公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

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26【アルヴァートとリティシア①】

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 気付けばもう誕生日から二ヶ月ほどが経過していた。

 グレイシアさんは長い冬の休暇が終わり学園へ通うようになっていた。

 寮生活をする生徒も多いが、王都にあるウィスタリア公爵家は学園から近いためグレイシアさんは自宅から通っている。

 私は家庭教師をつけてもらってからずっと集中して勉強をしていた。学園に入るための試験まであと三年もないからだ。

 三年で座学を頭に詰め込まなければいけないし、実践的な魔法も使えるようにならなければいけない。この国の常識も、マナーも必要だ。

 正直、一番大変なのはマナー講座だった。王立学園では貴族も平民も関係なくマナーは重要視されているからだ。

 姿勢正しく、上品な仕草に、女性らしい話し方……とにかく私には難しかった。なのでセレスさんやアリシティアさんをこっそり参考にさせてもらっていた。

 きっとそのうち話し方にも慣れるはず、多分。

 間違えるとピシッと叩かれて地味に痛い。
 
 最初はついていくだけで大変だったけれど、今は学ぶことが本当に楽しい。

 勉強漬けの毎日で、私は気分転換に離れの周りを散策するようになっていた。
 
 ずっと部屋の中にいると気が滅入ってしまう。

 セレスさんも離れの周りなら散歩をしていいと言ってくれた。公爵家はとにかく敷地面積が広いので、迷子になる可能性があるし、湖や岩山などもあって危ないそうだ。ん? 山!?

 それと、私が散歩をしている理由。
 それは双子を探しているためだ。

 実は離れの部屋の窓からふと外を見たら、双子がこちらの様子をうかがっていたのだ。

 目があったらどこかへ行ってしまったけれど。

 こちらを気にしていたように見えた。それが好意的なものなのかはまだわからないけれど。

 わざわざ離れに来ていたのだ。気にならないわけがない。

 もしあの子たちと話せる機会があるのなら一度話をしてみたい。

 もしかしたらまたあの子たちを傷付けてしまうかもしれないし、私が嫌なことを言われてしまうかもしれない。

 でも、あの時のことをちゃんと謝りたい。

 それから毎日時間があれば散歩をするようになった。何度か姿を見かけても、こちらに気付くと逃げられてしまった。

 なぜずっとここへ来ているの? 
 どうすればあの子たちと話せる?

 いっそ、待ち伏せをしてみようか。
 それとも近寄ってきてくれるのを待つべきか。

 考えてみたけれど、やはりこちらから距離を詰めるのはよくない。

 ということで、私はわざと外で自習して過ごした。ついつい天気が良くてうっかり寝てしまった時もあったけれど。

 そして機会は突然やってきた。

 今日もいつものようにお昼の時間を外で過ごしていた。けれどまた眠ってしまって。

 人の気配に目を覚ますとすぐ近くに双子がいた。

「あ」

 双子はいきなり起きた私に驚いていつものようにすぐに逃げ出した。

「お願い、待って!」

 逃げる双子を私は追いかけた。

 怖がらせてしまうかもしれないけど、手を伸ばせば届く距離に自ら近付いていたのだから。

 けれど双子はそれはもう足が早かった。

 私の方がかろうじて歩幅があったためか二人に追いつくことができた。

 リティシアの手を怪我をしないよう優しく掴んだ。
 
 リティシアは驚いた顔をして止まった。すぐに振り払われると思ったのに、リティシアがそうすることはなかった。

 代わりにアルヴァートが声を荒げてきた。

「その手を離して!」

 私はすぐにリティシアから手を離す。

「リティシアに触らないで!」

「ごめんなさい、でもどうしてもあなたたちと話がしたくて……」

「僕たちは話なんかないよ!」

 ならどうして私を見ていたの? と疑問に思ったけれど、余計怒らせてしまいそうだから言わないでおいた。

「私にはあるの。あの日、二人を傷付けてしまって本当にごめんなさい」

「っ!」

 アルヴァートの顔が真っ赤になった。
 結局怒らせてしまったようだ。

「なんで……」

「え?」

「なんで……父さまも母さまも、兄さまも姉さまも君にかまうの!? 僕たち、わがまま言わないで我慢してるのにっ。こんな風になるなら、いいよ、なんて……言わなかったのに!」

 そのままアルヴァートは走り去ってしまった。

 リティシアはアルヴァートを追いかけずに私の方を見ていた。

「あのね」

「え?」

 逃げないでいてくれたリティシアに話しかけようとしたけれど先にリティシアが言葉を発した。

「アルヴァートは……」

「うん……」

「アルヴァートは、あなたに嫉妬してるの」

 え、嫉妬? それは思いもよらない言葉だった。

「あの日は、私もアルヴァートもすごく悲しい思いをしたの。でも、父さまと母さまからちゃんと話を聞いて今はもう怒ってないよ。だって、フィーリア姉さまは優しいから、あなたにワンピースをかしてあげると思ったの」

「うん、ありがとう」

 続きを話してもらえるようできる限り優しい声で話しかけた。

「でも、こっちに戻ってきてからずっと、みんなあなたのことを気にしてる。だから、アルヴァートは嫉妬してるの、家族をとられちゃうって。私はそんな子どもみたいなこと言わないわ。違うってわかってるもの。でもアルヴァートはそうじゃないみたい」

「そっか……話してくれてありがとう。でも私はただここでお世話になっているだけなの。公爵家のみんなはとても優しくしてくれるから……」

「うん、みんな優しいから、わかるよ。でも私はアルヴァートの味方だから。アルヴァートが傷付くのは嫌なの。でも、あなたも悪くないの……」

「うん……」

「だから、アルヴァートがちゃんと気持ちの整理ができるまで待ってくれる? 本当はアルヴァートもあなたのこと気にしてると思うの。じゃなきゃここに来ないもの」

「うん、待つよ、いくらでも」

「ありがとう。じゃぁ行くね。バイバイ」

 そうしてリティシアもアルヴァートの行った方向へと走っていった。私はその後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。
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