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ハロウィンナイトで融け合って 12
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先生たちが間近に来た時、典子ちゃんはしぶしぶと僕から離れる。
僕たちは、親密でも他人でもない絶妙な距離感を保って、人混みから少し外れた場所で先生たちと向かい合った。
見回り中の先生に出くわすなんて、初めてだ。全身が緊張で強張り、身体が浮いている感じがする。
ネクタイが少し緩んでいる武田先生は、僕と典子ちゃんを交互に眺め、腕組みして不思議そうな顔をしている。八重樫先生はため息をつきながら、困惑気味の表情で典子ちゃんを見つめる。
見つめられている当の本人は、うつむいて押し黙ったままだ。先生たちから見えない角度で、僕のハーフコートの裾をつまんでいる。
先生たちに促され、通りから少し離れた交差点の片隅で教師と生徒の二人同士が向かい合う。
僕のオレンジ色のように暖かった気持ちは、ペールブルーのように一気に冷え込んだ。さっきまで外気が心地よかったのに、今はひんやりした空気が肌に刺々しくささる。
「田辺に風間か……」
武田先生は腕組みしたまま、ポツンとつぶやいた。想定外の生徒二人に出会った、しかもデート丸出しの雰囲気だ。事情が飲み込めたようで飲み込めないのだろう。
当事者である僕も「典子ちゃんの彼氏」という実感がないからなおさらだ。
八重樫先生と典子ちゃんの二人は、視線を合わせているようで、合っていない。彼女たちの「先生と生徒を超えた何か」があるのは、典子ちゃんが以前に話してくれた。
二人の間には、武田先生や僕が立ち入れない独特の「空気」が漂う。
心配そうな八重樫先生に応じる典子ちゃんの表情は、先生に対する様々な感情が入り混じった、さみしげで悲しげに見えた。コートの裾が引っ張られる力加減で、彼女の気持ちが感じ取れる気がした。
大きくため息をついた八重樫先生は、僕たちを交互に見つめながら口を開く。
「二人とも……自販機調査もいいけど、熱心にやりすぎちゃダメよ」
意外な言葉に、僕はあっけにとられる。そういえば、先生は僕たち購買部の顧問であった。
「……二人とも、駅に向かって歩いてたから、もう帰りよね?」
武田先生から見えない角度で、僕たちに八重樫先生がウィンクする。
八重樫先生の言葉とウィンクで瞬時に意味を理解した僕たちは、顔を見合わせて、ウンウンと頷いた。納得いかなそうな武田先生に向き直って、顧問はニコリと笑う。
「武田先生、この子たちは購買部で自販機担当しているんです。季節の変わり目だから、品揃え調査を課題として出してたんです」
「ほう」という武田先生。先生は職員室近くの4番機でよくコーヒーを買っている。新製品はまず買ってみる人だということを僕は知っていた。そんな「お得意様」に僕たちの顧問は言葉を続ける。
「まあ、こんな時間ですけど、もうすぐ駅だし、このまま帰ってもらえればいいと思います。もう少し遊園地よりに行ってみましょうよ」
八重樫先生が武田先生を促す。ちょっと納得していないようだが、あまり僕たちにも時間をかけてられないのだろう、僕たち二人に片手をあげて遊園地に向かって歩き出した。
ペコリと一礼して顔をあげると、振り返った八重樫先生と目が合った。
小さく手を振った後、柔らかな笑顔を浮かべて、親指を立て「いいね」とサインを送ってくれた。きっと、典子ちゃんとの「無言の会話」で僕たちのことを感じ取ったに違いない。
もう一度、手を振りながらニコリと笑うと、僕たちの顧問は、武田先生と人混みの中に消えていった。
八重樫先生の笑顔を見た時「典子ちゃんのこと、頼んだわよ」と、先生の声が聞こえた気がした。
ぎゅむっと手に再び暖かい感触が戻ってきた。
握ってくれた恋人の手を、ハーフコートのポケットに引き込んで、指を絡ませる。
「……キィ先生にこれ以上、心配かけたくない」
「うん……帰ろう」
少し歩調を早めて最寄り駅に着き、ごった返す駅の改札を抜ける。
