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第一章

第一章19「謎の浮島」

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 空を見上げると、うっすらと浮いている島が見える。
 今まで、空なんか注意してみていなかった。リアが見ていなかったらずっと見つからずに放っていたかもしれない。
 すぐにここから飛んで、行ってみるのもいいと思うが、あまりにも情報がない。
 もし、やばい奴らの基地、とかだったら死にかねない。
 受付の人が一番信用できるが、なるべく早くあの島についての情報を得たい。
 テクノロジアにあの島について研究している人はいるだろうか。
 その一筋の希望を信じ、テクノロジアに戻る。

「リア、町に戻るぞ。」

「え?行くんじゃないの?」

「何があるのかも、そもそもどんな場所かもわからないところに行って死んだら元も子もないだろ?まずは情報を集めて、行っちゃいけないようなところじゃなかったら行くことにする。」

「たまには捨て身覚悟で行ってみたほうがおもしろいのに。」

 小声で言っているようだが聞こえている。
 この世界で死んでしまったらどうなってしまうのか。
 せっかくこんなに楽しい世界に来たのだから死ぬわけにはいかない。
 リアには申し訳ないが、この意見は曲げられない。

「情報が集まったらすぐ行くから手伝ってくれ。」

 どうせコミュ障だから話せないだろうが。

「はーい。」




 テクノロジアに戻り、相変わらず歪な町だなと思いつつ、研究所を回る。
 何度も研究所を訪問してきた結果、一人一人の研究課題を持っている、というのが分かった。

 これで6か所目だ。
 いままでの研究者は大体の人が魔法について研究していた。
 尋ねてすぐに帰るほど礼儀知らずではないので、一応全員の話は聞いてきた。

 一人目はたしか、魔法の暴走について研究していた。
 その人が言うには、魔法を撃っていると稀に驚くほど強い魔法が出るらしい。
 にわかに信じがたいが、よくあるゲームでいう会心の一撃、というところだろうか。

 二人目はこの世界の天気について研究していた。
 その人は、天気周期説というものを自慢げに話してくれた。
 今のところ晴れと曇りしかこの世界の天気は見ていないが、その人が言うに、1年に1回、雷鳴の日というものがあるらしい。
 その日は誰も外出しないがゆえに、世界中から生きものが消える感覚が味わえると言っていた。
 その人が外出しているのだから誰も、というのはおかしいのではないか、と思ったが言わなかった。

 三人目はマナについて研究していた。
 人にはマナを貯蓄する器みたいなものがあり、その器の大きさは努力次第で変わるらしい。
 魔級の詠唱を教えてくれたあの人はマナは生きていると言っていた。
 しかし、三人目の人はマナはただの概念だと言っていた。
 リアは顔をゆがめていたが、俺はなんとなく理解できた気がする。
 哲学的な話だが、面白い考えだと思った。
 しかし、現に治癒魔法でマナを見た以上、マナは生きていると思いたい。

 四人目は三つ巴モンスターについて研究していた。
 三つ巴モンスターというのはゴブリン、ハーピー、エルフのことらしい。
 たしか北の王国の戦力だった気がする。
 なぜ三つ巴モンスターというか聞いて、簡単にまとめると、じゃんけんらしい。
 あの三体が対立するとしたら、ゴブリンがエルフに強く、エルフがハーピーに強く、ハーピーがゴブリンに強いから三つ巴というらしい。
 それらが協力している以上北の王国は中央王国視点、厄介な敵だと思った。

 五人目はテンセイシャについて研究していた。
 その単語を聞いた途端、冷や汗がすごかったが、なんとか耐えた。
 昔の記録を残した書にテンセイシャについて書かれていたらしい。
 その書によると、テンセイシャはなにかしらの能力を持ち合わせており、優れた身体能力、動体視力などを持っているらしい。
 俺にはそんなものないと思うが、決めつけるにはまだ早い、もしかしたらまだ能力が隠れているかもしれない。
 それと、俺たち以外にも転生者いるかもしれないという期待も生まれた。

 そして、このドアの向こうに六人目がいる。

 コン、コンとドアを叩く。
 どうやらベルはないらしい。

 ガチャ。
 とドアが開き、姿勢が悪いが背は160cmくらいあると思われる若い女が顔を見せてきた。

「すみません。知りたいことがあるんですけど。もしよかったらでいいんですがあなたの研究課題?みたいなのを教えてもらえると嬉しいです。」

 これで五人全員が引っかかった。
 自分の研究を知られることは嬉しいことらしい。

 案の定、

「いいよ。入って。」

「ありがとうございます!」

「セイナ、すごいね。女の人ともしっかり会話してる。」

「リアは女の人だったら話せるのか?」

「無理です。」

 そうか。コミュニケーション能力でも与えてやりたいものだ。
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