誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

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二章 二度目の人生

55【お兄様のお誕生日パーティー①】

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 今日はルカお兄様の十歳の誕生日。
 そう、お披露目パーティーの日だ。

 私のパーティーは中止になってしまい、開かれることはなかったけれど——。


 遡る前の私も参加はしていたけれど、ただ一人でずっと隅っこにいるだけだった。お父様とお兄様と一緒にいるのがなんだか嫌だったから。

"ルカ公子は七歳で早くも発現されたとか! 侯爵様もご息女の発現がさぞ楽しみでしょうな"

"……あら? シアお嬢様は八歳になられたのに魔力の方はまだでしたのね"

"他の六家のご子息たちの中には、すでにその才能を発揮して……"

"では、お嬢様のご婚約は……"


 子どもの私にはつまらない話ばかりだった。
 婚約の話までしてくるとは、今思えば大きなお世話だ。

 八歳になってもまだ何の魔力も感じることのできなかった私を見るお父様とお兄様の目が嫌だった。

 十歳以下の子どもたちはこのパーティーには参加していない。他家のパーティーに参加できるのは十歳を迎えてからだから。

 お茶会などは別だけれど、正式なパーティーには参加できないのだ。

 他の家の子どもたちと比較されるのも嫌だったから、私にはありがたいものだった。

 祝事のはずなのに、とても気が重い。
 嫌なことばかりを思い出してしまうから。

 今回も、前と同じように放って置かれるのかしら……。

 お父様とお兄様と、あれから特に進展があったわけではない。

 私が一方的に挨拶をしに行くだけ。

「はぁ……」

 つい、大きなため息をついてしまう。

「お嬢様、どうされましたか?」

 リリーが私の髪の毛をセットしながら心配そうな表情をしている。

「ううん、なんでもないの。参加するの、気が重いなぁって。侯爵家の者して恥ずかしい行動をしないよう気を付けないといけないし……」

「そうですか……たしかに貴族の方が大勢来ますし、大人ばかりですからね。ずっと気を張らないといけのは疲れちゃいますよね」

「うん、本当つまらない……」

「私もご一緒できたらよかったのですが」

「仕方ないわ。リリーはまだ若いんだもの」

 リリーはまだ十代半ばと若いからなのか、パーティーへの付き添いを許可されたことがない。
 ソフィアのパーティーに参加できなかった理由はわからないけれど。

「さぁ、お嬢様。出来上がりましたよ! とっても可愛いです!」

「ありがとう、リリー。本当に可愛くて素敵な髪型だよ」

 髪を綺麗に巻いてくれて、編み込みまでしてくれた。着ているドレスと良く合っていて、とても嬉しくなった。

「いいえ~。可愛いのはお嬢様ですよ!」

 準備ができ、会場である大広間へと向かう。

 お父様とお兄様はすでに来ており、招待した皆さんとすでにお話をしていた。

 娘である私がこんなにのんびりでいいのか疑問だけれど、時間通りだから問題はない、はず。
 どのみち、早く行っても私にできることはないからね……。

 邪魔にならないようこっそり入ったのに、執事がお父様に合図を送り私が来たことを知らせてしまった。

 お父様は簡単な挨拶のあとお兄様と私を紹介し、今回のパーティーの主役であるお兄様が挨拶をした。

 以前はお兄様の挨拶が終わったら各々招待客のところへ行き、私は隅っこで壁と一体化していた。だから、安心していたのに。

 それなのにお兄様が突然こちらを向いて驚いた。

「お前も何か一言」

 はい……?
 お兄様、今なんて言いました?

 聞き間違いでなければ、一言っていいました!?
 自慢ではありませんが、遡る前も含めパーティーにまともに参加したことがほとんどないのだから、人前での挨拶なんてとても無理です!

"早くしろ"

 お兄様の目から無言の圧力。
 お父様もこちらを見ているだけで、止めるような素振りはない。

 自然と私に集まる視線。

 人を品定めするような嫌なものから、侯爵家の長女を初めて見る人の好意的な視線まで様々だった。

 会場をゆっくりと見渡した。

 遡る前に、私を侮辱した者がどれだけここにいるのだろう。ここにいる貴族の子どもたちにされたことをはっきりと覚えている。

 忘れるわけがない。
 忘れたくても、心の奥がしっかりと覚えている。背中も、手のひらも嫌な汗が流れている。

「……みなさま、はじめまして。シアと、申します。本日は兄のために…、お越しいただき、ありがとうございます……。あの、」

 私の声は震えていないだろうか。
 上手く笑えているだろうか。

 上手く話さなくちゃ、失敗なんて許されないと思うのに、それ以上言葉が続かなかった。

 黙ってしまった私を見る貴族たちの目が嘲笑っているかのように見えた。これ以上口を開いたら、終わりだと思った。

 兄へと視線を戻し、これ以上は無理だと目で訴える。

「はぁ……」

 お兄様は小さくため息をつく。

 あぁ、がっかりさせてしまった。
 私がちゃんと挨拶をすることができなかったから。

 私は下を向いたまま顔をあげることができなかった。お父様はこんな娘をどう思ったかな。

 そのままパーティーは続けられ、お父様は他の貴族の元へと行ってしまった。

 もう、私も早くこの場から離れよう——。

 急いで壁と一体化しなければと足を動かそうとしたその時、お兄様が声をかけてきた。

「なんだ、あれは」

「申し訳、ありません」

「いや、いつもの勢いはどうした」

「……え?」

 なんだか悔しくて涙がにじんでしまう。
 他の人からすれば泣くほどのことではないのだけれど。

 でも、私は正直とても怖かったのだ。
 貴族たちを前にして嫌な記憶が思い出されて上手く話せるわけがないのに。

「べ、別に怒っているわけではない。いつもの調子はどこへいったんだ? 体当たりしてくるんじゃないかというほど勢いがいいのに……」

「た、体当たり……?」

 お兄様にそんなことをしている覚えはない。

「は? しているだろう。それなら朝のあれはなんだ?」

「え、?」

「いや、いい。俺は父様のところへ行くからお前は大人しくデザートでも食べてろ」

 そのままお兄様はお父様のところへと行ってしまった。

 ポツンと残された私はこのままここにいると目立ってしまうため急いでその場を離れた。

 幸い、私に話しかけてくる人はいない。

 位の低い貴族たちはお父様とお兄様となんとかしてコネでもできないかと考えているからだ。

 侯爵家では食事会もお茶会も、パーティーも開かれることはない。

 そして、お父様たちが他の貴族のパーティーに参加することもほとんどない。

 だから、こんな時しか話せる機会はないから。

 壁と一体化しながら先程のお兄様の言葉を思い出す。

 朝の、体当たり……?

 え、もしかして私がいつもめげずに声をかけていた朝のご挨拶のこと?

 お兄様を待ち伏せして"おはようございますっ!"と言っているあれだ。

 そんなに勢いが良かったのかな。
 もしかして迷惑だったのかな。

 たしかに、兄からすれば毎朝勢いよく飛び出してくる変な妹にしか見えなかったのだろう。
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