邪神様に恋をして

そらまめ

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未踏の大地へ(青年編)

女神様、困惑も困惑で理解不能です

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 スクルドとロータ以外はお酒の味を堪能し穏やかな会話を続けていると唐突にこう話を切り出された。

「昔々の、遠い昔の話なんだけれど聞いてくれないかな」

 俺はただその言葉に頷いて返した。

「僕が世界を創造し始めた頃のお話なんだ。僕は独り孤独に突然何も無い世界、周りを見渡しても闇だけが広がる世界で目を覚ました。僕はしばらくそこでただ唖然として立ちすくんでいたのだけれど、いつの間にか気付けば闇の中を歩んでいた。そのうち自然と頭の中を流れるように自分の力、能力を知ったのさ」

 そう言った後、世界樹のお酒で喉を潤すように呑むと話をまた続けた。
 その姿はとても悲しく思えた。何故だか分からないが。

「自分の力を知った僕は、考えて考えた末に世界を創造した。そしてその世界で僕は仲間を作ろうとしたんだ。独りは嫌だったからね。けれどそれは上手くはいかなかった。僕の力が強大過ぎたのが原因だ。最初は慕われ敬われていたのにね。だから僕は世界から離れ、創造した世界を眺める事にしたんだ。最初は子供達も協力し仲良くして、皆が笑顔で営みを続けるのを見て、とても嬉しかった。それこそ子供達の幸せが自分自身のように思えてね。けれど、文化や技術などが成熟するに連れて子供達は争いを始め、徐々にその戦火は広がり、やがて世界を自分達の手で壊し、世界を自ら終わらせた。まったく笑えない話さ。一部の権力者や権利、利権を握った者の欲で民は扇動され、その手先となり何ら疑うこともなく滅びまで突き進んだのだからね」

 悲しくて辛そうな気持ちを隠すように両手で木製のコップを包み、そこに視線を落とし俯いた。
 そして、しばらく無言が続いたのちに、また顔を上げて何事も無かったように声に明るさを乗せて話を再開した。

「まぁ、最初はこんなものかと思ってさ。僕は諦めずにまた世界を創造したんだ。今度はこの子のように意思を持った精霊達を世界に送り込んで、人々を陰ながら導くようにしたのさ。それが僕の初めての眷属だった。その眷属の時の精霊、光の精霊、闇の精霊、火風水土の精霊達はよく頑張ってくれた。人々に安らぎや豊穣を、そして穏やかに幸せに過ごせるようにと色々と手を尽くしてくれたよ。けれどさ、また人はその想いに反して助長し勘違いを重ねて、残念な事にまた前の世界のように自分達の手で世界を壊した。けれど、僕と眷属達は諦めずに少しずつやり方を変えながら何度も世界を創った。だけれど何度世界を創造しても必ず同じ結末を迎える。僕は自然と話す事もなくなり言葉を失っていった。笑う事もいつの間にか忘れていたしね。それでもうこんな事に意味はないと、もう世界は創造しないと決めた時に闇の子が僕に言ったのさ。考えがあります。最後に私に任せてください、とね。その必死に嘆願するその姿に僕はこれが最後だと言って世界を創造した。闇の子はその世界に自身の眷属を引き連れて受肉し、その強大な力で人々の敵として現れ、人々が協力し、一致団結してその脅威から身を守るようにした。けれどそれも、今までとは違って大きな争いのない日々は長く続いた方だったけれど、最後は闇の子の優しさが仇となり、あの子は人に騙されて討たれてしまった。それからはいつものように同じ流れさ。でも、僕と同じように言葉を失い、笑う事さえもなかった時の子が突然、『見つけた』と声に出して僕の方を見て小さく笑ったんだ。一筋の希望の光を見つけたとね」

 そう言って隣に座る小さな子の頭を優しく撫でた。まぁ、どちらも子供にしか見えないのだが……

 しかし、想像しただけでも悲しい物語だよな。その辛さを想像し、共感する事さえも烏滸がましい程に。

「この子が見つけた、その希望はとても気高く素晴らしいものだった。そしてそれはなぜか毎回女性として生まれ変わるのだけれど、彼女は何度生まれ変わっても常に変わらず同じ在り様だった。善良な無垢の民を虐げる者たちに毅然と立ち向かい、彼女は多くの弱き者に手を差し伸べては、彼女の命が尽きる最後の最後まで愚直に、彼等を命懸けで必死に守り続けた。生まれ変わる度に、何度も何度もだ。その魂の在り様は少しも変わる事もなく、むしろ輝きを増すように強くなっていった。そんな彼女の姿をこの子に見せられて、僕はもう一度だけ彼女に掛けてみようと思った。きっと次の世界では上手くいくと何故か根拠のない自信があったからね。それで今度は敢えて世界を創造した時に、その中でも小さな大陸にだけ人を放った。希望を託した彼女に導かれて、他の者の魂が成熟するまで。それを先の世界と同じように闇の子を受肉させ下界に降り立たせ、適度に人々の脅威となりながらも同時に人々を陰で見守らせた。やはり思った通り、彼女は在り様を変えずに現れ、また同じように抗い、か弱き民を命が尽きるまで救った。けれど、次はいつもと違ったんだ。彼女の魂に引き寄せられるかのように、同じように変わらずに彼女の側に立つ者たちがいた。それも四人もだ。そして彼女はついに初めて自分の想いを叶えられる、その最初の一歩となる国を、彼女を慕う者たちと共に建国した。善良なる無垢な人々の護り手になると掲げて。だが、その道半ばで彼女は命を落とすけれど、彼女のその想いは失われる事なく、人々に引き継がれていった」

