頭の中が少々お花畑の子爵令嬢が朝から茶番を始めたようです

文字の大きさ
3 / 5

しおりを挟む
「魔法の模擬戦の時に……」

 ララさんが話し出したところで、騎士団長の息子であるダミアンが教室へと入ってきた。ダミアンとは幼馴染だ。

 教室内のよくない雰囲気に表情が固くなる。そしてダミアンの後ろにはリカルド様が……。

「あぁ! ちょうどよかったです、ダミアン様っ!」

 教室へと入っていきなり声をかけられてダミアンの表情が訝しげになる。まぁ、声をかけてきたのがララさんなので当然の反応ではありますが。

「ダミアン様っ、模擬戦のこと覚えていますか?」

 あぁ、やめて。
 それはクラスメイト全員が思ったことだろう。
 もちろん、ダミアンの表情も……もう見なくても分かる。

「グレイス様がダミアン様に勝つなんておかしいですよね? だってダミアン様は騎士団長の息子なんですもの! 未来の騎士団長が女の子に負けるなんてありえないです!」

 ダミアン、怒ってる。すごく怒ってるよ。

 私はこの茶番を止めて欲しくてリカルド様に視線で合図を送る。すると、リカルド様に思いが伝わったらしく、ウインクで返してきた。

 あぁ、よかった。これでこの場も……。

「それで? それがどうしたんだい?」

 それはリカルド様だった。
 違う、違う! 違います、リカルド様! この場を止めていただきたかったのです!

 リカルド様の言葉にララさんは気を良くしたのか、またぺらぺらと話し出した。

「ですので、きっとグレイス様がダミアン様にわざと負けるように言ったんだと思うんです! だってグレイス様は未来の王子妃じゃないですか? 傷を付けるわけにもいかないですし、そういうことなんですよね? リカルド様っ」

「ほぉ」

「だ、だめです、リカルド様……落ち着いてください」

 いつもにこにことしていたリカルド様が急に笑わなくなり、クラスメイトたちの表情は引き攣ってある。あぁ、これはやばいんだな、と。

 ダミアンに至っては怒っていた顔から泣きそうな顔になっている。そうですよね、あんなことを言われては……。

 プライドを傷付けられてしまったのだから。

 あの時の模擬戦が真剣なものだったとララさん以外の人たちはみんな知っている。

 真剣に勝負をして、ダミアンは負けたのだ。本気の勝負に負けて、それをわざと負けたんだと言われては。

 けれど、あの時の模擬戦は魔法を使った試合だったから私が勝てたのだ。実際、他の模擬戦で一度も勝てたことはない。負けず嫌いの私にはとても悔しいことだけれど。

「ということは、ララ嬢が言いたいのはこういうことか? ダミアンとグレイスが八百長をしたと」

「え? や、お……?」

「そういうことなんだろう? ダミアンがわざと負けるよう、私の婚約者の立場を利用してグレイスが指示をしたと」

「えっと、」

「騎士団長の息子であるダミアンと、聖騎士団長の娘であるグレイスが八百長か。それが本当なら大変なことだ」

「いえ、えっと、リカルド様、あの……」

 ララさんはいつもと違う雰囲気のリカルド様に圧倒されてしまい、言葉が出てこないようだ。

「ちなみにララ嬢、私はその呼び方を許可した覚えもないし、グレイス以外に許可するつもりもない」

「え、で、でもっ! 学園内ではみんな平等のはずですっ! だから、」

「平等であっても、立場というものは弁えてもらわねば困る。君は何度もグレイスに注意されていたはずだ」

「す、すみません……」

「さて話を戻すが、このことは陛下に伝えて調べてもらった方がいいだろう。騎士団長の後継者がそんなことをしていたなんて、あってはならないことだからね。そして証人はもちろん、君だ。あぁ、君の家門にもぜひ協力を頼もう」 

 君だ、と言われてやっと気が付いたようだ。自分がしでかしてしまった事の大きさを。

「いや、その……」

「どうしたんだい? 君が言い出したんだろう」

「ご、ごめんなさい……」

「何が?」

「証拠なんて、ありません。私が勝手にそう思っただけで……」

 ララさんは一歩、また一歩と後ろへ下がっていく。決してリカルド様が近寄っていっているわけでもないのに、その圧の恐ろしさに後ろへと下がってしまっている。

「では君は、証拠もないのに自分の思い込みだけでなんとか二人を陥れようとしたのか」

「違いますっ、陥れようだなんて思っていませんっ!」

「じゃぁ、なんだと言うんだい?」

「えっと、そ、そうだ! リカルドさ……いえ、リカルド殿下っ。私の教科書をグレイス様が破いたんですっ! これは本当です! だって証人がちゃんといるんですもの!」

 この場の全員が「まだ懲りないのか」と思ったに違いない。リカルド様の前でその婚約者である私に罪を着せようとしているのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄した王子が見初めた男爵令嬢に王妃教育をさせる様です

Mr.後困る
恋愛
婚約破棄したハワード王子は新しく見初めたメイ男爵令嬢に 王妃教育を施す様に自らの母に頼むのだが・・・

婚約破棄裁判

Mr.後困る
恋愛
愛国心溢れる大公令嬢ヴィーナスは 自身の婚約者を誑かしたマーキュリー男爵令嬢を殺害した その裁判が今、行われる・・・

【完結】“自称この家の後継者“がうちに来たので、遊んでやりました。

BBやっこ
恋愛
突然乗り込んできた、男。いえ、子供ね。 キンキラキンの服は、舞台に初めて上がったようだ。「初めまして、貴女の弟です。」と言い出した。 まるで舞台の上で、喜劇が始まるかのような笑顔で。 私の家で何をするつもりなのかしら?まあ遊んであげましょうか。私は執事に視線で伝えた。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

隣の芝生は青いのか 

夕鈴
恋愛
王子が妻を迎える日、ある貴婦人が花嫁を見て、絶望した。 「どうして、なんのために」 「子供は無知だから気付いていないなんて思い上がりですよ」 絶望する貴婦人に義息子が冷たく囁いた。 「自由な選択の権利を与えたいなら、公爵令嬢として迎えいれなければよかった。妹はずっと正当な待遇を望んでいた。自分の傍で育てたかった?復讐をしたかった?」 「なんで、どうして」 手に入らないものに憧れた貴婦人が仕掛けたパンドラの箱。 パンドラの箱として育てられた公爵令嬢の物語。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

断罪するならご一緒に

宇水涼麻
恋愛
卒業パーティーの席で、バーバラは王子から婚約破棄を言い渡された。 その理由と、それに伴う罰をじっくりと聞いてみたら、どうやらその罰に見合うものが他にいるようだ。 王家の下した罰なのだから、その方々に受けてもらわねばならない。 バーバラは、責任感を持って説明を始めた。

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

処理中です...