途中までは、典子ちゃんと一緒の方向だ。乗った電車は、パレード帰りのピーク直前のためか、電車は二人で座れるくらいの余裕があった。ぴったりと身体を寄せ合ってゴトゴト揺られる。
肩に恋人の頭がもたれかかり、ハーフコートの感触を確かめるように栗色の髪が擦り付けられる。んふぅ、というため息が聞こえると、僕はゆっくりと自分の頬を栗色の髪にあてがい、もたれかかった。
ほのかに立ち上る、典子ちゃんの香り。愛おしくも甘やかで、僕の胸の奥を浮き立たせる、極上の匂い。
車窓に流れる街の灯りをぼんやり眺めながら、今日の様々な典子ちゃんを思い出し、八重樫先生はどこまで僕たちが結ばれていると思っているんだろう、と考えていた。
たぶん、先生が思うより、僕たちは強く結ばれた。
電車が揺れるたびに頬に感じる、大切な人の存在。
ポケットの中にある、指を絡めた手が、じんわりと安心感と心地よさを与えてくれる。恋人が出来るとこんなにも景色が違うのか、と驚きを噛みしめる。
ウトウトしていると、手がギュッと強く握られて、乗換駅に停車したことを知らせてもらった。寝ぼけながら彼女に引っ張られるように電車を降りる。
向かう方面は反対なのだけど、離れたくなくて、遠慮する典子ちゃんを押し留め、彼女の最寄り駅まで送っていった。
彼女の最寄り駅の改札機手前の片隅で、ギュッと抱きしめ合う。今日はここで、本当にバイバイだ。
「慎一くん……ありがとう」
「典子ちゃん……これからも、よろしくね」
艶髪に顔を埋めるように、僕より少し背の低い恋人を抱きしめると、コクンと彼女は頷いた。
そして、名残惜しそうに身体を離していく。
「ほんとに……キィ先生を心配させちゃうから、帰るね」
もっと一緒にいたいのだが、ややこしいことになると会えなくなる。
ピッと改札機の通過音がすると、改札の向こう側に歩き出した恋人は振り向いて、恥ずかしそうに手を振った。
また、明日、学校で。
駅出口のロータリーの前で、もう一度典子ちゃんが振り向いて手を振って歩きだすと、彼女が見えなくなった。家路に向かう彼女の足取りは、弾むように見えたのは気のせいだろうか。
見送った後、自宅に帰る電車でいろんなことがありすぎた今日のことを思い返す。いろんな典子ちゃんが頭をよぎり、明日の学校が待ち遠しくなる。いや、学校が待ち遠しいのではなく、典子ちゃんと会えるのが待ち遠しい。
ブブブ、とスマホが震える。恋人からのメッセージだ。
ディフォルメされたカエルのイラストのスタンプ。ハートマークを抱えて楽しそうに躍っている。
『今日はありがとう。このスタンプ、慎一くんに使えて嬉しい。気をつけて帰ってね。また明日』
そう。また明日。スタンプと数行のメッセージでこんなに気持ちが安らぐなんて、初めてだ。
ホカホカと気持ちと身体が安堵感でいっぱいになり、そのまま電車で寝入ってしまった。
デートから数週間経った。ハロウィンを過ぎると、本格的な冬到来だ。
担当の8番機も季節商品と売上が落ちた商品を、ホット商品に入れ替えてもらっていた。いつものとおり、近くのベンチで、自分の担当が順調に売っている様子をぼんやりと眺めた。
ガタン、とベンチが揺れる。振り向くと典子ちゃんがちょこんと座っていた。手にはいつものトマトジュース。はちみつレモンはあの日だけだ。
「ハッサンの調子、良さそうだね」
隣までにじり寄ろうとしている彼女を待ちながら、僕はニコリと頷く。
あの日の翌日から、以前と同じように典子ちゃんはやってきた。
何日かは、お互いエッチしたことが強烈に思い出されて、会話がぎこちなかった。心も身体も通じているのに、結ばれたことが嬉しすぎて、なんだか恥ずかしかったのだ。
また、あんな素敵な二人きりの時間を過ごしたいけど、遊園地デートでかなり出費してしまったので、ラブホで抱き合う、なんてことはしばらくできない。
塾の友達から、人の出入りが少ない教室でエッチしたという他校の話も聞いたけど、僕たちの学校はそんな部屋は備品盗難対策として、防犯カメラが設置されているので、あいにくそんなうらやましい事は出来ない。それならお互いの自宅で、とも思ったけど、僕も彼女もそれなりに家の事情があるのでちょっとムリ。
