
「はあぁ、いつ誰が振られたというのですか! 知ってますよ、私。クロノアが小さいままでいる理由を。それをバラされたら悠太さんにどう思われますかね、クロノア」
クロノアをバカにしたように笑って煽った。とたんにクロノアの顔が赤くなる。
「あんた、私にケンカ売ってるの! それ以上口を開いたら、本気で魂ごと滅しますよ」
肩を震わせ俯いたまま、振り上げた右手にあの灰色に輝く球体が浮び上がった。
「はん、そんな本調子でもないものが、私に通用すると思ってるんですか。脅しにもなりませんよ、そんな児戯!」
クロノアが右手を振り下ろそうとした瞬間、ヒルデが二人の頭を叩いて止めた。
「戯れ合うのもいい加減にしなさい。ほら、さっさと片付けて移動しますよ」
ワルキューレ第一席は伊達ではない。威圧感がハンパじゃなかった。
そして威圧された二人は大人しくそれに従った。
しばらく森の中を歩いていると突然なにかを察知した。いわゆるビビビってやつだ。
三人から離れ勘を頼りにその場所へ向かった。
向かった木の根元に小さいものが丸まっている。先っぽだけが銀色のもふもふしたものが、何かを隠すように小さく丸まっていた。
俺はしゃがんで、その丸まっているものを覗き込むと、掠れる声でシクシクと泣いて小さく震えていた。
「もう大丈夫、安心して」
俺は優しく声を掛けた。
小さく丸まっているものは、恐るおそる顔を上げると怯えるように俺を見た。
その面差しは幼くも高貴さを感じるが、美しいというよりはかわいいという方が合っている。また、紅色の瞳、白に限りなく近い銀の髪から耳、狐の耳がひょっこりと出ていた。
きたぁー!
狐耳の絶世の幼女っ!
俺は胸の高鳴りを抑え、優しく、もう一度声を掛けた。
「もう大丈夫だよ。迷子にでもなったのなら、俺が送っていくから安心して。もう大丈夫だから」
狐耳の幼女に手を差し伸べた。
幼女は震える手を伸ばしかけては一度引いて俯き、意を決したように顔を上げると、また震える手をゆっくり伸ばして俺の手を取った。
「もう安心して大丈夫。迷子になったのかい、おうちまで送るよ」
そう言って、優しく左腕に乗せて抱き上げると、幼女は俺の首に両腕を回し抱きついた。
「俺は悠太、君の名前も教えて」
空いている右手できれいな布を取り出して、そっと優しく涙を拭いてあげた。
「な、なまえ、……名はないです」
幼女はシュンとして答えてから俯いた。
「お母さんの名前とか、おうちのある村とかの名前は分かるかな」
「お、お母さんはいません。山、なすのというところです」
ん、なすの、山? この世界にしては変わった名だな。
「ナスノって聞いたことがありませんね」
「山の近くにあるんだよね。さっぱりだよ」
「でもこの辺りの山なんですよね、きっと」
突然の背後からの声に驚き振り向いた。
すっかり三人のこと忘れてました、ごめんなさい。
「みんなも知らないのか。とりあえず分かるまで、お兄ちゃんと一緒にいようか。ちゃんと探して送っていくから安心して、な」
狐耳の幼女の頭を撫でてあげる。もちろん優しくね。
「で、でも……」
「遠慮しなくていいよ。大丈夫、お兄ちゃんに任せといて」
狐耳の幼女はコクンと頷いた。
幼女趣味のない俺でも、その仕草があまりにもかわいすぎて胸がキュンとする。
「とりあえず場所を探して休憩しましょう」
「そ、そうだな。彼女もお腹が空いてるかもしれないしな」
危ない、あまりの破壊力にフリーズしてしまった。
なんか三人には白い目で見られているような気がするが、これはきっと気のせいだろう。
俺はその視線から逃れるように休憩場所を探しに歩き出した。
「悠太、どこへ行くのです。反対です、戻ってきてください」
どうやら方向を間違えたらしい。
決して動揺したせいではない。
俺は気を取り直して、また歩きだした。
軽めの朝食を取った後、ヒルデからそう言われた。
「なにか気になる事でもあるの。まあ別にいいけどさ」
おそらくヒルデは何かを隠している。根拠のない、ただの勘だが。
「あの森を抜けた所に村があります。そこが無事か確認したいのです」
「そっか。でも風の公国の村なのに、なんでそこまでするのって聞くのは野暮だよな。俺はヒルデに任せるよ」
彼女はその答えに満足気に微笑み頷いた。
「なに朝から見つめ合って良い感じを醸し出してるんですか。私も混ぜて下さいよ、私も!」