 そう話した後、僕を一度見て口元を歪めた。

「その彼女の想いを引き継いだ国で、後に君が王として生まれ変わると英雄王へと至り、同じ頃に生まれ変わった彼女と共に原初の世界で初めて大陸を統一し争いを終わらせ、長きに渡り平和の礎を築きあげた。神話にも伝承にも語られることのない原初の世界での奇跡の物語さ。ここまで語れば鈍ちんな君でも、もう分かったんじゃないのかな」

「若干、彼に対し良く脚色されすぎではありませんか。あくまでも彼は、私の愛し子のオマケですから」

 隣から苦言というか、反論され、まぁまぁと言いながら手を上下に振って宥めていた。

 しかし、鈍ちんな君にも分かっただろうといわれたが、さっぱり分からない。とりあえずスクルドの方を見て答えを聞こうと思ったが、彼女に首を振られた。
 まぁ、スクルドが分からないならロータはさらに分からないだろうからスルーだ。どことなく聞いて欲しそうな顔をしているけど、ここは敢えてスルーだ。

「だっあぁー! なんで悠太様は私をスルーするんですかぁ!」

 意地悪にも程があると、両手で肩を押さえられて激しく前後に体を揺さぶられた。
 そんないきなり取り乱したロータをスクルドが引き離してくれた。

「ロータ、おやめなさい」

 その一言はとても静かに告げられたものだったが、とても威厳の込められた恐ろしいものだった。
 ロータは怯えるように静かに座り直し、二人に深く頭を下げて謝った。

「御身の前で取り乱し、誠に申し訳ございません」
「ああぁ、そんなの気にしなくていいよ。普段通りで構わないから」
「少しは気にしてください。私たちの、あなた様への想いを知っているのならばですけど」

 痛烈な嫌味が炸裂したが、俺たちはその事に対して沈黙を貫いた。

「はいはい、わかったよ。で、話を元に戻すけれど、悠太くん、君はその英雄王なんだ。そして、何度生まれ変わっても変わらずに在り続けた彼女というのが、フレイヤちゃんなんだ。そして何を隠そう僕は君のファンなんだよ」
「ファン? 推しって言ってませんでしたか、あなた様は」
「はあぁ、細い事を…… 」

 うーん、つまり俺は遥か昔からマルデルに惚れていた、ということか。
 それはそうだろう。俺がマルデルに憧れない訳もないし、ましてや、心を魅了されないわけがないからな。それは絶対の摂理だ。

「ねぇ、君の思考が読めたんだけど、絶対に彼女に変な教育されたんじゃないの。昔の君なら絶対にそんな事は思わなかったよね」
「まぁ時代は変わりますから」

 だって、話を聞いてやっぱりマルデルは凄いなぁって、本当に素直に尊敬できるのだから。それは昔の俺もそうだったに違いない。ただ素直になれなかっただけだと思う。

「だから言ったのです。この者は思い込んだら一直線なのです。それも私の愛し子の言葉でしか道を正せやしない、自覚の無い愚か者なんですよ。そのせいで彼女を死地に追いやったのですから」

 え、死地……

「はぁ、それは君も同意の上だったはずじゃないか。それを彼に全て押し付けるのは、いくら君でも僕は許さないよ」
「同意? 片腹痛い。彼女のあの時の覚悟に誰がそれを否定できたというの。あんな眼差しを、」
「もう、そこまでにしなさい」

 もう一人の話を口を手で塞ぐかわりに優しく両腕で抱き寄せ、胸の中へ押し込んだ。

「まったく悠太くんセンサーが急に鳴り響いて来てみれば、まさかこんな修羅場だとは思わなかったわ。私は、私のすべき事を自分で選択して歩んだの。その道が破滅へと繋がっていたとしてもね。というか、私の悠太くんを責めないで!」

 突然現れたマルデルがそう二人に告げた後、俺の首に手を回し、俺を守るようにきつく抱きついた。

 うん、さすがはマルデル。
 絶妙なタイミングで助けに現れてくれた。正直、困っていたから本当にありがたい。

 ああぁ、マルデル。ありがとう!


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