今は、学校の帰り道の公園でキスをしたりギュッと抱き合って二人の時間を過ごすことがせいぜいだ。
でも、それでいい。
二人きりの時しか見せないであろう、自然体の典子ちゃんの表情や仕草。タレ目気味で笑う、とても優しい笑顔。そして抱きしめた時の彼女の柔らかな身体の感触、少し早い鼓動、立ち上る甘やかな女の子の香り。
エッチはしたい。だけど、エッチしなくてもこうして触れ合っているだけで典子ちゃんと結ばれているから、僕の心は満たされるのだ。彼女に無理強いなんてしたくない。
だから、身体が満たされないことは、仕方ないのでオナニーして抜いている。今度、彼女にフェラをお願いしてみたいな、とも密かに思っている。あの日もしてもらったけど、キスをしている時に感じるあの唇で再び僕のアソコを……と妄想すると、股間がドクドクと瞬時に自己主張する。
そっと手を握られて、妄想から我に返る。ちょうど人通りの切れ目で、僕たちのイチャつきが目立たないのを狙って、恋人が触れてきたのだった。
その証拠に楽しげに話している女子生徒が近づいてきたら、パッと手を離して身体も絶妙な位置へ座り直しているのだ。校内で堂々とイチャついていると、顧問の八重樫先生も示しがつかないのではないか、と僕たちは考え、学校ではなるべくイチャつかないようにしようとお互い約束した。
僕たちの前を通り過ぎる女子生徒が手に持っている飲料を見て、あれ、と思った。来た方向は典子ちゃんの担当の6番機。あの飲料は、他の自販機では売っていない。
「はちみつ……レモン?」
「クラスの友達に、ちょっとした噂話をしてみたんだ。『はちみつレモンを飲んで告白すると、好きな人が彼氏になる』って」
僕はベンチから転げ落ちそうになる。そんな発想、考えつかなかった。自分から商品プロモーションを仕掛けるなんて。きっと、来月の売上発表では、戸塚先生がこの時期にこの商品が何で売れるのか、首を傾げるに違いない。
彼女はいつものトマトジュースを一口飲むと、周囲を見回して、一気に僕ににじり寄って耳元で囁く。
「みんなに、おまじないのおすそわけ♪」
恋人はそう言うと、僕の頬に素早くチュッとキスをして、ニコニコしながらトマトジュースを飲み干した。
【了】
僕たちは、親密でも他人でもない絶妙な距離感を保って、人混みから少し外れた場所で先生たちと向かい合った。
見回り中の先生に出くわすなんて、初めてだ。全身が緊張で強張り、身体が浮いている感じがする。
ネクタイが少し緩んでいる武田先生は、僕と典子ちゃんを交互に眺め、腕組みして不思議そうな顔をしている。八重樫先生はため息をつきながら、困惑気味の表情で典子ちゃんを見つめる。
見つめられている当の本人は、うつむいて押し黙ったままだ。先生たちから見えない角度で、僕のハーフコートの裾をつまんでいる。
先生たちに促され、通りから少し離れた交差点の片隅で教師と生徒の二人同士が向かい合う。
僕のオレンジ色のように暖かった気持ちは、ペールブルーのように一気に冷え込んだ。さっきまで外気が心地よかったのに、今はひんやりした空気が肌に刺々しくささる。
「田辺に風間か……」
武田先生は腕組みしたまま、ポツンとつぶやいた。想定外の生徒二人に出会った、しかもデート丸出しの雰囲気だ。事情が飲み込めたようで飲み込めないのだろう。
当事者である僕も「典子ちゃんの彼氏」という実感がないからなおさらだ。
八重樫先生と典子ちゃんの二人は、視線を合わせているようで、合っていない。彼女たちの「先生と生徒を超えた何か」があるのは、典子ちゃんが以前に話してくれた。
二人の間には、武田先生や僕が立ち入れない独特の「空気」が漂う。
心配そうな八重樫先生に応じる典子ちゃんの表情は、先生に対する様々な感情が入り混じった、さみしげで悲しげに見えた。コートの裾が引っ張られる力加減で、彼女の気持ちが感じ取れる気がした。
大きくため息をついた八重樫先生は、僕たちを交互に見つめながら口を開く。
「二人とも……自販機調査もいいけど、熱心にやりすぎちゃダメよ」
意外な言葉に、僕はあっけにとられる。そういえば、先生は僕たち購買部の顧問であった。
「……二人とも、駅に向かって歩いてたから、もう帰りよね?」
