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しおりを挟むさすがに二度も平手打ちをしたせいか、か弱い私の手のひらはけっこう痛い。
これだけ痛いのだから、王子はもっと痛いのでは……。
今更少し後悔する。
いくら夢だからって、人を叩いていいものではない。
「えっと、ごめんなさ——」
「貴様! 気でも狂ったのか!」
側近が剣を私に向けてきた。剣先がキラン、と光っている。切れ味良さそう……。
「殿下! 私がこの女を……」
いや、ちょ、待って!
二度目は王子の頼みだってば!
あなた目の前で見ていたでしょう!
というか、止めなかったくせに!
「け、剣をしまってくださる? 危ないじゃないっ」
若干、挙動不審になる私。
夢だからって体を切られたくはない。
痛くないとはいえ……。 いたく、な——。
あれ。なんかおかしいぞ。
私さっきなんて思った?
か弱い私のてのひらが痛い……って。
うん、私の右手……痛いね?
おかしいよね? 夢なのになんで痛いんだろうか。自分で自分の頬を叩いてみた。
オー令嬢と王子は驚いている。
「痛いぃぃ!?」
痛いじゃない! 夢なのに!
「なんで……どうして!?」
一人で騒いでいる私を、オー令嬢と王子以外の人たちはやばい人を見る目でみてくる。
「ラテ嬢、どうかこの者たちも叩いて……いや、思いっきり殴ってはくれないだろうか」
あぁっ、王子まで狂ってしまったようだ。
側近たちを殴れだなんて!
側近たちは王子のいきなりのお願いに驚いているようで「え、殿下……?」と動揺している。
「殿下、すみません! ちょっとお待ちを!」
どうして痛いの!? え? なぜ?
これって夢じゃなかったの!?
夢じゃなかったらなんだというの!?
私はかなりのパニック状態だ。
「ラテ様? どうされましたか? 大丈夫ですか? 顔色がよくないです」
オー令嬢はその可愛らしい顔で心配そうに覗き込んできた。
「えっ!? あぁ、は、はい。大丈夫、ではないですが……はは」
「ラテ。すまないが今すぐお願いしたい。お前たち、一列に並びなさい」
王子は側近たちに一列に並ぶよう命じる。
命令なので逆らえるわけもなく、側近たちは大人しく並ぶ。
「ではラテ嬢、おもいっきり、遠慮なくいってくれ」
いや待って。それどころではないんですって。
目の前に一列に並ばされている貴族の令息たち。いや、攻略者たち。異様な光景だ。
「さぁ!」
さぁ! じゃないのよ、王子様。どうやら王子は一秒たりとも待てないようだ。
仕方ない、ヤルか。
えっと、私も王子の命令だから仕方なく殴るんだからね? 恨まないでよ?
あ、でも拳で殴るわけじゃないから安心して! だって私の手が痛くなるだけだもの。
平手打ちだからそこまでびくびくしなくても大丈夫だから。
って、ちょっと! 未来の騎士団長がそんなにびびらないでよ!
弟に至っては震える子犬に見える。
ごめんよ、弟よ。私自身に君との思い出はないから遠慮なくやれてしまう姉を許しておくれ。
「お、王子、せめて理由を教えてはもらえませんか!? なぜ私たちがこのような仕打ちを受けなければいけないのですか!?」
本当にそうだよね。 どうしてなんだろう?
私だって理由もなく叩きたくはないんだけれど……。
「すまない、今は言うことができなんだ。我慢してくれ!」
あぁ、そういう設定なのね。
口に出してしまうと意味がなくなるとか、効果がなくなるとか、何か制約があるのかな?
「さぁ、早く!」
そうして私はここへ並んだ攻略対象たちをなぜか平手打ちしていった。
スパーン!
スパーン!
スパ……
あ、ずれちゃった。ごめん、もう一回。
スパーン!
スパーン!
スパーン!
合計5人。
攻略対象をこんな形で攻略することになるとは。
叩かれた5人は呆然としている。
そして顔を上げると……。
王子と同じように晴々とした表情をしていた。
うーん、一体なんだったのかしら?
「私はいったい……」
「俺としたことがまさか」
「ラテ嬢ひどい! どうして俺は2回も!?」
「ね、姉さん……」
「すまない! ラテ嬢!」
なんだなんだ。
みなさんいったい何があったのです?
こんなことゲームにはなかったじゃない。
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