誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

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一章 一度目の人生

21【ソフィアのメイド、リタ】

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「公女様!」

 その時、パタパタと駆け寄ってくるメイドが見えた。どうしてこうもタイミング悪く……いえ、タイミング良く現れるのか。

 メイドの表情はとても怒っているように見えた。それも、私に向けた怒りだ。

「公女様、大丈夫ですか!?」

 いきなり現れたメイドにソフィアは驚いた。もちろん、私も。
 メイドが急いで私たちへ駆け寄り、私からソフィアを引き離した。まるで今まさに私が危害を加えようとした瞬間のように。
 
 その勢いにソフィアはよろめき、小さな悲鳴を上げた。

「っ、危ないじゃない」

 けれど、メイドは私の言葉を無視した。

 このメイドはたしか、フレイアさんが連れてきたメイドだ。メイドは泣いているソフィアの様子を確認した後、私を思いっきり睨んだ。

「公女様になんてことを! こんなに泣かせるなんて!」

「……なっ!」

 どうしてそうなるの!?

「リタ、違うの! お姉さまは悪くないの……!」

「公女様、会場から勝手にいなくなってはいけません。皆様がとても心配しておりましたよ。私たちがどれだけ必死にお探ししたことか……」

 そう言ったメイドは、汗を流しているわけでもなく、息を切らしているわけでもない。
 一体どれだけ"必死に"探したのだろうか。

「ごめんなさい、私、お姉さまにお会いしないといけないと思って……。それにリタが……」

「そんなことで招待客の方々をお待たせしてはいけません」
 
「リタ、そんなことではないの。私は、」

「公女様」

 このリタというメイドはソフィアの話を遮った。メイドならば、仕える人の話をこのように強く遮るなどあってはならないことだ。

「シアお嬢様、この事は奥様に報告させて頂きます」

 メイドはソフィアの涙を拭きながら、私の顔すら見ずに言う。

 このリタというメイドは今、フレイアさんのことを奥様と言った。あの時のメイドも奥様と言っていたけれど……まさかフレイアさんは侯爵家に籍が入ったとでもいうの?

「報告って……何をどう伝えるのかしら? 私がソフィアをいじめて泣かせたとでも言うの?」

「あら、違うとでも言うのですか? あぁ、お可哀想に……ソフィア公女様はこんなに泣いておられて。あなたがひどいことを言って泣かせたのではありませんか!」

「リタ! 本当に違うの……! お母さんに変なことを言うのはやめて!」

 ソフィアはメイドに懇願して、余計に泣いてしまう。このメイドはどこから私たちの話を聞いていたの?

 誤解されるような会話ではなかったはずだ。
 むしろ私が泣きたいぐらいなのに。

「いいえ、公女様。それはできません。ソフィア様は公女なのですから、この方とは身分が違うのです。お分かりください」

「リタ! やめて!」

「……今、何と言ったの?」

 メイドを睨みながら聞く。
 私の聞き間違いでなければ、身分が違うと言ったのだろうか。私に?

「えぇ、そうです。あなたと公女様は身分が違うと言ったのです」

「………!」

 聞き間違いなどではなく、このメイドはもう一度はっきりと言った。

「リタ、と言ったかしら。あなたのその態度は到底許されるものではないわ」

 私はこの侯爵家の娘だ。メイドがこのような態度をしていいはずはない。

「"こういう態度"をしているのは私だけでしょうか? それにいったい誰が許さないというのです?」

「なっ、」

 メイドはふふっと笑い、小馬鹿にしたような表情を隠そうともしない。
 あまりにも堂々たる態度に、私の方が気圧されてしまった。まさか本人を前に、ここまで言うとは思っていなかった。

「リタもうやめて! お姉さまになんてこというのっ」

「さぁ、公女様。会場に戻りましょう」

 メイドはもう私の方を見ていなかった。

「お姉さま、ごめんなさい、私がばかだった……。私がちゃんと考えていれば……」

 ソフィアは泣きながら、私へ謝ってくれる。
 私が聞かされて嫌なことだったとすぐに分かってくれた。
 
 「さぁ、行きましょう公女様。みなさんがお待ちですよ。あぁ、でも……こんなに泣き腫らした目で戻られたらみなさんどう思うでしょう」

 メイドは半ば無理やりソフィアを連れて行く。
 ソフィアは「お姉さまっ」と、まだ何かを言いたそうにしていた。

 私も振り返ることなく、足早にその場を離れた。
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