武田先生から見えない角度で、僕たちに八重樫先生がウィンクする。
八重樫先生の言葉とウィンクで瞬時に意味を理解した僕たちは、顔を見合わせて、ウンウンと頷いた。納得いかなそうな武田先生に向き直って、顧問はニコリと笑う。
「武田先生、この子たちは購買部で自販機担当しているんです。季節の変わり目だから、品揃え調査を課題として出してたんです」
「ほう」という武田先生。先生は職員室近くの4番機でよくコーヒーを買っている。新製品はまず買ってみる人だということを僕は知っていた。そんな「お得意様」に僕たちの顧問は言葉を続ける。
「まあ、こんな時間ですけど、もうすぐ駅だし、このまま帰ってもらえればいいと思います。もう少し遊園地よりに行ってみましょうよ」
八重樫先生が武田先生を促す。ちょっと納得していないようだが、あまり僕たちにも時間をかけてられないのだろう、僕たち二人に片手をあげて遊園地に向かって歩き出した。
ペコリと一礼して顔をあげると、振り返った八重樫先生と目が合った。
小さく手を振った後、柔らかな笑顔を浮かべて、親指を立て「いいね」とサインを送ってくれた。きっと、典子ちゃんとの「無言の会話」で僕たちのことを感じ取ったに違いない。
もう一度、手を振りながらニコリと笑うと、僕たちの顧問は、武田先生と人混みの中に消えていった。
八重樫先生の笑顔を見た時「典子ちゃんのこと、頼んだわよ」と、先生の声が聞こえた気がした。
ぎゅむっと手に再び暖かい感触が戻ってきた。
握ってくれた恋人の手を、ハーフコートのポケットに引き込んで、指を絡ませる。
「……キィ先生にこれ以上、心配かけたくない」
「うん……帰ろう」
少し歩調を早めて最寄り駅に着き、ごった返す駅の改札を抜ける。
途中までは、典子ちゃんと一緒の方向だ。乗った電車は、パレード帰りのピーク直前のためか、電車は二人で座れるくらいの余裕があった。ぴったりと身体を寄せ合ってゴトゴト揺られる。
肩に恋人の頭がもたれかかり、ハーフコートの感触を確かめるように栗色の髪が擦り付けられる。んふぅ、というため息が聞こえると、僕はゆっくりと自分の頬を栗色の髪にあてがい、もたれかかった。
ほのかに立ち上る、典子ちゃんの香り。愛おしくも甘やかで、僕の胸の奥を浮き立たせる、極上の匂い。
車窓に流れる街の灯りをぼんやり眺めながら、今日の様々な典子ちゃんを思い出し、八重樫先生はどこまで僕たちが結ばれていると思っているんだろう、と考えていた。
たぶん、先生が思うより、僕たちは強く結ばれた。
電車が揺れるたびに頬に感じる、大切な人の存在。
ポケットの中にある、指を絡めた手が、じんわりと安心感と心地よさを与えてくれる。恋人が出来るとこんなにも景色が違うのか、と驚きを噛みしめる。
ウトウトしていると、手がギュッと強く握られて、乗換駅に停車したことを知らせてもらった。寝ぼけながら彼女に引っ張られるように電車を降りる。
向かう方面は反対なのだけど、離れたくなくて、遠慮する典子ちゃんを押し留め、彼女の最寄り駅まで送っていった。
彼女の最寄り駅の改札機手前の片隅で、ギュッと抱きしめ合う。今日はここで、本当にバイバイだ。
「慎一くん……ありがとう」
「典子ちゃん……これからも、よろしくね」
艶髪に顔を埋めるように、僕より少し背の低い恋人を抱きしめると、コクンと彼女は頷いた。
そして、名残惜しそうに身体を離していく。
「ほんとに……キィ先生を心配させちゃうから、帰るね」
もっと一緒にいたいのだが、ややこしいことになると会えなくなる。
ピッと改札機の通過音がすると、改札の向こう側に歩き出した恋人は振り向いて、恥ずかしそうに手を振った。
また、明日、学校で。
駅出口のロータリーの前で、もう一度典子ちゃんが振り向いて手を振って歩きだすと、彼女が見えなくなった。家路に向かう彼女の足取りは、弾むように見えたのは気のせいだろうか。
見送った後、自宅に帰る電車でいろんなことがありすぎた今日のことを思い返す。いろんな典子ちゃんが頭をよぎり、明日の学校が待ち遠しくなる。いや、学校が待ち遠しいのではなく、典子ちゃんと会えるのが待ち遠しい。
