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第一章

第一章1「異世界転生」

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 ある16歳の男がいた。その男はとても勉強熱心で、住んでいる場所で一番偏差値の高い県立高校に進学した。部活はバスケ部に入り、9月には、先輩を超えるような実力を持つようになり、文武両道、よくできる男だった。唯一の趣味はラノベやアニメだった。
 ある日、いつも通り部活終わりに家で勉強をしていた時に、目の前が真っ暗になる。これが死か、と感じるほど、苦しかった。しかし、死んでなんかいなかった。その事を親に伝え、翌日病院に行った結果、医者には寝不足だと言われた。親にも、早めに寝るよう注意された。
 しかし、甘えていたら、いい大学に行けない。学年1位が取れない。自分の価値がなくなってしまう。それは、死同然だ。
 一週間後、その男、セイナは、睡眠不足で死亡した。



 ある16歳の女がいた。その女は重度のラノベ中毒で、日々、自分に合うラノベを探していた。学校は偏差値50の商業高校に通っており、順位は100位すなわちワースト20位くらいをずっとキープしている。地頭はいいが、勉強はあまり好きではない。部活には入っておらず、塾などにもいっていない。そんな女だった。
 ある日、いつも通り本屋さんに向かっていた。一日の楽しみはここしかない。そんな気持ちで横断歩道を渡っていたら、視界の左側から何か黒い影が、と思った時にはもう遅かった。轢かれたのだ。
 一時間後、その女、リアは、交通事故で死亡した。



 視界が開ける。ここはどこだろう。そう考えるのは、黒髪の短髪で、身長は173cmほどあり、いつも死んだ目をしているセイナである。
 視界が開ける。ここはどこ?そう考えるのは、茶髪のボブで、身長は150cmほどと小柄であり、綺麗に顔が整っていて何度も見返したくなるような、そんな顔つきをしているリアである。
 そこはプラネタリウムを再現したような場所だった。が、二人はそんな所言った覚えがないので、気づく。
 俺は、私は、死んだのだと。
 そこに女の声が混ざる。

「やあ。君たち。」

 かなりフランクな感じの雰囲気を出しているのは、神々しいオーラを放った人、いや人ではないなにかだった。
 神々しい、の文字通り神かもしれないと思わせるような存在感だった。

「君たちは、どうしたいかな?」

 なにかは問う。

「異世界に行きたい!」

 と、女は答える。その心中では、ラノベと同じ展開でわくわくする気持ちでいっぱいだろう。

「異世界?本当にそんなものがあるのか?」

 と、男が言う。ラノベを読んでいるため、異世界モノにもたくさん出会ってきた。しかし、それが現実に起こりうるとは微塵も思っていない。

「ほお、異世界。いいだろう。お前ら二人とも異世界で過ごすがいい。」

 そう言い、なにかは詠唱らしきものを唱える。

「――メタスタシス」

 そう聞こえると――――。



「うっ。ここは。」

「ん?ここって。」

「「異世界だ。」」

 転生して、目を覚ますと、洞窟にいた。そこはアニメの見るような幻想的な場所で、確か地球にもこんな感じのところあったなと思っているのは。二人ともである。

「ねえあなた。名前は?」

 女は、テンション高めに質問する。

「セイナだ。あんたは?」

「私はリア。―――ここが異世界か~~!!」

 本物の異世界だ。早く冒険してみたいな。
 そう心の中で思い、我慢できなくなり、口にする。

「あなた、いやセイナ、私たち、一緒に冒険しない?」

 そう質問する。
 俺はもう、勉強や部活の地獄から逃げられるんだ。しかも、唯一の趣味に繋がるところに来てるし、そりゃもちろん答えは、

「するか!!」

 自信満々に答えた。




「まずギルドに行こう。だいたい異世界モノってそうでしょ?あれ?せいなってラノベとかアニメとか知ってる人?」

「ああ知ってるよ。唯一の趣味だ。」

「えー!同じじゃん!ラッキー!」

「へーそうなんだ。で、ギルドに行きたいのはわかるけど、ここ洞窟だよ。ひとまず出ないとここがどんなジャンルの世界かが分かんないじゃん。」

「確かにー!頭いいね!!」
 お前が頭悪いんじゃないか?まあそんなこと言ったら怒ってきそうなタイプの人そうだし言わないことにするか。


「ん?なに?」

「え?」

 心が読まれてる?いや、そんな訳ないか。

「ごめん。前の世界のこと色々考えてた。」

「そういえば、せいなは前はどんな人だったの?たぶん同い年でしょ。何歳?」

 質問を一気にするな。本当に頭悪い奴なんだな。

「16だ。あんたは?」

「同じ!!やっぱりね。」

「俺は勉強に全振りしてた。それだけだよ。」

「うぇー。気持ち悪ー。」

 やっぱり頭悪い。キレそう。

「でも、そんなのもう気にしなくていいって考えると気が楽だなー。」

「確かにね。私もあんな世界もう嫌だと思ってたし。」

 気まずい。

「よし。進むか。」

「どっちに?」

 周りを見渡すと、穴が7個ある。俺たちはおそらく洞窟の一番でかい空洞に来たと考えるのが一般的かな。

「とりあえず俺からみて左に行きます。」

「なんで?」

「俺が左利きだから。」

「―――」

「え?文句ある?どうせどこに行っても同じでしょ。」

「それはそうだけど。適当過ぎない?」

 お前には言われたくない。

 30分後、左の穴を進み歩いていると、光が見えてきた。おー運がいい。

「見て!せいな!光!出れるよ!」

 まじでうるさい。

「そうだな。……リア。」

「何?」

「もうちょっと静かにしてくれねえか?ここは洞窟だ。お前の高い声が響いて耳が痛い。」

「何その言い方。でもごめん。ちょっと興奮しすぎた。」

 自分の客観視できて謝罪もできる。実はこいつ、頭いい?

「確かに俺もデリカシーがなかったな。すまん。――――着いたぞ。」

「うわー!!すご!!」

 目の前に広がるのは、だだっ広い草、その奥に町らしきものがある。

「あー!町だー!ギルドギルドー!」

「気を付けていくぞ。草原から何が出てくるか分からない。見た感じファンタジー世界っぽいからな。」

「なんでそれが分かるの?」

「勘だ。」

「え?」

 そして二人は町に向かう。
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