邪神様に恋をして

そらまめ

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邂逅

邪神様、やはりヴェールは美しい

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 ようやっと、俺達の珍道中に終わりが近づいた。
 この野営を最後に、明日にはヴェールに着く、予定だ。

 俺はこの冒険でいくつも学んだ。
 予定は所詮、予定でしかないのだ。過度な期待は禁物だ。


「ゆうた、わたしもその秘密結社に入りたい」

 食後に焚き火の側で歓談していると、ミツキがそんな事を言い出した。
 ロータがうっかり秘密結社の事をミツキに自慢気に話したからだ。

「いいけど、別に活動なんてほとんど、いや、全然してないぞ。それでもいいのか」
「悠太様、活動はしていますから。アジトで世のため人の為の相談、その為の鍛錬やアイテム作りなど、今や大忙しであります」

 いやいや、その相談はお菓子を食べてお茶してるだけで、鍛錬やアイテムとかは、その変な外套やマスクだけだろうが。

「それでもいいです。ぜひ入れてください!」

 ミツキが俺の手を握り上目遣いで懇願した。

「なら、ミツキ。これからよろしく頼むぞ」
「はい、頼まれました!」

 こうして、ミツキは秘密結社あかつきの構成員第一号となった。
 ちなみに、補佐はスクルド、護衛ロータ、マスコットクオン、構成員ミツキの俺を入れて五名の大所帯になった。
 あっ、すっかり忘れていたが魔族大陸支部長、凛子もいた。こいつは変に勘が鋭くて、クオンをお菓子で買収して無理矢理俺に加入を迫った結果だ。

 別に何も活動してない、ただのコスプレごっこ。またはお茶会メンバーだ。


 ◇


 ヴェールの街が見えてきた。遠目からでも、とても美しい景観だ。やっと帰ってきた。


 見知った門兵と久しぶりの挨拶を交わして街の中に入った。
 荷馬車でトコトコ進んでいるとクロノアが凄い勢いでこちらに飛んでくる。そのまま大きくなり首に抱きついてきた。

「ユータ、おかえり!」

 自身の顔を俺の頬にすりすりして喜んでいる。

「おう、ただいま。珍しく大きくなってどうしたんだ」
「だってこの方が、ちゃんと抱きつけるでしょ」

 すりすりしたまま答えた。うん、その方が俺もとても嬉しい。
 俺はクロノアを膝の上に乗せ、冒険の土産話を聞かせながら、また荷馬車をトコトコ走らせた。


 屋敷の前まで来ると、玄関の前で大勢の人達が出迎えにでていた。
 その中にはマルデルやヒルデ、スクルドの姿もあった。

「マルデル、ヒルデ、ただいま。スクルド達も、だだいま」
「悠太くん、おかえりなさい。帰るのが遅れてたから、少し心配したけど元気そうで安心したよ」

 そう言って、頬にお帰りのキスをしてくれた。

「悠太、おかえりなさい。無事に戻ってきて良かったです」

 ヒルデも頬にお帰りのキスをしてくれた。
 二人の笑顔をみて、二人に会えて、本当に心から嬉しかった。
 俺は二人を同時に抱きしめて再会を喜んだ。



 居間でマルデルからロザミアのことなどを聞いた。
 まさか、俺が戻る前に行動に移るとは夢にも思わなかったし、マルデルも俺から先に聞きたかったと、かわいく口を尖らせた。
 魔国が属国になり庇護下に入ったのも驚いたが、そもそもヴェールって国なのか疑問に思った。
 まあ、それを聞けば面倒な事になりそうなのでスルーした。

「あ、これからは悠太くんの専属護衛にロータを。そして悠太くんの補佐兼専属メイドでスクルドをつけるので、よろしくね」

 はい? 護衛、補佐、メイドって、どういう事かな。
 そんなの必要ないんだけど……
 だってさ、そうなると俺は一人で遊びに行けなさそうだし。それにただでさえ現状でも男友達ができないのに、ますます男友達が作れなそうじゃん。
 ワルキューレは女性ばかりで、屋敷にも男性はいないし、男性を毛嫌いしてる節もある。屋敷の中に入れるのも露骨に嫌がるのだ。
 また、街で少しでも仲良くなっても、住んでる場所や俺の名前を聞いたとたん、ジリジリと去っていくので、一向に男友達ができないでいた。


「ん、どうしたの悠太くん」
「いや、護衛とかメイドとか要らないんだけど」

 俺はマルデルに男らしくはっきり断った。

「それはダメだよ。悠太くんを一人にしてると、厄介事しか持ち込まないから、ぜーったいにダメです」

 そんな自覚はない。

「残念だけどユータ、あきらめなよ」
「そう、風の辺境の村や魔国の事など本当に厄介なことばかりしてくれましたからね。こればっかりは仕方がありません」

 言われてみれば、そうなのかもしれない。
 反論の余地はなさそうだ……

「マルデル、分かったよ。ロータ、スクルド、よろしくな」

 二人が揃って返事をした。
 俺の自由は、今日をもって失ってしまった……

「そ、れ、と、明日から小島で夏のバカンスです! 悠太くん、楽しみにしててくださいね」

 マルデルがにっこりウィンクする。
 そのウィンクに胸を撃ち抜かれた。キラキラかわいいぜ!

 バカンスかぁ。でも俺、遊びから帰ってきたばっかだよな。
 まあ、細かいことは気にしない気にしない、だぜ!

「じゃあ、俺も海パン買わないとな!」
「悠太の水着なら用意してありますよ」

 ヒルデが真顔でブーメラン水着を差し出した!

「だっ、ヒルデ。そ、それは、それだけは、ダメだ」
「冗談ですよ。ちゃんとした物も用意してますから」

 ヒルデがクスクス笑いながら水着を何着か手渡した。
 は、反則だろ、真顔からの今の笑顔は。
 俺は水着のことを忘れて魅入ってしまった。

「ヒルデは本当にきれいだな……」
「あ、ありがとう。悠太も素敵ですよ」

 二人だけの世界を展開していると後頭部に衝撃が走った。

「ユータ、みんなの前で堂々とイチャイチャしない!」

 どうやらクロノアのドロップキックが炸裂したようだ。
 だが、今はそんな事よりヒルデの顔を眺めていたい。


 今夜部屋へ行くからと、ヒルデの耳元で囁いた。
 ヒルデははにかみ笑い、静かにうなずいた。
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