邪神様に恋をして

そらまめ

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新婚編

邪神様、節操なしじゃ駄目ですか

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 大地に加護を与えながら人里を目指していた。
 そろそろ着くかと思われたところに、大きくて強そうな双頭の犬が俺達の前に立ち塞がった。

「なんだあれ、馬よりでかいぞ。しかも汚なあ、涎をダラダラ流してるし」
「佐藤くん、あれはオルトロスっていうんだよ。凶暴だから油断しちゃダメだからね」

 っていってもなぁ、犬だし。めんどくさいな。
 まあ、軽くしばいておくか。

 俺は馬から降りると、威嚇しているオルなんちゃらに間合いをゆっくりと詰めていった。
 奴の間合いに入ったとたん凄い勢いで牙を剥き出しにして飛び掛かってくる。でも、遅いんだよな、おまえ。
 冷静にクロノアソードで奴を双頭の付け根から真っ二つにした。

「なあ、こんなのよくいるのか。やたら攻撃的だよな」
「どうだろう、普通に物騒だよね」

 とりあえず考えるのをやめて、また人里を目指した。



 人里まで来たが、やけに静かだ。
 竜魔族の里と同じで、質素なつくりの家屋が立ち並び、里の真ん中辺りに人が集まっているのを見つけた。
 俺達はなるべく驚かせないように里の人達に話しかけた。

「あの、竜魔族の里からここへ来たのですが今、大丈夫でしょうか」

 人だかりの奥から老人の割には背筋のピンとした人がゆっくり近づいてきた。

「あの、俺達、大地に加護を与えに来たのですが里の周りもやってもいいでしょうか」
「加護、ですか。あなた様はもしや、フレイヤ様の伴侶の御方でしょうか」
「あ、はい、悠太といいます。そして、こちらの凛子も僕の妻です」

 つい勢いで妻なんて言ってしまった。

「なるほど、お聞きしてた通りの方のようですね。なにやらフレイヤ様の他にも八人の方と一緒になられてるとか。まったく節操のない御方ですな。あなた様のような方の助けは入りません。早急にこの里、いや、島から立ち去ってください」

 え、なんで、たしかに節操はないけど門前払いはないんじゃないか。

「我々にとっては唯一の女神様であり、すべての者がフレイヤ様に忠誠を捧げております。あなた様がどうあろうと構いませんが、我々には近づかないで頂きたい。正直、虫唾が走るのですよ」

 まあ、そうだよな。逆の立場なら俺もそう思う。

「そうですか。気分を悪くさせて申し訳ありませんでした。では、失礼いたします」

 俺と凛子は踵を返して里から立ち去った。
 皆の敵意というか、あの下げずんだ視線は痛かった。
 さすがの凛子も口を閉ざすくらいだったし。

「佐藤くん、竜魔族の村にこのまま戻るの」
「ああ、でも、里から少し離れた土地にだけでも加護は与えようと思う。喜ばれないとは思うけど」


 俺は村の周囲に加護を与え、竜魔族の村に引き返した。

 しかし、本当の事とはいえ、面と向かって節操なしと言われるのは結構へこむな。
 でもそれだけ、マルデルを慕ってるということか。それもそうだよな。この島を今までどんなに過酷でも必死に守ってきた人達なのだから。



 ◇



「長老、本当にあれで良かったのですか」

「ああ言わねば、この里から離れてはくれぬだろう。悠太様を巻き込む訳にはいかぬ。皆も辛かっただろうに、よくやってくれた」

「いえ、長老だけを悪者にはできませんよ」
「長老! 悠太様が里の周りの大地を!」

 里の者達は皆、急いで里の外へ出て周りを見渡す。そして、草花が芽吹く大地を目にしておもむろに跪いた。

「なんということだ。あんな仕打ちを受けて尚、我らを見捨てないとは」
「まだ、この地は生きておるのだな。ならば我々もこの地をなんとしても守らなければならん」
「ええ、我らが祖先の眠るこの地を必ず」



 ◇



 里を出てから、しばらくたった頃にシェリーが突然目の前に現れた。

「だっ、なんだよ、急に出てくるなよ。びっくりしただろ」
「ふふん、びっくりさせたんだから当然だよね、クロノア」
「わたしは関係ないでしょ。あんたが勝手に驚かせたんだから」

 こいつ、最近調子に乗ってるな。昔からだけど。

「シェリー、なんでクロノアと一緒なんだ。ちゃんと説明しろ。あまりふざけてると後でお仕置きだからな」
「は、はい! えっと、女王様に急いで竜魔族の里に戻ってこいと悠太様に伝えろって。それでクロノアも連れて行けって言われました」

 なんだ、よく話が見えないが、要はマルデルが竜魔族の里にいて、俺を待っている、ということか。で、なんでクロノアも来たんだ、ほんと、よくわからん。

「シェリー、あんたほんとに頭大丈夫。同じ大精霊として恥ずかしくなるよ」
「あん、あんたこそウジウジ、イジイジして、同じ大精霊として恥ずかしいよ」

 掛け合わせてはいけない者同士のバトルが始まった。
 小さな姿が光の球にしか見えないほど速く宙を激しく飛びまわり交差している。おそらく目にも止まらぬ速さで戦闘しているのだろう。

「佐藤くん、止めなくていいの」
「あれは戯れあってるだけだからな。朝の交流会でもよくある事だよ。しばらくすれと疲れてやめると思うぞ」
「そうなの。ずいぶん激しいんだね」
「まあ、昔の凛子と同じようなもんだろ。俺になにかと勝負を挑んできたみたいな」

 イテッ、頬をつねらないでください!

「あの崇高なひと時と一緒にしないで」
「はひ、だはらはなひてくだはい」

 つねられた頬に手を当てて痛みを緩和する。
 ついでに少し頭にきたので、凛子のお尻を撫でるように叩いた。

「ひゃあん、ちょ、ちょっと、佐藤くん何するのよ」
「仕返しだよ。今度、頬をつねったら、もっと酷いことをするからな」

「クロノア、あそこでイチャイチャさせてていいの」
「あ、ユータだからね。気にしてもしょうがないよ」

 いつの間にか二人はバトルをやめていて、呆れてこちらを見ていた。

「シェリー、最近のおまえは生意気だぞ。昔はあんなにいい子だったのに、ほんとがっかりだよ」
「これが本性だから、騙されたユータが悪いよ」
「はああ、あんたにだけは言われたくないからね! クロノアこそ生意気オブ生意気じゃん」

 なあ、その生意気オブなんちゃらってなんだよ。俺、お前達にそんな言葉を教えたか。やめてくれよな、またマルデルに怒られるからさ。

「おい、二人ともケンカはやめなさい。さもないとアンジュにお仕置きさせるぞ」

 その脅しにより、二人は仲直りした。何気にアンジュを使った脅しが効いたようだ。まあ、強いからなアンジュは。

「で、クロノアはなんで来たんだ」
「あんたのサポートに決まってるでしょ。今、この島は危ない状況なの」
「あ、結界のことか。大変だよな」
「ばっかもーん! んな、呑気な場合じゃないわ!」

 灰色の閃光が俺の左頬を打った。クロノア渾身の右ストレートだ。やば、くらっときたぜ。

「や、やるな、一瞬、意識がとんだぞ。で、なんかまずいことになったのか」

 呆れるクロノアから詳しい説明を受けた。

 争いは終わったんじゃないのかよ。ったく、しつこいんだよな、神様ってやつはよ。

 とりあえず天馬を召喚して竜魔族の里に戻ることにした。


 はぁ、ほんと神様って迷惑な存在だよな、マルデル以外はさ。
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