ブブブ、とスマホが震える。恋人からのメッセージだ。
ディフォルメされたカエルのイラストのスタンプ。ハートマークを抱えて楽しそうに躍っている。
『今日はありがとう。このスタンプ、慎一くんに使えて嬉しい。気をつけて帰ってね。また明日』
そう。また明日。スタンプと数行のメッセージでこんなに気持ちが安らぐなんて、初めてだ。
ホカホカと気持ちと身体が安堵感でいっぱいになり、そのまま電車で寝入ってしまった。
デートから数週間経った。ハロウィンを過ぎると、本格的な冬到来だ。
担当の8番機も季節商品と売上が落ちた商品を、ホット商品に入れ替えてもらっていた。いつものとおり、近くのベンチで、自分の担当が順調に売っている様子をぼんやりと眺めた。
ガタン、とベンチが揺れる。振り向くと典子ちゃんがちょこんと座っていた。手にはいつものトマトジュース。はちみつレモンはあの日だけだ。
「ハッサンの調子、良さそうだね」
隣までにじり寄ろうとしている彼女を待ちながら、僕はニコリと頷く。
あの日の翌日から、以前と同じように典子ちゃんはやってきた。
何日かは、お互いエッチしたことが強烈に思い出されて、会話がぎこちなかった。心も身体も通じているのに、結ばれたことが嬉しすぎて、なんだか恥ずかしかったのだ。
また、あんな素敵な二人きりの時間を過ごしたいけど、遊園地デートでかなり出費してしまったので、ラブホで抱き合う、なんてことはしばらくできない。
塾の友達から、人の出入りが少ない教室でエッチしたという他校の話も聞いたけど、僕たちの学校はそんな部屋は備品盗難対策として、防犯カメラが設置されているので、あいにくそんなうらやましい事は出来ない。それならお互いの自宅で、とも思ったけど、僕も彼女もそれなりに家の事情があるのでちょっとムリ。
今は、学校の帰り道の公園でキスをしたりギュッと抱き合って二人の時間を過ごすことがせいぜいだ。
でも、それでいい。
二人きりの時しか見せないであろう、自然体の典子ちゃんの表情や仕草。タレ目気味で笑う、とても優しい笑顔。そして抱きしめた時の彼女の柔らかな身体の感触、少し早い鼓動、立ち上る甘やかな女の子の香り。
エッチはしたい。だけど、エッチしなくてもこうして触れ合っているだけで典子ちゃんと結ばれているから、僕の心は満たされるのだ。彼女に無理強いなんてしたくない。
だから、身体が満たされないことは、仕方ないのでオナニーして抜いている。今度、彼女にフェラをお願いしてみたいな、とも密かに思っている。あの日もしてもらったけど、キスをしている時に感じるあの唇で再び僕のアソコを……と妄想すると、股間がドクドクと瞬時に自己主張する。
そっと手を握られて、妄想から我に返る。ちょうど人通りの切れ目で、僕たちのイチャつきが目立たないのを狙って、恋人が触れてきたのだった。
その証拠に楽しげに話している女子生徒が近づいてきたら、パッと手を離して身体も絶妙な位置へ座り直しているのだ。校内で堂々とイチャついていると、顧問の八重樫先生も示しがつかないのではないか、と僕たちは考え、学校ではなるべくイチャつかないようにしようとお互い約束した。
僕たちの前を通り過ぎる女子生徒が手に持っている飲料を見て、あれ、と思った。来た方向は典子ちゃんの担当の6番機。あの飲料は、他の自販機では売っていない。
「はちみつ……レモン?」
「クラスの友達に、ちょっとした噂話をしてみたんだ。『はちみつレモンを飲んで告白すると、好きな人が彼氏になる』って」
僕はベンチから転げ落ちそうになる。そんな発想、考えつかなかった。自分から商品プロモーションを仕掛けるなんて。きっと、来月の売上発表では、戸塚先生がこの時期にこの商品が何で売れるのか、首を傾げるに違いない。
彼女はいつものトマトジュースを一口飲むと、周囲を見回して、一気に僕ににじり寄って耳元で囁く。
「みんなに、おまじないのおすそわけ♪」
恋人はそう言うと、僕の頬に素早くチュッとキスをして、ニコニコしながらトマトジュースを飲み干した。
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