邪神様に恋をして

そらまめ

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邂逅

邪神様、よくリゾートって知ってましたね

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「すげえ、テレビで観た南国リゾートみたいだ……」


 長い橋を渡ると、そこはパラダイスだった。

 立ち並ぶ大小のコテージ、木の柵で仕切られた湖畔を一望できる大きな露天風呂。そして長くうねったウォータースライダー、湖畔を眺めながら食事のできるバーベキュースペースなど、たくさんの施設がそこにはあった。

「よくこんな凄い場所をつくれたね」
「わたしのチェック力を侮らないでね。悠太くんと過ごす事を夢見て、ちゃんとチェックしておいたの」

 なる程。俺は行ったことがないからテレビの情報ってことか。
 しかし本当に凄いな。ワクワクしてくるよ。
 ん、でもやたら知ってるよな。俺のあっちでの生活って、もしかして二十四時間、見られてたのか……

「マルデル様、まずは水着に着替えましょう。悠太様もあちらで着替えをなさってください」

 俺達はまず水着に着替えることにして、一度解散した。


 男の着替えははやい。ウォータースライダーで遊びたいのをがまんして、一人湖畔で水遊びをしながらマルデル達を待っていた。

「悠太くーん!」

 マルデルが走ってくる。白いビキニで名称はわからないが腰に布を巻いている。

 ま、眩しい!

 その後をヒルデと年頃バージョンのクロノアが歩いてくる。
 ヒルデとクロノアは、マルデルの色違いだった。ヒルデが黒で、クロノアが薄い青だ。

 は、鼻血がでるかも……

 スクルドやロータも同じタイプで、白のベースに柄の入ったタイプだった。

 神様、ここは天国ですか!

 ミツキとクオンはリボンなどがついたワンピースだ。

 うん。これはこれで、また良いものだ。


「ユータ、すごいだらしない顔してるよ。喜んでもらって嬉しいけど、なんか複雑だよ」
「ノア。こんな素晴らしい世界を目にして、マトモでいられる男はいない!」

 俺は拳を握って訴える!

「悠太の常の精悍な顔立ちはどこにもありませんね」

 昨夜、熱い夜を共にしたヒルデまでもが俺を全否定する。

「悠太くん、どうです。似合ってますか」

 マルデルがその場でひらりと回る。かわ美しい!
 もうダメだ。俺は限界を突破し、そして意識を失った。


 目が覚めるとマルデルの膝の上だった。いわゆるひざ枕だ。

「目が覚めた? もう悠太くん興奮し過ぎだよ」
「ごめん。マルデルの水着姿で限界を超えたよ」
「もう、嬉しいけど複雑だよ。クロじゃないけど」

 そのクロノアとヒルデはウォータースライダーで楽しそうに遊んでいるのが目に入った。

「俺だってマルデルじゃなかったら正気でいられるよ。俺がプールや海で気絶した事なんてなかっただろ」

 マルデルの心地よいひざ枕を堪能する。

「そうだけど……  ちょっと格好悪いかも」

 その一言に俺は愕然とした。

「き、嫌いになった?」
「そんな事で嫌いにならないよ。でも今夜、私のコテージに来てくれたら許してあげる」
「行くよ、絶対に行く!」

 口を隠してクスクスと笑う姿に、こちらまでつられて笑ってしまう。

「悠太くん、わたし達もあそこに滑りに行こうよ。一緒にくっついて滑ろうね!」

 マルデルが俺を起こすと手を繋ぎ、マルデルに引っ張られるように、ウォータースライダーまで一緒に走った。


 ◇


 夜、湖畔でバーベキューで盛り上がり、皆で賑やかに楽しんでいた。

 そんな賑やかな宴のせいもあり、誰一人、予期せぬ来訪者が訪れている事に気付きはしなかった。

「楽しんでいるところ悪いんだけどよう。ちっとばかし俺達とも遊んでくれないか」

 突然の男の声に驚き湖畔を見ると、二人の男女がそこに立っていた。
 ロータはすかさず剣を構えて二人の前に立った。

「呼んだ覚えはありませんが、死ぬ前に名ぐらいは聞いておきましょうかね」

 その二人はロータの問いにも動じることもなく平然としていた。

「俺はエドガー。こっちが妹のマチルダだ。そっちの男と話をしたくてな。お前さんには用はない」

「悠太様と話がしたいなんて、予約もなしに話せると思ってたんですか。とんだアホ野郎ですね」

 このままでは二人と戦闘になる。というか、二人が殺されると思い、俺は椅子から立ち上がると、ロータの肩を掴んで止めた。

「俺と話ってなんだ。物騒な話じゃなきゃ聞いてやるぞ」

 男は敵意も悪意もなく笑った。

「なに、そんな物騒な話でもないが。お前さん、世界に争いを振り撒こうとしてるのか、そこの女神様とよ」
「は、何言ってんだ。いつ俺とマルデルが争いを振り撒いたんだよ。あんた、バカなのか」

 俺のその言葉に男はゆっくりと腰の剣を抜くが、敵意を感じさせない。

「俺と妹は、王国で女神に騙されて、勇者ってやつをやってたんだけどよ。その女神は人々の平穏だとか抜かしておいて、実際やってる事はただの戦争でな。人を救うどころか、戦で行き場を失った者に、救いの手すら差し伸べねえ始末だ。そんな女神に嫌気がさして、俺と妹は王国をでた。だからよ。その女神より強く、昔悪さしたってその女神様とお前さんを一度確かめたくてな、ここまで来たって訳だ」

「その騙した女神が誰かは知らないが、無害な俺とマルデルを確かめるより、その傍迷惑な女神を止めた方がいいんじゃないか」

 俺はなんとなく試されてると感じ、剣を抜いた。
 それを見た男は外套のフードを脱いだ。濃い紫色の髪を短く整えられた様は、かなりの美男子だった。

「まあな。それはそうなんだけどよ。俺の前の仲間を倒したお前さんに、妹が興味があるみたいでな。だからよ。少しばかし、俺と遊んでくれないか」

 仲間を倒したって、勇者繋がりであの盗賊のことだよな。まあ、悪いヤツでは無さそうだし、剣を交えてみますか。強そうだしな。

「いいよ、ケガをさせない程度には遊んでやるよ」
「ありがとよ!」

 男は間合いを詰め、剣を斜め下に振り下ろすが、俺はその剣を下から払い上げた。男の剣を持つ手が上にあがり、ガラ空きになった首筋に剣を寸止める。

「試すなら、もっと真面目にやれよな」

 剣を首筋に当てたまま言うと、後ろから妹とやらが歩いてくる。

「兄さん、そこをどいて。わたしがやる」
「チッ、ここからなのによ。しょうがねぇな、譲ってやるよ」

 兄と同じ髪色。凛とした強さを放つ黒い瞳が印象的だ。
 妹の方が遥かに兄より強いのが、はっきりとわかる。

「わたしはマチルダ。本気でやらないと貴方死ぬわよ」

 彼女は両手に剣を持つ、俺と同じ二刀使いだった。
 俺ももう一つの刀を手にした。ただし、先に持った剣もだが、刀もレプリカの方を使う。本物を使うのはフェアじゃない。

「怖いことを言うな。俺は佐藤悠太、悠太だ」

 きれいな女性には名前を覚えて欲しいので二度言った。
 大事なことは二度言った方がいいからな。

 常のように左の剣を突き出し、右手の方は肩口で構える。
 彼女の方は構えは取らずに、両手の剣をただぶら下げている。
 先手をとるのは苦手なのだが、今回は仕掛けてみた。

 左の剣で突きを繰り出し、彼女の右の肩口を狙う。それを彼女は横に躱し、前傾姿勢をとり反対方向に剣の下を掻い潜って、俺の胴を狙って斬り払った。俺はその剣を前方に跳んで躱して、一旦距離をとった。

 速いし、何より目がいい。しかも凄い度胸だな。躊躇なく剣を掻い潜りやがった。なんか楽しくなってきたな。

 俺は一気に間合いを詰めて、足を止めての打ち合いを選択した。純粋に真っ向勝負をしたかった。

 彼女は俺の剣を上手く受け流す。決して受け止めたりはしなかった。そして上手く受け流して、俺の剣を、体を誘導した先で、彼女の剣が待ち構えていた。

 惚れ惚れするくらいに上手い、強い。

 互いに刃を体に当てることは叶わず、ただ何度も至近距離で打ち合う。いつしか俺も彼女も笑っていた。
 そして勝負を決めるために、お互い一旦間合いを取る、

 一度彼女と視線を合わせて、互いが同時に一気に間合いを詰めた。

 二人の剣が激しく交差すると、互いを傷つけることはできずに折れた剣だけが宙を舞った。


 ―――決着はつかず、勝負は引き分けた。


「強いね、君。初めて剣を交えて、楽しいと思ったよ」
「ああ、俺もだ。最高に楽しかった」
「君は悪いことはしなさそうだね。安心したよ」
「なら、俺は合格なのかな」
「そうね、合格だね」
「そっか、なら一緒に食事でもどうかな。ゆっくり話もしたいし」
「ええ、なら遠慮なくそうさせてもらうね」

 俺は彼女と、彼女の兄と一緒に、食事をするために皆のいるテーブルまで戻った。



 そして、この二人との出会いは、俺にとってかけがえの無い大切な出会いとなった。
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