エイルの横槍が入った。最近特にしつこい。よっぽど仲間外れが嫌らしい。してる覚えは全くないので被害妄想に囚われているのだろう。エイルの第一印象からは最近かなり離れ掛けていて、ただのお笑いキャラと化している。
「エイル。あんた、ユータに振られたのにしつこいのよ。さっさと諦めなさいよね」
「はあぁ、いつ誰が振られたというのですか! 知ってますよ、私。クロノアが小さいままでいる理由を。それをバラされたら悠太さんにどう思われますかね、クロノア」
クロノアをバカにしたように笑って煽った。とたんにクロノアの顔が赤くなる。
「あんた、私にケンカ売ってるの! それ以上口を開いたら、本気で魂ごと滅しますよ」
肩を震わせ俯いたまま、振り上げた右手にあの灰色に輝く球体が浮び上がった。
「はん、そんな本調子でもないものが、私に通用すると思ってるんですか。脅しにもなりませんよ、そんな児戯!」
クロノアが右手を振り下ろそうとした瞬間、ヒルデが二人の頭を叩いて止めた。
「戯れ合うのもいい加減にしなさい。ほら、さっさと片付けて移動しますよ」
ワルキューレ第一席は伊達ではない。威圧感がハンパじゃなかった。
そして威圧された二人は大人しくそれに従った。
しばらく森の中を歩いていると突然なにかを察知した。いわゆるビビビってやつだ。
三人から離れ勘を頼りにその場所へ向かった。
向かった木の根元に小さいものが丸まっている。先っぽだけが銀色のもふもふしたものが、何かを隠すように小さく丸まっていた。
俺はしゃがんで、その丸まっているものを覗き込むと、掠れる声でシクシクと泣いて小さく震えていた。
「もう大丈夫、安心して」
俺は優しく声を掛けた。
小さく丸まっているものは、恐るおそる顔を上げると怯えるように俺を見た。
その面差しは幼くも高貴さを感じるが、美しいというよりはかわいいという方が合っている。また、紅色の瞳、白に限りなく近い銀の髪から耳、狐の耳がひょっこりと出ていた。
きたぁー!
狐耳の絶世の幼女っ!
俺は胸の高鳴りを抑え、優しく、もう一度声を掛けた。
「もう大丈夫だよ。迷子にでもなったのなら、俺が送っていくから安心して。もう大丈夫だから」
狐耳の幼女に手を差し伸べた。
幼女は震える手を伸ばしかけては一度引いて俯き、意を決したように顔を上げると、また震える手をゆっくり伸ばして俺の手を取った。
「もう安心して大丈夫。迷子になったのかい、おうちまで送るよ」
そう言って、優しく左腕に乗せて抱き上げると、幼女は俺の首に両腕を回し抱きついた。
「俺は悠太、君の名前も教えて」
空いている右手できれいな布を取り出して、そっと優しく涙を拭いてあげた。
「な、なまえ、……名はないです」
幼女はシュンとして答えてから俯いた。
「お母さんの名前とか、おうちのある村とかの名前は分かるかな」
「お、お母さんはいません。山、なすのというところです」
ん、なすの、山? この世界にしては変わった名だな。
「ナスノって聞いたことがありませんね」
「山の近くにあるんだよね。さっぱりだよ」
「でもこの辺りの山なんですよね、きっと」
突然の背後からの声に驚き振り向いた。
すっかり三人のこと忘れてました、ごめんなさい。
「みんなも知らないのか。とりあえず分かるまで、お兄ちゃんと一緒にいようか。ちゃんと探して送っていくから安心して、な」
狐耳の幼女の頭を撫でてあげる。もちろん優しくね。
「で、でも……」
「遠慮しなくていいよ。大丈夫、お兄ちゃんに任せといて」
狐耳の幼女はコクンと頷いた。
幼女趣味のない俺でも、その仕草があまりにもかわいすぎて胸がキュンとする。
「とりあえず場所を探して休憩しましょう」
「そ、そうだな。彼女もお腹が空いてるかもしれないしな」
危ない、あまりの破壊力にフリーズしてしまった。
なんか三人には白い目で見られているような気がするが、これはきっと気のせいだろう。
俺はその視線から逃れるように休憩場所を探しに歩き出した。
「悠太、どこへ行くのです。反対です、戻ってきてください」
どうやら方向を間違えたらしい。
決して動揺したせいではない。
俺は気を取り直して、また歩きだした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
27
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる